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6.それぞれの道へ
しおりを挟む「それでは陛下。このことを、一度実家であるロウバーツ侯爵家に伝えに行って参りたいと思います。外出許可を頂けますでしょうか?」
「わざわざ帰って報告するのか? 書面でいいだろう?」
「大事な報告ですので、私の方から直接伝えたいのです。どうか御理解頂けますでしょうか……」
「……でもな……。君が私の傍から離れるのは……」
ブツブツ言って渋るコザックに、呆れ顔のメローニャが助け舟を出してくれた。
「離縁は女性にとって、とても重要なことよ。ロウバーツ侯爵家なら、ここから割と近いしすぐに戻って来れるわ。彼女がいない間アタシが傍にいるからいいじゃない」
「……そう……そうだな……。仕方ない、分かった」
(ありがとうございます、メローニャさん! 私に『洗脳魔法』を使ったことは一生絶対許さないけど!!)
イシェリアはメローニャに、心の中で思いっ切りあっかんべーをした。
「それでは陛下。早速行って参ります」
「……あぁ……分かった。伝えたらすぐに戻ってくるんだぞ。寄り道は決して許さない。真っ直ぐに私のもとに帰ってくるんだ。私がいないと何も出来ない君の居場所は、私の隣だけなのだから」
「…………」
コザックの言葉に、イシェリアは何も言わず笑顔で返す。
そして貴族達が声も出せず固唾を呑んで見守る中、静かに王座の間を出て行った。
『――なぁ、イシェリア。ホントにあのクズ王のもとに戻るのか? 折角自由になったのにさぁ』
玉座の間を出ると、一緒に付いてきたアーテルにそう問い掛けられた。
「そんなまさか! 絶対に戻りませんよ。あの人の隣なんてもう二度と御免です」
『だよなぁ~。んじゃあ実家で暮らすんか? あのクズ王が黙って許してくれっかなぁ?』
「うーん……。それも恐らく無理でしょう。実家に行って家族に会えば分かりますよ」
イシェリアはどことなく悲しそうに小さく微笑む。すると、
「お義姉さんっ!」
後ろから聞き慣れた男性の声がし、玉座の間から飛び出し追い掛けてきたのは、コザックの弟であるフレデリックだった。
彼は、イシェリアが王の代わりに国務をしている時、積極的に色々と手伝ってくれたのだ。
イシェリアにとって、彼は優しい“お兄さん”的存在だった。
「……行かれる……のですか?」
その言葉の意味を、イシェリアは瞬時に理解した。
「聡いフレデリック様はお見通しなのですね……。はい、今までお世話になりました。もう貴方様の義姉では無くなりましたので、どうぞ『イシェリア』とお呼び下さい。敬語もいらないですよ」
「……イシェリア……。やっぱり『洗脳』が解けて……。――今まで何も出来なくて、本当にごめん……!!」
頭を深く下げ謝るフレデリックに、イシェリアは慌てて両手を左右に振った。
「そんな! 頭をお上げ下さい、フレデリック様……! こればかりは誰も何も出来なかったことなのです。フレデリック様がお気に病むことは全く無いのですよ? それに、私が『洗脳』されていたこと、気が付いていたのですね?」
「……あぁ……。一年くらい前かな。兄上に用事があって部屋に行った時、何か呪文みたいな詠唱が聞こえて、そっと覗いてみたら……偶然見てしまったんだ。“あの女”が君に魔法を使っているところを……」
「……そうだったのですか……」
「最初、何の魔法なのか分からなかったけれど、君は今まで仕事をしない兄上にやんわりと苦言を呈していたのに、その日から急に兄上に対して従順になって、苦言も何も言わなくなって。おかしいと思って魔法の種類を調べていたら、『洗脳魔法』だと気付いたんだ。解除方法も探したんだけど、結局見つからなかった……」
悔しそうに顔を伏せるフレデリックの手を、イシェリアは両手でギュッと握り締め、微笑みを見せた。
「そこまでして下さっていたんですね……。本当にありがとうございます、フレデリック様。今はほら、この通り解けたので大丈夫ですよ? だから全く気にしないで下さいね?」
「……イシェリア……」
「あ……っ。“例のお薬”、在庫は私の部屋のクローゼットの中にありますから。金庫の中に入れて、ドレスの間に隠してあります。その中に、購入先と担当者の名前、購入金額をメモした紙が入れてありますので、もし今後買われる際は参考にして下さいね。金庫の暗証番号は、『この国の建国年』です。私の部屋は今後メローニャさんが使うと思いますから、早急に回収をお願いしますね」
「……っ! ありがとう、イシェリア――」
フレデリックはイシェリアの手を強く握り返した。
「フレデリック様。フレデリック様は、今と変わらず、優しく賢明でいて下さいね。あの王と王后の下では大変かと思いますが、宰相のムートン様も貴方様と同じくらい賢いお方です。信頼出来る方だと思います。どうか力を合わせて壮健でいて下さい」
「あぁ……あぁ! イシェリアも、いつまでも元気で……」
二人は強く抱き合うと、互いに微笑み合いそっと離れる。
フレデリックがイシェリアの頭を優しく撫でると、彼女は気持ち良さそうに目を細め、口元を緩めた。
――それは、王妃の肩書きに恥じないよう気を張り背伸びをしていた彼女ではなく、年相応の無邪気で可愛らしい彼女の姿だった。
そして二人は同時に背を向け、お互い反対の方角へゆっくりと歩き出したのだった――
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