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20.それはまさに新婚のよう
しおりを挟む「うーん……。なかなか上手に作れませんね……」
「いきなり初めから上手く作れたら、教える僕の面目が立ちませんよ。少しずつ上達していますから、焦らずやっていきましょうね。時間は沢山あるのだから」
「……はい!」
キッチンに立つ二人の目の前には、形の歪な少し焦げたクッキーが並べられている。
お揃いで色違いのエプロンを付けて、二人はお菓子作りをしていたのだ。
勿論、お揃いのエプロンはユーリが購入したものだ。最初は恥ずかしがっていたイシェリアも、少しずつ慣れてきて今では普通に付けている。
「味はまぁまぁ美味しく出来たと思うのですが、実家の料理長のお菓子に比べたら、色も形もまだ全然程遠いです……」
イシェリアはクッキーを一つ指に摘んで自分の口に入れると、モグモグしながらもう一つ摘んでユーリの口元に近付けた。
「はい、あーん」
「ん」
ユーリは自然にそれをパクリと食べると、口を動かしながら微笑む。
「うん、美味しい。味も確実に上達していますね」
「ありがとうございます」
……この『あーん』も、勿論ユーリがイシェリアに教えたものだ。庶民は皆普通にやっているとユーリに聞かされ、そうなのかと納得したイシェリアは、それ以降こうやって彼にちょくちょく『あーん』をしている。
「クッキー作りは、分量と焼く時間の正確さがとても大切です。慣れてきたら、自分流に手を加えて更に上達を目指すのもいいかもしれませんね」
「……ユーリさんは、家事も料理もお菓子作りも出来て、その上魔法も使えて戦闘も出来て、何でも出来て凄いですね……」
イシェリアの素直な感嘆な言葉に、ユーリは「いやぁ」と口の両端を上げ頭を掻く。
「興味を持ったものに片っ端から手を付けていたらこうなったんです。器用貧乏なだけですよ」
「それでも、そつなくこなせてるんだから凄いです」
ユーリは続くイシェリアの賛辞にニッコリと笑うと、身を屈め彼女の頬にキスをした。
「えっ……」
「……あんまり褒めるとこの場で襲いますよ?」
そのままイシェリアの耳元で、低く妖艶に囁く。
「ヒェッ!? 何でそうなるんですかぁっ!?」
瞬時に顔を真っ赤にしたイシェリアの、勢いあるツッコミを受けて可笑しそうに笑っているユーリに、
(あ……。そう言えば私、恥ずかしがってばかりでユーリさんに『挨拶』を返せていない……)
と気付き、『挨拶は返すもの』という常識的なことを出来ていなかった自分を恥じる。
意を決して、ユーリの腕の裾をクイッと引っ張ると大きく背伸びをし、彼の頬に唇を寄せた。
「…………」
キョトンとしてイシェリアを見下ろしたユーリの表情が見れず、すぐに下を向く。
「あ、『挨拶』は返すのが基本ですから……」
俯きモゴモゴと口の中で言い訳をしている、顔の色がリンゴ一色のイシェリアに、ユーリは堪らず彼女を引き寄せ腕の中に閉じ込めた。
「わっ!?」
「ふ……ははっ! 何でこんなに素直で可愛いんでしょうかね、この子は? 本当にもう色々と堪らなくなりますよ」
「なっ、何言ってるんですかぁっ!?」
「やっぱり今すぐ襲ってもいいですか?」
「ぜっ、絶対に駄目ですーーっ!!」
……このやり取りを見た者誰もが、「砂を大量に吐くくらい新婚夫婦がイチャついている」と思うことだろう。
『逃げてきた元王妃』と、『元王妃を殺しに来た暗殺者』だとは露知らずに――
二人にとって幸せな日々が続いていたが、少しずつ、しかし確実に『魔の手』は伸びてきていた――
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