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31.二人の別れ
しおりを挟むかけがえのない時間が終わり、服を着終えた二人は、ベッドの上で抱き合い、余韻に浸っていた。
ユーリアスの中の『光』と『闇』の力は、未だにグルグルと回っているが、このままいけば上手く共存出来そうな感じだった。
互いに反発して身体が弾け飛ぶんじゃないかと内心恐れていたが、どうやら杞憂に終わるようだ。
きっと、この『光の力』が根の優しいイシェリアの中に入っていたモノだからだろう。
我の強い『闇の力』に、色々と妥協してくれたに違いない。
そう思うと『光の力』でさえも愛しく感じてしまうのは、余程自分がイシェリアにやられてしまっているからだろう。
(シェリの中には『光の力』があった……。そして挿入れた瞬間、その力がオレの中に入ってきた。もしかして、そういう譲渡系の“特殊な力”だったのか? シェリの場合は、“性交”したら相手に譲渡される……? それなら、ロウバーツ侯爵がコイツをここに閉じ込めて外に出さなかった理由に納得がいく。世話をする使用人が女だけなのも。――侯爵のヤロウ、その力を引き合いに出して王族との結婚を取り付けたんだな。クソッ!)
苛立ちで悪態をついたが、自分の胸に顔を擦り寄せてくるイシェリアに、負の感情が消え溢れるほどの愛しさを感じてくる。
彼女の額に口付けをし、サラサラの柔らかい髪を梳きながら、ユーリアスは考えを再開した。
(シェリは、自分の力のことを知らされていないようだった。知ってたら、王族との結婚の前にオレに抱かれるのを拒否していただろうし。真面目なヤツだかんな、コイツは。知らなくてホント良かったぜ……。――けど……待てよ。『光の力』を失ったまま嫁ぐのはヤバくねぇか? 王族を騙したとして侯爵が処刑されるのは構わねぇが、シェリまでとばっちりを受けるのはマズい。どうにかして魔力を補填する手段は――そうだ!)
「シェリ、頼みがあるんだ。この石を肌身離さず持っていて欲しい。ずっと懐に入れておいてくんねぇか?」
ユーリアスはズボンのポケットから小さな白銀色の石を取り出すと、イシェリアに渡す。
その石は『オリハルコン』といって、その中に大きな魔力が詰め込まれているのだ。
魔力が足りなくなった場合、それを使って補填することが出来る代物だ。
イシェリアの魔力を測るのは、魔導師の間に出回っている『魔力測定器』を使う筈だ。
属性まで詳しく調べて細かく魔力を測るのは、大神殿の上位の神官でないと出来ない。しかもそれをするのに結構な金額と時間が掛かる。
いくら王族と言えども、そこまではしないだろう。
想像なんてしたくないが、相手に性交されて気付かれるのはまだ当分先な筈だ。
『光の力』と相手との相性も調べなくてはいけないし、相手の魔力が低ければ譲渡が出来ないだろう。
そうなると魔力を高める為、大神殿に行って神官からの祈りを定期的に受けなければならない。
それに成人になるとはいえ、イシェリアの十八という歳はまだ少女だ。王族の尊厳を示す為に、せめて二十歳になるまで待つだろう。
それらの関係で、恐らく短くても二年は猶予があるに違いない。
その猶予の間に、イシェリアを王族から取り戻す策を考えなければ――
「わぁ、綺麗……! 貰っていいんですか?」
「あぁ。絶対に手放すなよ、約束だ」
「ありがとうございます、すごく嬉しいです……! そうしたら、いつも身に付けられる物に変えた方がいいですね……。――あ! ユーリアス、これをピアスに出来ますか? 以前、その付けているピアスを自分で作ったって言ってましたよね? お揃いにして、いつまでも……おばあさんになっても付けていたいです!」
頬を染めてユーリアスを見上げ、嬉しそうに声を弾ませながらイシェリアは言った。
途端、ゴフッと彼がむせたのを見て彼女は驚く。
「ぐ……っ、可愛過ぎかよチクショウッ!! オレを悶え殺す気かっ!? もう一度抱きたくなるだろうがこのバカッ!」
「え、えぇ……?」
更に何故か甘い言葉で怒られ、イシェリアは大いに戸惑ってしまった。
「けど……ピアス、か……。確かにいい案だな。それだと簡単に取れる心配はねぇし。――よし、早速作っか。どんな形がいいんだ?」
「ユーリアスと同じ、お花の形がいいです!」
「…………」
ユーリアスが付けているピアスは、彼が取得した『製造魔法』で一番最初に作った物で、“星型”にしたくて作ったのだ。
……結果、形が歪になり、歪んだ花のようになってしまった。
(もう一回作り直すか……。でもお揃いにしたいって言ってるし、もうこのままでいっか)
「分かった。すぐに作れっから待ってろ」
ユーリアスは起き上がるとオリハルコンを手に持ち、もう片方の手をそれにかざすと、詠唱を唱える。
するとオリハルコンが光り輝き、やがてユーリアスの手の上で二つの花型のピアスへと変わった。
「わぁ、すごく可愛いです……!」
「我ながら上出来だな。じゃ、早速付けるか。耳朶に穴を開けるぞ。痛くないようにすっから、ちょっと目を瞑っててくれ」
「はい……」
イシェリアも起き上がってベッドの上に座り、そっと目を瞑ると、暫くして片方の耳朶が一瞬熱くなった。続けて、もう片方の耳朶も熱くなる。
「……付けたぜ」
ユーリアスの声に瞼を開けると、すぐ目の前に彼の美麗な顔があって、イシェリアの頬がボッと赤く染まった。
「うん、すっげぇ似合ってるぜ? これでオレとお揃いだな」
ニッと太陽のように眩しく笑うユーリアスに、イシェリアも笑顔を返す。
「なぁ、シェリ。お前がさ、困ってたらさ……。オレがぜってぇに助けてやっから」
「……本当に?」
「あぁ、約束してやるよ。遠くからでも、お前が困ってるってのは顔を見ればすぐに分かるかんな」
「ふふっ、それはすごいですね」
「そんなん当ったり前。何せこのオレだし? だから、さ。お前も、何があろうとオレのことぜってぇに忘れるんじゃねぇぞ。それも約束だかんな?」
「はい……!」
イシェリアは、笑いながら涙をポロポロと零していた。
ユーリアスは堪らず彼女の唇を奪い、別れる時間ギリギリまでその唇と口内を味わい、深く自分の身体に刻み付ける。
――そして、二日後のイシェリアが十八歳になった日。
彼女は予定通り、王になったばかりのコザックのもとに嫁いでいったのだった――
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