前略陛下、金輪際さようなら。二度と私の前に姿を見せないで下さい ~全てを失った元王妃の逃亡劇〜

望月 或

文字の大きさ
9 / 38

9.迫りくる危機

しおりを挟む



「全く、あの役に立たない馬鹿娘めっ! 多大な『聖なる力』を産まれ持ってきたから、気味悪い目を持った不気味な娘でも大事に育ててやって、その力と侯爵家の安泰を引き換えに陛下に嫁がせたのに、力を譲渡した途端離縁されおって! 王后になった妾のように、もっと色目を使って陛下を誘惑して子を成せば良かったものを!! そうしたら簡単に離縁なんぞされなかっただろうに……! クソッ!!」


 イシェリアがいなくなった執務室に、ロウバーツ侯爵の苛立った罵声が響く。



 イシェリアが産まれた時、侯爵と侯爵夫人は驚いた。
 自分達や先代達の瞳の色ではなく、不気味に妖しく輝く黄金色の瞳だったからだ。
 産まれたその子に気味悪さと怖れを感じながら、何か特別な魔力があるんじゃないかと思ったロウバーツ侯爵は、イシェリアを連れて大神殿に行き、上位の神官に訊いてみたのだ。

 すると、彼女は偉大なる『聖なる力』を持っていることが分かり、それは稀に見る“特殊なもの”であることも分かった。

 その力は自分では使えず、“契りを交わした者”に譲渡されるものだ、と。

 通常は身体全体に魔力が流れているのだが、イシェリアの場合、球体の形に濃縮され身体の子宮内に留まっているとのことだった。


 “契りを交わす”――すなわち“口付け”か“性交”だ。


 それを神官から聞いたロウバーツ侯爵は、侯爵家の外れにある温室にイシェリアを幽閉し、世話役は女性の使用人のみで、他には誰にも会わせずに十七年間そこで生活をさせた。

 そして当時もうすぐ王になるコザックに謁見し、イシェリアの『聖なる力』のことを話したのだ。


「その力があれば、貴方様は今よりもっと強大な力を持ち、国民達からの尊厳と栄光を高めることが出来ますぞ」


 ……と。


 コザックはその話に勢い良く喰い付き、イシェリアが成人になる十八歳に、彼女と政略結婚することになったのだ。


 但し、『聖なる力』の譲渡は、譲渡される者との“相性”や、魔力の問題が出てくる。
 例えば相手が『闇』属性者だと、相反する力の為に互いに反発し、精神と身体がどういう状態になるのか分からないのだという。良くない状態になるのは確からしい。

 魔力も少ないと、契りを交わした途端、強力な『聖なる力』に飲み込まれて魔力が暴走し、良ければ廃人、最悪な場合命を落としてしまうかもしれない、とのことだった。


 ロウバーツ侯爵とコザックは、上位の神官からそんな話を聞かされ、結婚当日のイシェリアとの『初夜』は無しとなった。
 そしてコザックは、魔力を高める為に大神殿に定期的に通い、神官からの祝福を受けることになる。

 神官の許しが出るまでは、イシェリアに対して“口付け”と“性交”は絶対禁止となったのだった。



「最近になって、ようやく神官の許しが出たのかもしれませんわ。だから子を成すことは難しかったのかもですわね」
「それが駄目でも、二年間も一緒にいたのなら、陛下の心を射止めることも出来ただろうが! あの馬鹿娘の所為で、『子を成せず、妾に陛下を取られ王妃を失脚した哀れな女』として、この国一番の滑稽な噂になってしまうではないか! ロウバーツ侯爵家の名にタップリと泥を塗りおって……!!」


 ロウバーツ侯爵の怒りが収まらない。鬱憤を晴らすように執務机をバンバン叩く。


「あの馬鹿娘が生きている限り恥じた噂が立ち、侯爵家の尊厳は下がる一方だ……。――あぁ、そうだ。勘当なんて生温いものじゃなくて、もういっそのことこの世から消してしまおうか……? そうだ、そうしよう。『傷心を癒やす為に旅に出た途中で賊に襲われ殺された』ことにすればいい。侮蔑ではなく哀れみの目で見られる方が、何かと都合が良いからな。同情心で色々と手や金を貸してくれる者も現れるだろう。何て良い考えなんだ、グフフッ」


 ロウバーツ侯爵の不穏な言葉に、夫人と令息はギョッと目を剥いた。


「あなた、それは本気で仰ってますの……?」
「それって……アイツを“殺す”ってことか、父さん……?」
「あぁ、そうだ。暗殺業を生業としている組織を知っているから、儂が手配しておく。我がロウバーツ侯爵家に汚点を残す者はいらないからな。お前達だって周りから後ろ指をさされるのは嫌だろう?」


 ロウバーツ侯爵の言葉に、最初は戸惑っていた二人も大きく頷いた。


「確かにそうだな。あんな穀潰しの気色悪いヤツの為に俺が陰口叩かれるのは嫌だし。さっさと殺して平穏を取り戻そうぜ」
「周りの目を気にしてお茶会に行けなくなるのは困りますわ。早く実行をお願いしますわね」
「分かった、早速手配しよう」



 三人は意地汚く嗤い合い、ロウバーツ侯爵はすぐさま手配を始めたのだった――



しおりを挟む
感想 52

あなたにおすすめの小説

【完結】愛する人はあの人の代わりに私を抱く

紬あおい
恋愛
年上の優しい婚約者は、叶わなかった過去の恋人の代わりに私を抱く。気付かない振りが我慢の限界を超えた時、私は………そして、愛する婚約者や家族達は………悔いのない人生を送れましたか?

どなたか私の旦那様、貰って下さいませんか?

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
私の旦那様は毎夜、私の部屋の前で見知らぬ女性と情事に勤しんでいる、だらしなく恥ずかしい人です。わざとしているのは分かってます。私への嫌がらせです……。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 政略結婚で、離縁出来ないけど離縁したい。 無類の女好きの従兄の侯爵令息フェルナンドと伯爵令嬢のロゼッタは、結婚をした。毎晩の様に違う女性を屋敷に連れ込む彼。政略結婚故、愛妾を作るなとは思わないが、せめて本邸に連れ込むのはやめて欲しい……気分が悪い。 彼は所謂美青年で、若くして騎士団副長であり兎に角モテる。結婚してもそれは変わらず……。 ロゼッタが夜会に出れば見知らぬ女から「今直ぐフェルナンド様と別れて‼︎」とワインをかけられ、ただ立っているだけなのに女性達からは終始凄い形相で睨まれる。 居た堪れなくなり、広間の外へ逃げれば元凶の彼が見知らぬ女とお楽しみ中……。 こんな旦那様、いりません! 誰か、私の旦那様を貰って下さい……。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

冷徹公爵の誤解された花嫁

柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。 冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。 一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。

冷遇された妻は愛を求める

チカフジ ユキ
恋愛
結婚三年、子供ができないという理由で夫ヘンリーがずっと身体の関係を持っていた女性マリアを連れてきた。 そして、今後は彼女をこの邸宅の女主として仕えよと使用人に命じる。 正妻のアリーシアは離れに追い出され、冷遇される日々。 離婚したくても、金づるであるアリーシアをそう簡単には手放してはくれなかった。 しかし、そんな日々もある日突然終わりが来る。 それは父親の死から始まった。

妻が通う邸の中に

月山 歩
恋愛
最近妻の様子がおかしい。昼間一人で出掛けているようだ。二人に子供はできなかったけれども、妻と愛し合っていると思っている。僕は妻を誰にも奪われたくない。だから僕は、妻の向かう先を調べることににした。

愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください

無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

処理中です...