五里霧中

クロム

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過去

五人の犯罪者

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 僕、アキ、マアナ、グンマ、カミさんの五人は中学一年生の春に出会った。アキに関しては僕は同じ小学校だった。
 
 中学校に入学した僕らは一番最初の班行動である学校探検で一緒の班になった。学城学院は構造が複雑で、学校探検は僕らをワクワクさせるのに十分すぎるイベントだった。

 学校探検は順調に進んでいた。僕らは戸惑いながらも確実に仲良くなっていった。事件は図書館のチェックポイントを通ってから、起きた。それは何の前触れもなく、唐突に。
 
 図書館の次は地学実験室だ。その行く途中に中庭があった。古ぼけた中庭だ。ベンチが4個、近くに噴水があり、立派な梅の木が植えられていた。
 そのベンチに一人の少女の姿が見えた。歳は4、5歳であろうか。周りに人影はなく少し寂しそうな顔をしている気がする。カミさんは迷わずそちらへ歩いて行った。
「ねえ、名前なんていうの?」
「・・サキ。」
「サキちゃんねー。お姉ちゃんは翔香よ。」
「・・・・」
「こんなとこで何をしているのかな?」
 さすがカミさん。コミュ力が高い。僕も負けられない、そんな下らない闘争心を持ってしまった。僕は目の前にぶら下がっている青梅をもぎ取ると冗談のつもりで差し出した。
「サキちゃん、これ食べるー?酸っぱいよー?」
「うん。」
 そういうとサキちゃんは僕の手から青梅を取ると口にした。

 お腹が空いていたのかな?随分食欲旺盛な子供だな、と思った。いや、待てよ。

「山田!!!」
 マアナが叫ぶ。僕は少女から青梅をひったくる。だが、手遅れだったようだ。

 そこにはもがき苦しむ一人の人間がいた。目を誠意杯開けこちらを見ている。小さい手と足が微かに痙攣している。少女はベンチから崩れた。僕の足元で体を懸命に震わせている。僕らはそれを見えない厚いフィルタを通して眺めることしかできなかった。
 
 少女は動かなくなった。肌は色を失い、目は僕を見ていた。先程までの楽しい雰囲気は地球の裏側へ追いやられてしまった。
 
 一番最初に動いたのはグンマだった。
「救急車。救急車だ!」
「ここは圏外よ!」
「職員室。職員室に行こう。」
「あ、ああ、や、山田?大丈夫か?お前のせいじゃない。」
 アキのフォローを受けてもなお僕は動くことができなかった。

 青梅にはアミグダリンという成分が含まれている。この成分は体内で分解されると青酸という毒を出す。普通は死なないのだが4、5歳となると話が違う。死んでもおかしくは無いはずである。
 僕はそれを知っててサキちゃんにあげた。立派な殺人罪である。僕は人を殺してしまった。あって3分も経たない前途有望な子供の命を奪ったのだ。吐き気がしてきた。

 これからどうなるのだろう。少年院行きか?保護観察処分か?どちらにせよ今の日常が壊れるのは間違いなかった。救急車の音が聞こえている。ドップラー効果などと笑っていた音がやけにリアルに感じる。グンマ達が複数の先生とともに戻ってきた。泣きそうになる。

 グンマが僕の元へやってきた。そして僕の耳にこう囁いた。
「何も喋らなくていい。俺たちに任せておけ。」
「え・・」
 理解するのにしばらく時間がかかった。グンマ達と先生の会話を聞く限り、どうやら少女はは自分で青梅を食べ倒れた、ということになるそうだ。サキちゃんは死してなお侮辱されたのだ。僕の目から涙がこぼれた。
 
 僕はそのまま4人とともに帰宅させられた。みんな無言だった。走ったら止まれないような急な下り坂を黙々と歩いた。不意に口から、死にたい、という言葉がこぼれ落ちてしまった。

「山田・・・」
「富岡、どうして僕をかばってくれたの?」
「・・分からない、友達だから、かな。」
「そんな、あって一ヶ月も経ってないのに・・」
 突然マアナが公園に行こう、と行った。僕らはマアナについていった。そこは須賀公園という遊具も何もないただの草っ原だった。僕らはそこに腰を下ろした。

 カミさんがおもむろに語り出した。
「私は山田くんを責めないよ。サキちゃんは自分から梅を口にしたんだわ。これは悲しい事故よ。誰も悪くなんかない。」
「いいや、違うんだ。違うんだよ。僕は上野沢さんを妬んだんだ。見ず知らずの子に話しかけられるのが羨ましかったんだ。だから僕はあんな、あんな馬鹿な真似をしてしまったんだ。僕があの子に青梅を見せたから彼女はしんだんだ。」
 場が鎮まってしまった。
「山田。でお前はどうしたいんだ?」
 アキがきいてきた。僕は黙ってしまった。
「じゃあお前は自分がやりました、っていうのか。そしたら俺ら4人は先生に嘘をついたことになる。以後先生に目をつけられることになる。」
「アキ・・・そんなつもりじゃ。」
「トッシー。せっかく俺らがお前を助けたんだ。素直に救われてくれ、友人としての頼みだ。」
 そうだ。これ以上彼らに迷惑をかけてはいけない。僕は言われた通りにすればいいのだ。僕は。
「今日あったことは五人だけの秘密、いい?私たちは何があっても誰にも言っちゃダメだからね。」
 最後はマアナがしめた。僕らの顔はみんな夕陽に染まり赤かった。僕の頭からはサキちゃんの虚ろな目が離れなかった。

 僕は犯罪者。そして僕ら五人は僕の罪によって縛られ収縮し続けた。僕ら五人は誰ひとり欠けてはいけない大切な親友同士となった。
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