33 / 38
33.迫りくる決着の刻
しおりを挟む「なぁアルジよぅ。このまま城から逃げてもさ、またあのクズ王が追っかけてくると思うぜ。イシェリアに対して気持ち悪ぃほどの執念持ってっし。どうするよ?」
「よし、暗殺しますか」
「『よし、寝ますか』みたいな軽ーい調子で物騒なこと言わないで下さいッ!?」
イシェリアの威勢の良いツッコミに、クスクスとユーリは笑うと、彼女の頭を優しく撫でた。
「ふふ、冗談ですよ。ちなみに訳あって一時的に“暗殺業”をやっていますが、人っ子一人殺していないので安心して下さいね」
「はい、それは分かっています。ユーリアスは絶対にそんなことしていないって」
「イシェリア……」
感慨の面持ちで、微笑むイシェリアを抱きしめキスをしようとしたユーリの頭を、アーテルはポンッと出したハリセンでスパンッ!! と叩きつける。
『隙あらばイチャつくんじゃねぇ!! さっさとどうにかする方法考えろよな!?』
「……いてて……。僕の召喚した【精霊】が主の僕に対して手厳しい……」
ユーリが後頭部をさすっていると、廊下からバタバタと誰かが駆けて来る音が聞こえ、部屋の扉が勢い良く開かれた。
そこにいたのは――
「フレデリック様!? ムートン様っ!?」
「イシェリア、大丈夫かい!? 『洗脳』はっ!?」
慌てて駆け寄って来るフレデリックに、イシェリアは安心させるように微笑んだ。
「大丈夫です、解けていますよ」
「あぁ、良かった……! 兄上とあの女が君を連れて戻って来た時は、驚きで固まってしまったよ……。しかもまた君を『洗脳』をして! 二回目の『洗脳』は簡単には解けない筈なのに、どうやって解いたんだい?」
「彼が助けに来てくれて、解いてくれたんです」
イシェリアの言葉で、彼女の隣に黒髪の男がいることに気付いたフレデリックは、少し驚きながらも彼に礼を言った。
「本当にありがとうございます。イシェリアを助けてくれて……。もしかして、外の魔物達は貴方が……?」
「――えぇ、まぁ」
「やはり……。あの魔物達、暴れてはいるんですが人に全く危害を加えていなかったので、陽動かなと思ったんです。兄上達は全く気付かずに、今も戦闘が長引くような滑稽な指示を出して戦っていますけどね」
「……よくお分かりで。感服致しました」
「いえ、そんな……。――あの、間違っていたら申し訳ないのですが、ウォードル公爵家の次男であるユーリアス様、ですよね……?」
おずおずと尋ねるフレデリックに、ユーリは驚きの仕草をして彼を見返す。
「何故分かったのです?」
「うちの国の貴族達の顔と名前は、大体把握していますので……」
「フレデリック様は、本当に勉強熱心で聡明なお方なんですよ。この国と国民のことを常に考えておられるんです」
「いやいやそんな……」
宰相のムートンが急いで持ってきた清楚なワンピースを着たイシェリアは、フレデリックを褒め称える。
彼女の言葉に大いに照れるフレデリックを、ユーリはジッと見つめた。
「……貴殿が、あの変態クズ野郎に代わって王になってくれたら、この国は永劫安泰ですね。我ながら良い案です。そうしましょう」
「えっ!? 私がですかっ?!」
自分で言って自分で納得しているユーリに、フレデリックは驚愕の顔つきで素っ頓狂な声を上げた。
「わたくしめも前々から常々そう思っておりました」
ユーリの提案にムートンもうんうん頷き乗っかる。
「……フレデリック様。私がいなくなってから、あの人はきちんとお仕事されていましたか? メローニャさんは?」
イシェリアがフレデリックに尋ねると、彼の顔が曇る。
「……一応してはいたんだけど、適当な部分が多くて……その度に私が直していたよ。大事な案件の決定も、面倒臭がってよく考えずに決める節があって、国の運営に関わる重要な件は、私とムートンが一緒に決めることが何度かあったね。あの女は相変わらず全く仕事をしてないよ。イシェリアがやっていた仕事がどんどん溜まる一方さ」
「決定ですね」
「決定ですな」
『けってーい!』
「……フレデリック様、何卒よろしくお願い致します……」
「え、ええぇっ!?」
その場にいる全員一致の可決に、フレデリックは驚き戸惑いワタワタしている。
