前略陛下、金輪際さようなら。二度と私の前に姿を見せないで下さい ~全てを失った元王妃の逃亡劇〜

望月 或

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28.二人の出会い

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 ユーリアス・ウォードルは、ウォードル公爵家の次男として産まれた。
 周りから疎まれていた曽祖父譲りの黒髪と紅色の瞳、そして『闇の力』を持って産まれた彼は、

「まるで“魔族”のようだ」

 と、曽祖父と同じように周囲から敬遠され、両親からも一歩距離を置かれていた。
 その上、普通の見た目で産まれ、幼い頃から何でも上手に出来た兄ばかりが可愛がられ、彼は捻くれた子供時代を過ごしてきた。

 しかし兄は、そんな弟を大事にして可愛がった。ユーリアスが何度邪険にしても、兄はただ笑うだけでしつこく構ってきた。

 根負けしたユーリアスは、次第に兄を受け入れるようになった。
 彼の周りの環境が最悪にも関わらず、彼が道を踏み外さなかったのは、兄のお蔭でもあるだろう。


 しかし、時が経っても相変わらず周りから敬遠される日々で。
 ユーリアスは、家のことは兄に任せて、髪を茶色に染め色々な場所をほっつき回っていた。





 ユーリアスが十六歳の時、いつものようにブラブラと遠くまでほっつき歩いて、一番高い建物の屋根の上に登りボンヤリと景色を眺めていたところ、大きな屋敷の庭園に透明な硝子で囲まれた温室があることを発見した。
 温室の中には様々な沢山の花があり、一人の少女が座ってそれらを眺めている。

 その少女が何故か無性に気になったユーリアスは、温室がある屋敷に行ってみることにした。
 その屋敷はロウバーツ侯爵家だと分かったユーリアスは、闇魔法である『隠密魔法』で足音を消し、誰にも見つからないように屋敷の周りをグルリと周り、庭園へと足を踏み入れる。
 温室の扉を開けたユーリアスは、『隠密魔法』を解除し花を眺めている少女の方へと歩いて行った。

 何となく、少女を驚かせたいと思ったのだ。
 叫ばれたらさっさと逃げるか、と考えながら、一歩一歩、少女に近付く。

 突然現れたユーリアスに、少女は珍しい黄金の眼を見開き驚きの表情を見せたが、叫びはしなかった。


「こんにちは」


 と、普通に挨拶してきたので、意表を突かれたユーリアスは思わず固まってしまった。


「あなたは泥棒さんですか?」


 続いて発せられた問い掛けに、ユーリアスは


「んなわけねーだろっ!」


 と、思わずツッコんでしまった。
 少女がクスクス笑い、ユーリアスは何となくバツが悪くなり頭をガシガシと掻く。


「泥棒さんではないのなら、初めましての自己紹介をしますね。私はイシェリア・ロウバーツと申します。ロウバーツ侯爵家の長女です。歳は十三歳です」


 十三歳にしては、しっかりしている回答だった。


「オレは……ユーリアス・ウォードル。ウォードル公爵家の次男だ。歳は十六歳」
「あぁ、あのウォードル公爵家の息子さんでしたか。それなら自己紹介しても安心でしたね。実は正直に言って大丈夫だったかなと心配になってました」


 ニコリと笑うイシェリアに、ユーリアスはさっきから気になっていたことを訊いてみた。


「……なぁ。オレの“目”、怖くねぇのか?」


 初めてユーリアスの紅い瞳を見る者は、皆怯えるか、慌てて顔を逸らすのだが、イシェリアはさっきから真っ直ぐと彼の目を見ているのだ。


「怖い? どうしてですか? そんなに綺麗な紅色の瞳をしているのに。私は羨ましいですよ?」


 キョトンとして首を傾げながら問い返したイシェリアに、またもやユーリアスは拍子抜けしてしまった。


「お前……ヘンなヤツだって言われねぇ?」
「さぁ、どうでしょう? 私、ここから出たことがないので……。会うのは、いつも決まった女性の使用人さんなので」


 困ったように笑うイシェリアに、ユーリアスは怪訝な表情を向けた。


「ここから出たことがない……? 外に出たことがないのか?」
「はい。あそこにある小さな部屋に、私のベッドがあります。父から、ここから出たら駄目だときつく言われているので……。何もすることがないので、毎日お花のお世話をしているんですよ」
「……何だよ、ソレ……」


 となると、彼女はこの温室にずっと閉じ込められていることになる。


 一体何の理由で――


「だから今日、ユーリアスさんとこうやってお話出来て嬉しかったです。ここに来て下さってありがとうございました」
「……んなの……。また来てやるよ」
「え?」
「また来るっつったんだよ。あと、オレのことは呼び捨てでいい。お前のことも……そうだな、シェリって呼ばせて貰う。その方が呼び易いし」
「それって“愛称”というものですか!? 初めて呼ばれました! 何だかくすぐったくて嬉しい感じですね!」


 本当に嬉しそうに笑うイシェリアに、思わずこちらの口角も上がってしまう。


「この時間は誰も来ないのか?」
「はい、当分誰も来ませんよ」
「じゃあ、この時間にまた来るわ」
「嬉しいです! あ、でも無理しないで下さいね? 公爵家の息子さんなら、色々とお勉強とかあると思いますし……」
「んなモン気にすんな。じゃ、またな」
「はい、また!」


 ユーリアスがヒラリと手を振ると、イシェリアは満面の笑みで手を振り返してくれた。



 ――ユーリアスは、その日は嫌なことがあっても何故か機嫌良く過ごすことが出来たのだった。



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