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5.目覚め
しおりを挟む「私、コザック・レデ・ウッドディアスは、ここにいるメローニャ・キャンベラを王后とし、イシェリア・ウッドディアスを王妃とする。正妻はメローニャになり、イシェリアは第二の妻になる。皆の者、そのことを深く胸に刻むように」
玉座の間にて、貴族が集まった定例会が終わりを告げた時、コザックは後ろに控えていたメローニャの肩を抱き、その場にいる全員にそう告げた。
寝耳に水の貴族達は、皆目が点だ。
コザックの隣で玉座に座っていたイシェリアも目と口を見開き、彼を見上げた。
メローニャはコザックの隣で、勝ち誇ったかのようにニヤニヤと笑っている。
「イシェリア、突然の宣告で驚かせしまって済まない。正妻はメローニャになっても、君がすることは今までと変わらない。君の仕事はそのまま続けてくれ。それに、君が私の妻であることも変わらない。納得してくれるだろう?」
……また、王妃陛下に仕事を押し付けるつもりか。
それに、王后に掛かった費用は全て公費で賄うことになる。
“この女”のことだから、王后になって益々羽を伸ばし、今より更に自分の為にお金を湯水のように使うだろう。
只でさえ“この女”の所為で国の出費が多くなっていたのに、これ以上増えてしまったら――
城の上部にいる者達と一部の良心的な貴族達は、全員それを危惧し頭を抱えた。
コザックの弟である、彼より三歳年下のフレデリックは、この状況にポカンとして兄を見つめている。
そんな中、イシェリアはグルグルと考えを巡らせていた。
(生活は今までと変わらない……。でも、私は正真正銘の『二番目』になってしまいました……。いいんですか? それで……私は……。――ううん、いい……いいんです。だって、『二番目』でも陛下は私を愛しているし、私は陛下を心から愛しているから――)
そう結論に達し、イシェリアが頷こうとした時だ。
『いい加減目を覚ませやこのアホンダラアァーーーッッ!!』
声変わり前の少年のように高く、とんでもなく馬鹿でかい声がイシェリアの頭に響いた。
「――っ!!?」
と同時に、後頭部に激しい衝撃が走り、彼女は勢い余って玉座の前に突っ伏してしまった。
「イシェリアッ!?」
コザックが驚いてイシェリアに声を掛けるが、彼女は動けなかった。
突っ伏したままある一点を見つめ、彼女は目を見開いている。
『おっと、声を出すなよ? オレサマは今アンタだけしか見えてないからな! 何もない風な感じで聞いてくれ』
「…………」
『そうそう、そんな感じだ! 上手いなアンタ!』
イシェリアの目の前にいたのは、大人の男の掌程な大きさの、全身真っ黒でつぶらな瞳は紅色な、虎か猫のような容姿の小さな生き物だった。
背中にちょこんと白の双翼を生やし、それがパタパタと動いて宙を飛んでいる。
『よっ、イシェリア! 初めましてだな、オレサマは【光の精霊】アーテルだ! 本来【精霊】は名前を持たないんだけどな、アルジがオレサマを召喚した時につけてくれたんだよ。ちなみに【精霊】はそう簡単には喚び出せないんだぜ? 召喚者と同じ属性を持つ【精霊】しか喚び出せないし、オレサマ達を召喚するにはかなりの魔力の精通が必要だ。アルジはアンタの為に相当頑張ったってことだな。オレサマ達【精霊】は、すっげぇ貴重で偉大な存在だってことを頭に叩きつけておけよ?』
「…………」
『ハハッ、ワケ分かんねぇって顔してんな。ま、後でじっくり説明してやるよ。ちなみにオレサマの力は『浄化』だ。それは『光の力』を持つ、【光の精霊】でなきゃ出来ないモンだ。そうだな……まずはあのクズ王を見てみろ。ぜってぇ何かが変わってっから』
「…………」
イシェリアは言われるがままに、周りに気付かれないようにコザックを見上げてみた。
その瞬間、ストンと何かが地底の奥深くに高速で落ちていった感覚があった。
(…………え。わ、私……何でこんな浮気暴力最低クズ野郎を好きになっていたんでしょうか? 私、大馬鹿者の阿呆になっていたんですか? 今はこの顔を見るだけで異常に気持ち悪くな――うぐっ、は……吐きそう……)
『コラバカッ、ここで吐くなよ! ぜってぇガマンしろガマンッ!!』
アーテルの焦ったような怒声が飛び、イシェリアは慌ててコザックから目を逸らし、小さく深呼吸をして気持ちを落ち着けた。
『っぶねー! ともかく、無事に『浄化』出来たようだな。アンタさ、『洗脳魔法』に掛かってたんだよ』
(『洗脳魔法』……?)
