3 / 8
過去
五人の犯罪者
しおりを挟む
僕、アキ、マアナ、グンマ、カミさんの五人は中学一年生の春に出会った。アキに関しては僕は同じ小学校だった。
中学校に入学した僕らは一番最初の班行動である学校探検で一緒の班になった。学城学院は構造が複雑で、学校探検は僕らをワクワクさせるのに十分すぎるイベントだった。
学校探検は順調に進んでいた。僕らは戸惑いながらも確実に仲良くなっていった。事件は図書館のチェックポイントを通ってから、起きた。それは何の前触れもなく、唐突に。
図書館の次は地学実験室だ。その行く途中に中庭があった。古ぼけた中庭だ。ベンチが4個、近くに噴水があり、立派な梅の木が植えられていた。
そのベンチに一人の少女の姿が見えた。歳は4、5歳であろうか。周りに人影はなく少し寂しそうな顔をしている気がする。カミさんは迷わずそちらへ歩いて行った。
「ねえ、名前なんていうの?」
「・・サキ。」
「サキちゃんねー。お姉ちゃんは翔香よ。」
「・・・・」
「こんなとこで何をしているのかな?」
さすがカミさん。コミュ力が高い。僕も負けられない、そんな下らない闘争心を持ってしまった。僕は目の前にぶら下がっている青梅をもぎ取ると冗談のつもりで差し出した。
「サキちゃん、これ食べるー?酸っぱいよー?」
「うん。」
そういうとサキちゃんは僕の手から青梅を取ると口にした。
お腹が空いていたのかな?随分食欲旺盛な子供だな、と思った。いや、待てよ。
「山田!!!」
マアナが叫ぶ。僕は少女から青梅をひったくる。だが、手遅れだったようだ。
そこにはもがき苦しむ一人の人間がいた。目を誠意杯開けこちらを見ている。小さい手と足が微かに痙攣している。少女はベンチから崩れた。僕の足元で体を懸命に震わせている。僕らはそれを見えない厚いフィルタを通して眺めることしかできなかった。
少女は動かなくなった。肌は色を失い、目は僕を見ていた。先程までの楽しい雰囲気は地球の裏側へ追いやられてしまった。
一番最初に動いたのはグンマだった。
「救急車。救急車だ!」
「ここは圏外よ!」
「職員室。職員室に行こう。」
「あ、ああ、や、山田?大丈夫か?お前のせいじゃない。」
アキのフォローを受けてもなお僕は動くことができなかった。
青梅にはアミグダリンという成分が含まれている。この成分は体内で分解されると青酸という毒を出す。普通は死なないのだが4、5歳となると話が違う。死んでもおかしくは無いはずである。
僕はそれを知っててサキちゃんにあげた。立派な殺人罪である。僕は人を殺してしまった。あって3分も経たない前途有望な子供の命を奪ったのだ。吐き気がしてきた。
これからどうなるのだろう。少年院行きか?保護観察処分か?どちらにせよ今の日常が壊れるのは間違いなかった。救急車の音が聞こえている。ドップラー効果などと笑っていた音がやけにリアルに感じる。グンマ達が複数の先生とともに戻ってきた。泣きそうになる。
グンマが僕の元へやってきた。そして僕の耳にこう囁いた。
「何も喋らなくていい。俺たちに任せておけ。」
「え・・」
理解するのにしばらく時間がかかった。グンマ達と先生の会話を聞く限り、どうやら少女はは自分で青梅を食べ倒れた、ということになるそうだ。サキちゃんは死してなお侮辱されたのだ。僕の目から涙がこぼれた。
僕はそのまま4人とともに帰宅させられた。みんな無言だった。走ったら止まれないような急な下り坂を黙々と歩いた。不意に口から、死にたい、という言葉がこぼれ落ちてしまった。
「山田・・・」
「富岡、どうして僕をかばってくれたの?」
「・・分からない、友達だから、かな。」
「そんな、あって一ヶ月も経ってないのに・・」
突然マアナが公園に行こう、と行った。僕らはマアナについていった。そこは須賀公園という遊具も何もないただの草っ原だった。僕らはそこに腰を下ろした。
カミさんがおもむろに語り出した。
「私は山田くんを責めないよ。サキちゃんは自分から梅を口にしたんだわ。これは悲しい事故よ。誰も悪くなんかない。」
「いいや、違うんだ。違うんだよ。僕は上野沢さんを妬んだんだ。見ず知らずの子に話しかけられるのが羨ましかったんだ。だから僕はあんな、あんな馬鹿な真似をしてしまったんだ。僕があの子に青梅を見せたから彼女はしんだんだ。」
場が鎮まってしまった。
「山田。でお前はどうしたいんだ?」
アキがきいてきた。僕は黙ってしまった。
「じゃあお前は自分がやりました、っていうのか。そしたら俺ら4人は先生に嘘をついたことになる。以後先生に目をつけられることになる。」
「アキ・・・そんなつもりじゃ。」
「トッシー。せっかく俺らがお前を助けたんだ。素直に救われてくれ、友人としての頼みだ。」
そうだ。これ以上彼らに迷惑をかけてはいけない。僕は言われた通りにすればいいのだ。僕は。
「今日あったことは五人だけの秘密、いい?私たちは何があっても誰にも言っちゃダメだからね。」
最後はマアナがしめた。僕らの顔はみんな夕陽に染まり赤かった。僕の頭からはサキちゃんの虚ろな目が離れなかった。
僕は犯罪者。そして僕ら五人は僕の罪によって縛られ収縮し続けた。僕ら五人は誰ひとり欠けてはいけない大切な親友同士となった。
