前略陛下、金輪際さようなら。二度と私の前に姿を見せないで下さい ~全てを失った元王妃の逃亡劇〜

望月 或

文字の大きさ
32 / 38

32.二人の“再会”に繋がる物語

しおりを挟む



 イシェリアと最後に別れた翌日から、ユーリアスは髪の色を黒のままにし、口調を丁寧語に変えて一人称も『僕』にし、常に冷静沈着に行動するように心掛けた。
 すると、自分に対する周りの態度が変わったように感じた。以前通りの”怖れ”もあるが、“敬意”と“感心”も見え始めたのだ。
 それは、今まで邪険にされてきたユーリアスにとって嬉しい変化だった。


 そして、公爵家の力をいつでも借りられるように、両親にも歩み寄り始めた。
 最初は戸惑っていた両親も、ユーリアスの変化に感化され、今では協力的になってくれている。
 公爵家の為に、両親や兄の手伝いも積極的にした。


 全てはイシェリアを王族から取り戻す為だ。


 ユーリアスの中の『光』と『闇』の力は、上手い具合に交ざり合ってくれた。
 お蔭で彼の魔力は膨大に増幅し、元々使えた『闇魔法』は更に種類を増し、回復魔法等の『光魔法』も使えるようになった。

 勿論、『光魔法』を使えるのは秘密にしている。正反対の『光』と『闇』両方の魔法を使えるのは前代未聞だし、下手に騒がれたくなかったからだ。


 風の噂で聞いたが、現王コザックには、イシェリアと結婚する前から愛妾がいたらしい。
 結婚した今も、その愛妾を城に住まわせて二人で贅沢三昧をしているとか。

 そんな女がいるのにイシェリアとの結婚を決めた王に腸が煮えくり返ったが、十中八九、彼女の『光の力』が欲しいからだろう。


 『光の力』を諦めて、イシェリアと離縁してその女と再婚すれば万事解決なのに、とユーリアスは溜息混じりに唇を噛んだのだった。





 現王コザックとイシェリアが結婚してから一年後、外務の二人を見掛ける機会があった。
 遠くからだったが、ユーリアスは久し振りに見たイシェリアの様子に、すぐに違和感を感じた。

 彼女は、王の隣で彼を愛おしそうにジッと見つめている。
 イシェリアは、そう簡単に他の男に心を移す軽薄者では決して無い。それ自体が違和感だが、更に自分の知っている瞳では無いのだ。


 あのキラキラと美しかった黄金色の瞳が影を持ち、沼のように濁っている――


(あれは……闇魔法の『魅了魔法』……? ――いや違う……。あの胸が酷くザワつく気配は、その上位の……『洗脳魔法』!?)


 ユーリアスはそれに気付き愕然とした。
 そして、『洗脳魔法』を掛けイシェリアを意のままに弄んでいる王に激しく憤怒する。

 すぐに彼は『洗脳魔法』の解除法を片っ端から探した。
 そして分かったことは、『洗脳魔法』が解ける『浄化魔法』は、『光』と『風』の複合魔法だということだ。
 上級の証である複数の属性を持つ魔導師は、この国にはいない。しかも、『光』と『風』の両方を持つ上位魔導師は、滅多にいない。

 なら、他の方法を探すしかない――


 そして、【光の精霊】の『浄化』なら解除出来ると分かり、ユーリアスは『召喚魔法』を取得する為に、必死に魔法の鍛錬と勉強を続けた。


 そんなある日、ウォードル公爵家の長男が暗殺されそうになる事件が起こってしまう。
 長男の咄嗟の機転で事無きを得たが、暗殺者に逃げられてしまった。

 ユーリアスは兄暗殺の依頼人を見つける為に、両親と兄の猛反対を押し切り、身分を隠し、名前を変えて暗殺組織に入り、内部から密かに調べることにした。

 この暗殺組織は結構何でも屋で、人捜しや物探し、魔物退治もあったので、ユーリアスは暗殺以外の任務を確実にこなし、信頼を得ていった。


 身分が露見される懸念もあり、公爵家からは通えないので、目立たず、観光名所も何も無い小さな町に家を借り、そこを住み家として生活していた。




『――よぉ、オレサマを喚び出したのはアンタかい?』
「はい、そうです。【光の精霊】さん。君の名前を教えて頂けますか?」
『名前なんてねーよ。アンタが決めてくれ』
「分かりました。……では『アーテル』はどうでしょう? 古代語で『黒』という意味です。君の体の色が黒なので」
『アーテルか……。おぅ、気に入ったぜ。これからよろしく頼むな、アルジ。それにしてもアンタの魔力、すげぇ量だな。相反する『光』と『闇』も、アンタの身体の中で上手い具合に溶け込んでるし。なんかさ、色々とすげぇなぁアンタ』
「ふふ、お褒めのお言葉ありがとうございます。早速で申し訳ないのですが、君にお願いがあります」