「そうなると、まずはあのド変態クズ王を玉座から引き摺り落とさなくてはですね」
「あぁ、それは何とかなると思います。イシェリア様……よろしいでしょうか?」
ムートンがイシェリアにそう尋ねると、彼女はその意図にすぐに気が付き、しっかりと頷いた。
「……イシェリアがあの金庫の暗証番号をこの国の建国年にしたのは、『初心に返って頑張って欲しい』という願いを込めたんだよね? 残念ながら兄上には届かなかったけど……」
「……いいんですよ、もう……」
イシェリアは少し悲しそうに笑うと、首を横に振った。
「イシェリアが金庫に残してくれた書類を見て、私とムートンも秘密裏に色々と調べて、決定的な証拠も手に入ったよ。後は二人を問い詰めるだけだ」
「では、外の魔物を全員魔界に還しますね。あの二人が戻って来たら早速始めましょうか」
ユーリの言葉に、全員が真剣な表情で頷いた。
――決着の刻まで、あと少し――
663
あなたにおすすめの小説
【完結】愛する人はあの人の代わりに私を抱く
紬あおい
恋愛
年上の優しい婚約者は、叶わなかった過去の恋人の代わりに私を抱く。気付かない振りが我慢の限界を超えた時、私は………そして、愛する婚約者や家族達は………悔いのない人生を送れましたか?
どなたか私の旦那様、貰って下さいませんか?
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
私の旦那様は毎夜、私の部屋の前で見知らぬ女性と情事に勤しんでいる、だらしなく恥ずかしい人です。わざとしているのは分かってます。私への嫌がらせです……。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
政略結婚で、離縁出来ないけど離縁したい。
無類の女好きの従兄の侯爵令息フェルナンドと伯爵令嬢のロゼッタは、結婚をした。毎晩の様に違う女性を屋敷に連れ込む彼。政略結婚故、愛妾を作るなとは思わないが、せめて本邸に連れ込むのはやめて欲しい……気分が悪い。
彼は所謂美青年で、若くして騎士団副長であり兎に角モテる。結婚してもそれは変わらず……。
ロゼッタが夜会に出れば見知らぬ女から「今直ぐフェルナンド様と別れて‼︎」とワインをかけられ、ただ立っているだけなのに女性達からは終始凄い形相で睨まれる。
居た堪れなくなり、広間の外へ逃げれば元凶の彼が見知らぬ女とお楽しみ中……。
こんな旦那様、いりません!
誰か、私の旦那様を貰って下さい……。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
冷徹公爵の誤解された花嫁
柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。
冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。
一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。
冷遇された妻は愛を求める
チカフジ ユキ
恋愛
結婚三年、子供ができないという理由で夫ヘンリーがずっと身体の関係を持っていた女性マリアを連れてきた。
そして、今後は彼女をこの邸宅の女主として仕えよと使用人に命じる。
正妻のアリーシアは離れに追い出され、冷遇される日々。
離婚したくても、金づるであるアリーシアをそう簡単には手放してはくれなかった。
しかし、そんな日々もある日突然終わりが来る。
それは父親の死から始まった。
妻が通う邸の中に
月山 歩
恋愛
最近妻の様子がおかしい。昼間一人で出掛けているようだ。二人に子供はできなかったけれども、妻と愛し合っていると思っている。僕は妻を誰にも奪われたくない。だから僕は、妻の向かう先を調べることににした。
愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください
無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる