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3.王と妾の女
しおりを挟むイシェリアは長い茶色の髪を跳ねさせ、コザックの部屋へと小走りで向かっていた。
(陛下の今日の事務作業は、これで終わり……。陛下、褒めてくれるでしょうか……。頭を撫でてくれるでしょうか)
淡い期待に胸を膨らませながら、到着したコザックの部屋の扉をノックする。
「入っていいよ」
愛しき人の声が部屋の中から聞こえ、イシェリアは湧き立つ喜びを抑えながら扉を開けた。
「ノックの音からイシェリアだってすぐに分かったよ。何か用事かな?」
イシェリアはコザックの声に笑みを浮かばせて顔を上げ――、部屋の中の光景を見て、身体と表情がそのままピシリと固まった。
コザックの大きく豪華なベッドの上には、上半身裸の彼と、同じく上半身裸の女が足を伸ばして毛布を掛けて座っている。
彼の手がすぐ隣にいる女の肩を抱き、彼女は彼の身体に寄り掛かり豊満な自分の胸を押し付け、こちらを見て鮮やかな朱い唇の端を持ち上げ笑っていた。
……経験が無くても、イシェリアは分かった。
この状態と、漂う何とも言えない空気は、陛下とその女性――メローニャさんが、身体を重ねた後だ……と。
コザックの『一番』に愛する人がメローニャだと分かっていても、その光景に耐え切れず、イシェリアは思わず顔を逸らしてしまった。
「……イシェリア。どうして私から目を背けるんだい?」
コザックの、少しだけ怒りを含んだ声がイシェリアに向かって飛んでくる。
「あ……。そ、その……。お姿、が……」
「姿? ――あぁ、私の裸を見て恥ずかしがっているのかい? ふふっ、初々しいな、イシェリアは。本当に可愛くて堪らないよ」
コザックは碧色の瞳を細めて微笑むと、目に掛かる灰色の髪を掻き上げ、ゆっくりと立ち上がってベッドから降りた。
下はちゃんとスラックスを履いており、イシェリアは内心ホッとする。
コザックは俯くイシェリアのもとまで来ると、彼女の細く華奢な身体を自分の腕の中に閉じ込めた。
「あっ……」
「愛しく可愛い私のイシェリア。君は私から決して目を逸らしてはいけないよ。君のその黄金の瞳は私だけを映せばいい。君は私だけのモノなんだから。君はずっと一生私だけを見ているんだ。他の男を見るなんて許されない。いいね? 愛する私のイシェリア」
「……はい……。私も陛下だけを愛しております」
耳元で囁かれる低い声音にゾクゾクと震えながら、イシェリアは頬を染めて頷いた。
「ふふ……。ところで、用事はその書類の束かい? 私の仕事はそれで終わりかな?」
「あ……はい。一度御確認頂けますでしょうか?」
「よくやった。後で確認をしよう」
コザックはイシェリアから書類の束を受け取ると、脇のテーブルに乱暴に投げ置く。
そして、突然イシェリアのドレスを、胸元からビリッと豪快に破った。
「えっ!?」
イシェリアの持つ数少ない貴重なドレスが躊躇なくコザックによって乱暴に破かれ、そのドレスは床へと落ちる。彼女は肌の露出が多いシュミーズ一枚になりながら呆然とした。
「へ、陛下――」
「書類の件はいいとして、私から少しでも目を背けたのはいけないな。君の眼差しも私だけのモノなのに。これはいつものように“お仕置き”が必要だな、イシェリア?」
「……っ!!」
“お仕置き”と聞いて、イシェリアの瞳がはちきれんばかりに大きく見開き、身体がブルリと震え上がる。
コザックはベッドの下から隠していた鞭を取り出すと、それを軽く振った。ビュンッと鞭が風を切る音が聞こえ、イシェリアの顔が見るからに真っ青になっていく。
「ど、どうか……。どうかお赦し下さい、陛下――」
「これは君の為なんだよ? 私の可愛い可愛いイシェリア」
コザックは美麗な顔にニィ、と笑みを浮かばせる。
――そして、彼の持つ鞭がしなやかに宙を舞った――
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