 
 苦労の末、無事に『召喚魔法』を取得したユーリアスは、早速【光の精霊】を喚び出し、イシェリアの救出と護衛をお願いした。
 彼女の様子と今いる場所を、こちらに逐一伝えてくれるよう頼んで。

 そして、彼女が無事に離縁出来たと聞いて、ユーリアスはホッとしたと同時に歓喜した。


 これで何のしがらみも無く、彼女とずっと一緒にいられる――




 その後、暗殺組織にある依頼書の中で、イシェリアの暗殺依頼書を見つけたユーリアスは、すぐにその依頼を自ら受けた。

 依頼人は、イシェリアの父であるロウバーツ侯爵。
 離縁してきた娘は侯爵家の名を汚すから不要と考えたのだろう。
 全く持って愚かで愚鈍で馬鹿な侯爵だ。


 しかし、ウォードル公爵家の長男暗殺未遂の件も、この侯爵が絡んでいる線が濃厚なので、繋がりが持てて幸運だった。


 勿論、イシェリアを殺そうとなんて端から考えていない。
『洗脳魔法』を詳しく調べていて分かったことだが、相手を一途に愛する『洗脳』が対象者に掛けられた際、相手を想うのに不必要な記憶は“封印”されてしまうらしい。

 『洗脳』が解かれても、その“封印”は強いキッカケが無い限りは継続する……と。


 そうなると、イシェリアは自分を忘れている可能性が高い。



 ……それでも、いい。
 『洗脳』が解けて、離縁して実家からも“自由”になれたのだから、心から喜ぶべきことだ。

 それに、思い出すことが出来ずそのまま“昔”の自分を忘れてしまっても……これからずっと一緒にいて、今度は“今”の自分を愛して貰えればいい。


 ……寂しくない、と言ったら嘘になるけれど。



 自分を忘れているであろう彼女に、素直に己の正体を明かしても不審に思われるだけだろう。
 無事に“暗殺”出来るかを見届ける為、自分に見張りが付けられているのは分かっている。

 それなら今の職業である“暗殺者”として接し、一緒にいられるように上手く誘導しよう。


 最初は心を許してくれなくても、共に生活を続けていれば。



 “昔”のように……きっと、彼女は自分のことを――





 ――そして、ユーリアスはアーテルと談笑しながら歩くイシェリアの背中に、微笑みながら声を掛ける。



「こんにちは、お嬢さん。良い天気ですね」




しおりを挟む
感想 52

あなたにおすすめの小説

【完結】愛する人はあの人の代わりに私を抱く

紬あおい
恋愛
年上の優しい婚約者は、叶わなかった過去の恋人の代わりに私を抱く。気付かない振りが我慢の限界を超えた時、私は………そして、愛する婚約者や家族達は………悔いのない人生を送れましたか?

どなたか私の旦那様、貰って下さいませんか?

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
私の旦那様は毎夜、私の部屋の前で見知らぬ女性と情事に勤しんでいる、だらしなく恥ずかしい人です。わざとしているのは分かってます。私への嫌がらせです……。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 政略結婚で、離縁出来ないけど離縁したい。 無類の女好きの従兄の侯爵令息フェルナンドと伯爵令嬢のロゼッタは、結婚をした。毎晩の様に違う女性を屋敷に連れ込む彼。政略結婚故、愛妾を作るなとは思わないが、せめて本邸に連れ込むのはやめて欲しい……気分が悪い。 彼は所謂美青年で、若くして騎士団副長であり兎に角モテる。結婚してもそれは変わらず……。 ロゼッタが夜会に出れば見知らぬ女から「今直ぐフェルナンド様と別れて‼︎」とワインをかけられ、ただ立っているだけなのに女性達からは終始凄い形相で睨まれる。 居た堪れなくなり、広間の外へ逃げれば元凶の彼が見知らぬ女とお楽しみ中……。 こんな旦那様、いりません! 誰か、私の旦那様を貰って下さい……。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

冷徹公爵の誤解された花嫁

柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。 冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。 一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。

冷遇された妻は愛を求める

チカフジ ユキ
恋愛
結婚三年、子供ができないという理由で夫ヘンリーがずっと身体の関係を持っていた女性マリアを連れてきた。 そして、今後は彼女をこの邸宅の女主として仕えよと使用人に命じる。 正妻のアリーシアは離れに追い出され、冷遇される日々。 離婚したくても、金づるであるアリーシアをそう簡単には手放してはくれなかった。 しかし、そんな日々もある日突然終わりが来る。 それは父親の死から始まった。

妻が通う邸の中に

月山 歩
恋愛
最近妻の様子がおかしい。昼間一人で出掛けているようだ。二人に子供はできなかったけれども、妻と愛し合っていると思っている。僕は妻を誰にも奪われたくない。だから僕は、妻の向かう先を調べることににした。

愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください

無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

処理中です...