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27.元王妃の愛する人
しおりを挟むユーリはイシェリアを見返すが、変わらず瞳は濁ったままだった。
ジッと不安気に自分を見つめてくる彼女の方へ無意識に手を伸ばそうとした時、アーテルの声がユーリの耳に入ってきた。
『……『洗脳』されても相変わらず優しいな、コイツはさ。あの鞭が床に転がっていたってことは、あのクズ王に打たれようとされてたワケだろ? それなのに、自分よりオレサマ達のことを心配してんだからさ。クズ王が戻ってきたら真っ先に打たれるの分かってるハズなのによ。例えオレサマ達が逃げても、コイツの傷が治ってること、戻ってきたクズ王に問い詰められてもさ、オレサマ達のことは死んでもぜってぇに言わねぇだろうな。コイツのことだからさ』
「……ッ!!」
アーテルのポツリと落とした言葉に、ユーリはグッと強く唇を噛み締めると、爪が喰い込むくらいに拳を固める。
「どうされました? 陛下達はいつ戻ってくるか分かりません。さぁ、早くここから――」
「――かねぇよ」
ユーリはボソリと呟くと、イシェリアの腕をグイッと引き寄せ、その華奢な身体を強く抱きしめた。
「っ!? やっ、離し――」
「…………なぁ。いい加減さぁ……? 思い出せよな……。お前が――お前が愛しているのはオレだろッ!? シェリッ!! あんなド変態ドクズ王じゃなくて、このオレだッッ!! 忘れてんならイヤでも思い出させてやるよ……ッ!!」
ユーリは悲痛な声で鋭く叫ぶと、イシェリアの唇を強引に自分の唇で塞いだ。
「っ!?」
驚き頭を引こうとするイシェリアの後頭部を手で抑え、更に深く唇を重ねる。
そしてユーリの舌がイシェリアの口内に侵入し、すぐに彼女の舌を絡め取り濃密な口付けを始めた。
「……っ」
激しく荒々しい口付けに、イシェリアの目尻に涙が滲み出る。
口の端から飲み込み切れない唾液が伝っても、ユーリは構わずに音を立てイシェリアの口内を貪った。
……イシェリアは、この乱暴なキスに覚えがあるような気がした。
粗暴だけど、自分を強く想う気持ちが深く込められていて、自分はそれを幾度も幾度も受け入れていた――
自分を激しく求める誰かの姿が、目の前のユーリと重なる。
カタカタと小刻みに震える手で、イシェリアはユーリの前髪を掻き上げた。
彼の閉じていた瞼が静かに開き、美しく輝く深紅の瞳が、イシェリアの驚く顔を映し出す。
髪を掻き上げた際耳朶に見えた、少し歪な花の形をしたピアスがキラリと光った。
――私と同じ形のピアス……。
“あの人”とお揃いの物が欲しくて。
“あの人”に頼んで作って貰った――
――あぁ、そうだ。
“あの人”は、明るい茶色の瞳じゃなくて。
とても綺麗な“紅色の瞳”だった――
「……ユーリアス……」
唇が少し離れた際に小さく呟かれたそれに、ユーリは大きく目を見開く。
イシェリアは、光を取り戻した輝く黄金色の両目から、ポロポロと大粒の涙を流していた。
「ユーリアス……ユーリアスっ。ごめ――ごめんなさい……っ。私……わ、忘れて――貴方の、こと……っ。あ、あんなに、忘れないって、言ったのに……っ」
「……いい、いいんだ。何も言うな。もう何も言わなくていい、シェリ。お前は何も悪くない――」
ユーリはイシェリアの身体を強く抱きしめながら、再び彼女の唇を塞ぐ。
イシェリアは涙を流しながら、彼の口付けを黙って受け入れた。
彼女の口内を余すところなく堪能したユーリは、一度熱い息を吐き出す。そして彼女の胸を妖しく触りながら、細い首筋に唇を移動させ――
『こんのドスケベ野郎がっ!! どこまでする気なんだボケッ!!』
アーテルの怒声と共に、振り下ろされたハリセンがスパコーンッ!! とユーリの頭に直撃した。
その衝撃で、ユーリの身体が勢い良くベッドに沈み込む。
『ったくよぉ! 何か考えがあると思って黙って見てたけどもう限界だぜ! イシェリアもキッパリ拒否っていいんだぜ!?』
「え? あ……ご、ごめんなさい……」
「……あいてて……。見事な『浄化』の一撃でしたね……。お蔭で正気を取り戻せました」
ユーリは頭を押さえながらゆっくりと起き上がると、深く息をついた。
「イシェリア。もう大丈夫ですか?」
「……はい。ありがとうございます」
イシェリアが輝く黄金の瞳をユーリに向け、しっかりと頷いたのを見て、彼は微笑んで返し、近くにあった毛布を彼女の肩に掛けた。
「あぁ、失敗しました……。貴女の唇へのキスは、貴女が“今”の僕を愛してくれたら満を持してしようと思っていたのに」
「え!?」
「やっぱり“今”の僕では駄目でしたか……。“過去”の僕に嫉妬しますね。“今”の僕も貴女に愛して貰えるように、精一杯頑張るとしましょう」
「えっ!? そんなっ、“今”のユーリアスも大好きですよ!? 本当ですよっ!?」
顔を真っ赤にし、慌てて両手を左右に振るイシェリアに、ユーリは可笑しそうに声を立てて笑ったのだった――
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