『そうさ。闇属性の『魅了魔法』の上位版だな。あの桃色の女から『闇の力』を感じる。きっとアイツがお前に『洗脳魔法』を掛けたんだろうよ』
(……メローニャさんが……)
『『洗脳魔法』は一回目の場合、オレサマだったら超簡単に解除出来っけど、再度掛けられると強力になっちまってオレサマの力じゃ解除出来なくなっちまうから気を付けろよ。掛からない為には、心から“愛する”ヤツを作んないとだぜ。アンタ、そんなヤツがいたか思い出したか?』
(えぇっ? いきなりそんなこと言われても……。そんなのいませんよ……)
『なんだ? アルジじゃねぇのか? じゃあもう二度と『洗脳魔法』に掛からないように注意するんだな。あの桃色の女にはぜってぇに近付くんじゃねぇぞ』
(き、気を付けます……)
『まぁとにかくこの現状を打破しないとな。なぁイシェリア、何か良い案はあるか?』
(さっきから無茶振りですねッ!? ……え、えぇと……。まずは今すぐにでもこの人と離縁したいのですが……。もう顔も見るのも嫌で嫌で――あっ、今がその絶好の機会かも……!)
『おっ、何か良い案が思い付いたみてぇだな? オレサマはここで見守ってるぜ。何かあったら助けてやっかんな』
(あ、ありがとうございます)
「……イシェリア? 大丈夫かい?」
戸惑いがちにコザックの声が頭上から降ってきたので、イシェリアはゆっくりと起き上がった。
彼の顔を見ないように、気付かれないよう視線を少しずらして頭を下げる。
「も、申し訳ございません、陛下……。本来ならば側室の身分になりますのに、変わらず私を王妃にして頂ける陛下の御心遣いに胸が一杯になり、思わず突っ伏してしまいました……」
イシェリアの若干無理矢理な言い訳に、コザックは笑顔になり台詞を返した。
「ははっ、そうか。そんなに感動したのか。当たり前じゃないか。君は二番目に愛する私の王妃なのだから」
「ありがとうございます……。ですが陛下。この国は王族でも一夫一妻制ですので、メローニャ様を正妻にする為に、私達は一度離縁しなければなりません。私は陛下の形式上の妻となりますが、全く構いませんので。陛下のことですから、離縁証明書をもう御用意されていると思うのですが……」
「よく分かったな、メローニャに言われて私の手元にあるぞ。後は君の署名だけだ」
「お早い準備、感服いたします。では早速署名させて頂きます」
イシェリアはコザックの顔を見ないようにしながら、彼から離縁証明書を受け取るとペンを借り、手慣れた手つきでサラサラと署名をした。
「――ではメローニャ様の為に、今すぐに受理をされて下さい」
「あぁ、分かった。――宰相! これをすぐに受理してくれ」
「え、は……か、畏まりました!」
宰相がコザックから離縁証明書を受け取り、慌てて玉座の間を出て行った。
イシェリアが心の中で、天に向かって大きく拳を振り上げガッツポーズをしたのは、アーテルしか知らない――
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