中学校に入学した僕らは一番最初の班行動である学校探検で一緒の班になった。学城学院は構造が複雑で、学校探検は僕らをワクワクさせるのに十分すぎるイベントだった。
学校探検は順調に進んでいた。僕らは戸惑いながらも確実に仲良くなっていった。事件は図書館のチェックポイントを通ってから、起きた。それは何の前触れもなく、唐突に。
図書館の次は地学実験室だ。その行く途中に中庭があった。古ぼけた中庭だ。ベンチが4個、近くに噴水があり、立派な梅の木が植えられていた。
そのベンチに一人の少女の姿が見えた。歳は4、5歳であろうか。周りに人影はなく少し寂しそうな顔をしている気がする。カミさんは迷わずそちらへ歩いて行った。
「ねえ、名前なんていうの?」
「・・サキ。」
「サキちゃんねー。お姉ちゃんは翔香よ。」
「・・・・」
「こんなとこで何をしているのかな?」
さすがカミさん。コミュ力が高い。僕も負けられない、そんな下らない闘争心を持ってしまった。僕は目の前にぶら下がっている青梅をもぎ取ると冗談のつもりで差し出した。
「サキちゃん、これ食べるー?酸っぱいよー?」
「うん。」
そういうとサキちゃんは僕の手から青梅を取ると口にした。
お腹が空いていたのかな?随分食欲旺盛な子供だな、と思った。いや、待てよ。
「山田!!!」
マアナが叫ぶ。僕は少女から青梅をひったくる。だが、手遅れだったようだ。
そこにはもがき苦しむ一人の人間がいた。目を誠意杯開けこちらを見ている。小さい手と足が微かに痙攣している。少女はベンチから崩れた。僕の足元で体を懸命に震わせている。僕らはそれを見えない厚いフィルタを通して眺めることしかできなかった。
少女は動かなくなった。肌は色を失い、目は僕を見ていた。先程までの楽しい雰囲気は地球の裏側へ追いやられてしまった。
一番最初に動いたのはグンマだった。
「救急車。救急車だ!」
「ここは圏外よ!」
「職員室。職員室に行こう。」
「あ、ああ、や、山田?大丈夫か?お前のせいじゃない。」
アキのフォローを受けてもなお僕は動くことができなかった。
青梅にはアミグダリンという成分が含まれている。この成分は体内で分解されると青酸という毒を出す。普通は死なないのだが4、5歳となると話が違う。死んでもおかしくは無いはずである。
僕はそれを知っててサキちゃんにあげた。立派な殺人罪である。僕は人を殺してしまった。あって3分も経たない前途有望な子供の命を奪ったのだ。吐き気がしてきた。
これからどうなるのだろう。少年院行きか?保護観察処分か?どちらにせよ今の日常が壊れるのは間違いなかった。救急車の音が聞こえている。ドップラー効果などと笑っていた音がやけにリアルに感じる。グンマ達が複数の先生とともに戻ってきた。泣きそうになる。
グンマが僕の元へやってきた。そして僕の耳にこう囁いた。
「何も喋らなくていい。俺たちに任せておけ。」
「え・・」
理解するのにしばらく時間がかかった。グンマ達と先生の会話を聞く限り、どうやら少女はは自分で青梅を食べ倒れた、ということになるそうだ。サキちゃんは死してなお侮辱されたのだ。僕の目から涙がこぼれた。
僕はそのまま4人とともに帰宅させられた。みんな無言だった。走ったら止まれないような急な下り坂を黙々と歩いた。不意に口から、死にたい、という言葉がこぼれ落ちてしまった。
「山田・・・」
「富岡、どうして僕をかばってくれたの?」
「・・分からない、友達だから、かな。」
「そんな、あって一ヶ月も経ってないのに・・」
突然マアナが公園に行こう、と行った。僕らはマアナについていった。そこは須賀公園という遊具も何もないただの草っ原だった。僕らはそこに腰を下ろした。
カミさんがおもむろに語り出した。
「私は山田くんを責めないよ。サキちゃんは自分から梅を口にしたんだわ。これは悲しい事故よ。誰も悪くなんかない。」
「いいや、違うんだ。違うんだよ。僕は上野沢さんを妬んだんだ。見ず知らずの子に話しかけられるのが羨ましかったんだ。だから僕はあんな、あんな馬鹿な真似をしてしまったんだ。僕があの子に青梅を見せたから彼女はしんだんだ。」
場が鎮まってしまった。
「山田。でお前はどうしたいんだ?」
アキがきいてきた。僕は黙ってしまった。
「じゃあお前は自分がやりました、っていうのか。そしたら俺ら4人は先生に嘘をついたことになる。以後先生に目をつけられることになる。」
「アキ・・・そんなつもりじゃ。」
「トッシー。せっかく俺らがお前を助けたんだ。素直に救われてくれ、友人としての頼みだ。」
そうだ。これ以上彼らに迷惑をかけてはいけない。僕は言われた通りにすればいいのだ。僕は。
「今日あったことは五人だけの秘密、いい?私たちは何があっても誰にも言っちゃダメだからね。」
最後はマアナがしめた。僕らの顔はみんな夕陽に染まり赤かった。僕の頭からはサキちゃんの虚ろな目が離れなかった。
僕は犯罪者。そして僕ら五人は僕の罪によって縛られ収縮し続けた。僕ら五人は誰ひとり欠けてはいけない大切な親友同士となった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる