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34.“愛”を失った哀れな女の結末
しおりを挟む「全く、何だったんだあの魔物達は!? 派手に暴れ回っていたと思ったら突然消えて! 意味不明なのにも程がある!!」
「あーあ、余計な苦労をしちゃったわね。早くシャワーを浴びてスッキリしたいわぁ」
「……君はただ安全な場所で座っていただけじゃないか」
「だって、『魅了魔法』は魔物に掛からないんだもの。同じ『闇』属性の相手には効かないってことを失念していたわ。そういうアナタこそ、安全な場所に突っ立って適当な指示を出してただけじゃない。その所為で現場は余計に混乱を招いてたけど?」
「そっ、そんなことはない!! 的確な指示だった筈だ!!」
「フフッ、そうかしらぁ?」
コザックとメローニャが言い合いながら彼の部屋に入ると、そこには王弟フレデリックと宰相ムートン、そしてイシェリアの肩を抱いた黒髪の男がいた。
「うひゃっ!? お前達、どうしてここに――ん? お前は……!?」
コザックは情けない悲鳴を上げて驚いたが、イシェリアの肩を抱き寄せピットリと寄り添っている黒髪の男をギロリと睨みつけた。
「黒い髪……。――お前かっ!? 私のイシェリアと一緒に住んでいたという気味悪い黒髪の男は!! どうやってここに入ったのか知らないが、さっさとその汚い手を彼女からどかせッ!! その子に触れていいのは私だけだッ! その子は私だけのモノなのだからなッ!!」
「……黙って聞いてみれば、反吐が出る台詞ばかりですね。イシェリアは貴方のモノではありませんよ。この子をモノ扱いしないで下さい。この子は僕の、世界で一番大切な女性なのですから」
「……ユーリアス……」
怒りを滲ませたユーリの言葉に、イシェリアは黄金の瞳を潤ませて彼を見上げた。
ユーリはイシェリアを見返し優しく微笑むと、彼女の細腰を抱き、顎にそっと指を掛け、その小さくて柔らかい唇に自分のそれを重ねた。
バッチリとコザックに見える角度で。
更に舌まで入れて、絡ませて。
「あ……んぅ……っ」
……イシェリアの、コザックが今まで見たことのない蕩けるような顔つきと、聞いたことのない甘い喘ぎ声付きで。
フレデリックとムートンはユーリの意図に気付き、そっぽを向いて見ぬふり聞かぬふりをしている。
『うっわぁ! 今までのお返しとばかりに煽ってんなぁアンタ。余程ハラワタ煮えくり返ってたんだな。――プッ……見ろよクズ王の顔! 今にも爆発しそうなくれぇ青筋立てて超真っ赤になってんぞー。ぶはっ、ひっでぇ顔っ! ぶわはははっ!!』
アーテルがユーリの隣で大爆笑をしている。
「きっ、貴様あぁッ! 私のイシェリアにぃ……ッ!! その唇も中も私だけのモノなんだよッ!! 私がその口を最初に味わう筈だったんだ……ッ!!」
激怒のコザックがユーリに掴み掛かろうと一歩前に踏み出した時、上を向くイシェリアの首筋に、自分の付けた噛み跡が無くなっていることに気が付いた。
「イシェリア……? 私が首につけた噛み跡はどうした? 何故消えているんだ……?」
「あぁ、その汚く不潔な傷は、僕が治しました。貴方達の言う、『聖なる力』の『回復魔法』で。ちなみに僕は『闇の力』のみを産まれ持っています。――さて……これがどういう“意味”か、脳が羽根のような貴方は理解出来ますでしょうか?」
ユーリの言葉と、同時に彼がイシェリアをギュッと強く抱きしめた行動で、コザックは想像したくない“答え”に行き着いてしまった。
「き……さま……ッ! ま……まさかその子をッ!?」
「おや? 予想外にお早い回答でしたね。ふふっ、勿論“合意”の上で、ですよ? いやぁ、本当に幸せな時間でした。まさに“至福”、“最高”の二言でしたよ」
イシェリアを深く抱きしめ、その額に口付けをしながら言ったユーリの言葉に、彼女の顔が真っ赤に染まる。
その反応で、『聖なる力』が――彼女の『処女』がその男に奪われたことをコザックは悟った。
「あ……あぁあ……っ。私の……私だけのイシェリアがぁ……『聖なる力』がぁッッ!! こんな……こんな気味悪い黒髪男に……ッ!! ――この薄汚い“魔族”めぇッ!! 今すぐ斬り刻んでバラバラにして殺してやるッッ!!」
激しい憤怒の形相で腰に差してあった剣を乱暴に抜き、コザックはこちらに向かって駆け出してきた。
この国では、貴族以上の位の高い者に対し、その者が何もしていない状況では取り押さえることが出来ない。
だが、武器を手に殺意を持って人に襲い掛かってきた場合は、平民でもその者を取り押さえることが出来る。
その者の仲間に対しても危険性を考慮し、何もしていなくても取り押さえることが可能だ。
それは、国王も例外ではない。
「今だッ!!」
フレデリックが鋭く叫んだと同時に、密かにコザック達の背後に控えていた騎士二人が動いた。
ダンッと激しくぶつかる音と共に、コザックが床に取り押さえられる。
「ぐぅ……ッ!?」
そして間も与えず、騎士達によってコザックの武器が取り上げられた。
「なッ!?」
同時にメローニャも、部屋に飛び込んできた騎士達に拘束された。
「っ!? ちょっと何よ!? そのばっちい手を離しなさいよ!! これは一体どういうことよっ!?」
「……まずは貴女から参りましょうか、メローニャ・キャンベラ」
フレデリックが一歩前に足を踏み出すと、数枚の書類をメローニャに見せた。
「貴女は王后になる以前に、複数の男性に『魅了魔法』を使い惑わせ、金品を貢がせた挙げ句、凄惨な拷問をして殺害していますね。殺害現場にたまたま居合わせた者がいたんですよ。貴女は興奮状態で気が付かなかったようですが。貴女が恐ろしくて誰かに言ったら自分も殺されるんじゃないかと思い、今までずっと黙っていたそうです」
「……なっ!?」
「それに、いくつか決定的な証拠も残しています。細かく調べ上げたらボロボロと出てきましたよ。それがこの書類に全て書かれています。貴女は殺人に快楽を覚え、『魅了』した男性達を様々な拷問をし殺害していきました。殺害後は感情が高揚し、証拠隠滅が杜撰になっていたのが致命的でしたね」
フレデリックの静かな声音に、メローニャの身体がブルブルと震えている。般若のような凄まじい顔付きで。
「……メローニャ……本当なのか?」
「ちっ、違うわ!! アタシは何もしてない!! アナタ、一番偉い王サマでしょ!? ならこのウソつき男をとっとと捕まえてよっ!!」
「……いや、目の前に証言と証拠があるんだ。本当なんだな……。それなら大人しく罪を償ってくれ、メローニャ」
先程とは別人のように打って変わって冷静になり、小さく首を横に振るコザックに、メローニャは驚愕の表情を向けた。
「ハアァッ!? アナタ、アタシを愛してるんでしょ!? アタシが捕まってもいいのッ!? アタシと一緒にいられなくなるのよッ!? そんなのイヤでしょう!? だったら何とかしなさいよッッ!!」
「……いや……。君をもう愛してはいない。私が愛しているのはイシェリアだ」
「なッ!? 何ですってぇッ!? 『魅了魔法』はまだ解けていないハズ――」
そこまで言って、メローニャはハッとして口を閉ざしたが、もう後の祭りだった。
「……やはり私に『魅了魔法』を使っていたか……。だが、もう効かないな。効かなくなったよ。私が心から愛しているのはイシェリアだと……今になって気付いたから。あの子の『処女』をあんな薄気味悪い男に奪われて、こんなに心が張り裂けそうな思いがするのは、私があの子を『一番』に愛しているからなんだ」
「……アナタ、本当にその子を心から愛しているって言うの……?」
「あぁ、そうだ」
その返答に、メローニャは桃色の瞳を大きく見開かせた後、ボロボロと涙を零しながら狂ったように嗤い始めた。
「プッ……アハハハッ!! あぁそうッ!? それはそれは歪んだ愛ねぇ!? 相手を痛めつけて悦ぶ愛なんてッ!! ならアタシの贅沢三昧はここで終わりってワケね!? アナタとの生活も!! それなら最後にアナタをいたぶって嬲って殺して、快感をたっぷりと味わっておけば良かったわぁ!! だってアタシ、心から愛する人の苦しみもがく表情がだぁ~い好きなんですものッ!! そう、アナタと同じでねッッ!? アーッハッハッハッ!!」
「……この女を牢に連れて行ってくれ」
顔を顰めたフレデリックの命令に騎士二人は頷くと、不愉快な嗤い声を上げ泣き叫ぶメローニャを無理矢理引っ張り、部屋から連れ出して行った。
狂ったように泣き喚きながらも、最後まで、高らかな嗤い声を耳障りに響かせながら――
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