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4.鬼畜な王 *

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「……イシェリア。私の可愛い、可愛いイシェリア。君の白く美しい肌に、赤い色が映えてとても綺麗だよ」


 身体中に鞭で叩かれた赤い痣を浮かばせて、シュミーズを脱がされた全裸のイシェリアはへたり込んでいる。
 そして、震える両手を床につきながら、涙で濡れた瞳を弱々しくコザックに向けた。


「――あぁ……。その涙も、その濡れた黄金の瞳もとてもとても美しい。いつ見ても、何度見ても君の泣き顔は酷く唆られるよ。本当に……あぁ、本当に堪らない――」


 コザックは笑顔でイシェリアの身体を抱きすくめると、彼女の小さな胸を乱暴に揉み、時折先端を強く摘み上げながら、その瞳から次々と流れ落ちる涙を唇と舌で拭っていく。
 そしてコザックは、イシェリアの鎖骨に思い切り歯を立て噛み付いた。彼女の口から悲鳴が上がるのも構わず、血で滲んだそこを舌で何度も舐め上げ、啜る。
 それと同じ行為を、彼女の身体のあちこちに施していった。

 イシェリアから悲鳴と涙が止まらない。しかし痛みで動けない彼女は、恍惚な表情でそれを繰り返すコザックのされるがままだ。


「……イシェリア。この“お仕置き”は愛する君の為なんだよ。君は私の言うことだけを聞いていればいいんだ。君は私無しでは生きていけないのだから。反論は勿論許されないよ。何も出来ない可哀想な君は、私の傍で一生生きていくしかないんだ。そうだろう? 愛しい私のイシェリア」
「……はい……。無能な私は、ずっと愛する陛下の傍におります……」
「うん、いい子だね。そうだ、ずっとずっと私の傍にいるんだ。離れることは絶対に許さないよ」
「はい……絶対に……はな――」


 そこで痛みの余りイシェリアは気を失った。
 コザックは微笑みながら彼女の頬を撫で、そこと額にキスをすると、静かにその身体を抱きかかえ、自分のベッドに寝かせた。


「――全く。相変わらずその執着心に妬けるわねぇ?」


 一部始終を口を挟まず、何もせずに見ていたメローニャは、コザックに朱い唇に半円を描きながら言った。
 上半身は相変わらず裸のままだ。自慢の胸を恥ずかしげもなくさらけ出している。


「勿論、一番愛しているのは君だよ、メローニャ」
「フフ、分かっているわよ。けど、『洗脳魔法』を掛ける為にこの子に言い続けた、“自尊心”を失くす言葉責めはもういらないのよ? この子、とっくの昔に『洗脳魔法』に掛かっていることは忘れてないわよね? 『洗脳魔法』は『魅了魔法』と違って、有効期限は無いし自分からは解けないし、解除出来る人も『浄化魔法』を使える上級魔導師と限られてるわ。けれどそんな魔導師はこの国にいないから、この子は一生、アナタをずーっと一途に愛し続ける『洗脳魔法』に掛かったままよ」
「忘れてないさ。最初は反抗的だったこの子が、今ではすっかり私の虜になって、私の言うことを素直に何でも聞いている。君の『洗脳魔法』は素晴らしいよ。それに、自尊心も何も、この子に本当のことを言っているだけだ。何も出来ないこの子は私無しでは生きていけない。私が必要なんだよ。この子の“全て”は私だけなんだ」
「あらあら? それはある意味溺愛と言っていいのかしら? ものすごい独占欲だこと」


 メローニャは桃色の瞳を可笑しそうに細めた。先刻の濃密な行為の時に流れた汗で背中に張り付いた、クルクルに巻いた同じ色の髪を掻き上げる。

 コザックは、意識を失っているイシェリアの痣だらけの身体を嬉しそうに撫でて触っていたが、不意に自分の顔を彼女のそれに近付けた。


「――唇にキスはまだダメよ。下手なことはしないで頂戴。けれどアナタはもうすぐ三十になるし、定期的に神官の祈りを受けているし、もうようになったかもね?」


 メローニャの制止に、コザックは唇が重なる直前に顔をピタリと止めると息をついた。代わりにイシェリアの頬と額に唇を落とし、頭を上げる。
 その彼の表情に苛立ちの色が見て取れた。


「そうだ、もういい加減問題無い筈だ。早くこの子の中に私のモノを挿入れて、善がるこの子の顔を見たいんだよ。泣いて涎を垂れ流し快感に打ち震え私を求める姿は、さぞかし情欲を唆られるんだろうな……。あぁ、想像しただけで堪らない……。次の祈りの時、早々に神官に確認しなければ」
「フフッ、アナタってホント変態ね。目的を履き違えないで頂戴よ。その前に、アタシの約束を叶えてよ。もう妾の立場はイヤなのよ。周りから色々と言われているの、アタシ知ってるのよ」
「……分かっているよ。明日、貴族達の報告を聞く定例会があるんだ。その時に宣言するさ」
「必ずよ? ――あぁ、ようやく堂々とこの城を歩けるわ」
「待たせてしまって済まなかったね。――ところで、君に訊きたいことがあるんだが」
「何よ?」
「君は、私に『魅了魔法』を使っていないよな?」


 メローニャは、真剣なコザックの顔を真っ直ぐに見つめると、プッと吹き出した。


「それを訊く時点で、『魅了魔法』に掛かってないわよ。『魅了魔法』は相手を虜にするけど、三日くらいしか持たないわ。魔力が少ない人ならもっと短くなるわね。だから、『魅了魔法』が消える前にもう一度掛け直さなきゃいけないの。それの繰り返しよ。時間は掛かるし魔力消費も大きくて大変なの。アタシがアナタにそれをやった記憶や形跡はないでしょ?」
「……あぁ、確かに無いな……」
「なら、アナタはアタシを純粋に一番に愛してるってことでいいんじゃない?」
「そうだな……。疑って悪かった」
「お詫びにもう一回抱いて頂戴」
「……イシェリアがこんなすぐ近くにいるのに、か?」
「それも酔狂じゃない? アナタ好みで燃えるでしょ?」


 メローニャは面白そうに笑って言う。コザックは考える間もなくそれに頷いた。


「そうだな。目覚めて私達の行為を間近で見たイシェリアは、またきっと美しい涙を流すだろう。その可愛い泣き顔を是非とも見たいしな。そんな彼女をうんと優しく慰めて、益々私から離れなくさせてやるのも手だ。それに、この子は涙も血も美味なんだ。あぁ、早く泣かせて思う存分啜りたい……」
「アナタって本当にどうしようもない変態で鬼畜ね」
「それだけ愛しくて可愛くて堪らないんだよ、この子が」


 コザックは隣で眠るイシェリアを愛おしそうに見つめながら全裸になると、クスクスと笑うメローニャに身体を重ねていった――



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