4 / 8
兆し
告白日和
しおりを挟む
僕らは弁当を食べた。これはあの事件からの日課だ。僕らみんなは昼休みにここに来るようにしているし、それに僕らは幸福感を覚えていた。
僕は席を立ってベンチの横にある墓の前に立った。そこにあった梅の木は引っこ抜かれていてお粗末な石の墓がポツンとあるだけだった。そして僕はそこで黙祷をした。
後から聞いた話だが亡くなった女の子の本名は香取早希。5歳だった。彼女はあの事故の当日、PTAの母親と共に学城学院に来ていた。母親は図書室で本を読んでいたらしかったが、夢中になって娘がいなくなったことに気付かったそうだ。早希ちゃんは救急車が到着した時点で死んでおり、必死の蘇生も功をなさなかったそうだ。彼女は自ら青梅を口にしたとみて、警察が動くことはなかった。
昼休みの残り時間を五人で将棋をやったり五目並べをしたりして過ごした。
昼休みの終わりが近づいてきたので僕らは解散した。すると、カミさんが話しかけてきた。
「トシ、話したいことがあるんだけど。」
「ん?何?」
「いや、あの、今日の放課後さ、また中庭に来てくれないかな?」
普段のカミさんと違って何かたどたどしい気がする。
「別に構わないけど、須賀公園には行かないの?」
僕ら五人は特に用事がない時は須賀公園に集まる。
「あ、うん、今日はパスになる、かな?」
「オーケーオーケー。放課後な。」
「うん。」
そういうとカミさんはそそくさと自分の教室へ歩いて行った。
何だろう。このモヤモヤ感は。放課後に人気のない場所へ呼び出し、これは、もしや告白ではないのか。いや、そんな馬鹿な。カミさんはグンマと付き合っているんじゃなかったのか?グンマがカミさんのことが好きなのはグンマの顔を見れば誰でも分かる。しかしカミさんは僕に好意を抱いていたということか。
待て、落ちつくんだ山田。朝から失敗続きじゃないか。冷静になるんだ。考えすぎじゃないか?僕とカミさんは親友同士だ。別に特別な思いを抱いていなくても放課後に何か話したいことがあるのは不思議じゃない。
5、6時間目の授業は全く頭に入らなかった。考えれば考えるほど深みにはまっていき、答えのない疑問を繰り返した。
とうとう帰りのホームルームが終わった。さて、中庭に向かうか。胸がドキドキしてきた。焦るな、常に平静を保て。
中庭についた。そこには誰もいなかった。当然だ。カミさんのクラスはまだホームルームが終わっていない筈だ。僕は暇つぶしに将棋崩しを始めた。これがなかなか面白いのである。特に斜めっている状態のコマをその状態のまま盤外へ運び出すというのが何とも形容しがたい喜びをうむ。
「トッシー。お待たせー。ってあれ、なにしてんのよ?」
「見りゃわかるだろ。将棋崩しだよ。」
「え、一人で?そういう人だっけ、トッシーは。そんな可哀想な人だっけ?」
いつもの上機嫌のカミさんだ。僕もつい高揚してしまう。
「うるさいよ。カミさんがなかなか来なかったからだよ!」
「ゴッメーん。じゃあ今から将棋崩しやろう?」
「え、何か話があったんじゃないの?」
「いいのいいの。ほら、いくわよ。」
こうして僕は日が暮れるまで将棋崩しをやった。
「じゃあ暗くなるしもう帰ろっか。」
「うん。」
「いやあ、さっきのは惜しかったなあ、勝てると思ったのに、トッシー強すぎ。」
僕らは駅まで楽しくおしゃべりしながら帰った。
駅に着くと電車が丁度きた。僕とカミさんは同じ方面だったので同じ電車に乗り込んだ。
「ねえトッシー。」
「何だい?」
「夕陽が綺麗いだね。」
「うん。紫色とオレンジ色、赤色、様々な色が混ざり合って一つの芸術作品を作り上げている。」
「トッシー。」
「・・・」
「私と付き合って?」
「・・・」
電車が止まる。電車の扉が開いた。彼女は下を向きながら電車から降りた。
僕は彼女の背中を見ていたが彼女はすぐに人混みにまみれて見えなくなった。
僕は席を立ってベンチの横にある墓の前に立った。そこにあった梅の木は引っこ抜かれていてお粗末な石の墓がポツンとあるだけだった。そして僕はそこで黙祷をした。
後から聞いた話だが亡くなった女の子の本名は香取早希。5歳だった。彼女はあの事故の当日、PTAの母親と共に学城学院に来ていた。母親は図書室で本を読んでいたらしかったが、夢中になって娘がいなくなったことに気付かったそうだ。早希ちゃんは救急車が到着した時点で死んでおり、必死の蘇生も功をなさなかったそうだ。彼女は自ら青梅を口にしたとみて、警察が動くことはなかった。
昼休みの残り時間を五人で将棋をやったり五目並べをしたりして過ごした。
昼休みの終わりが近づいてきたので僕らは解散した。すると、カミさんが話しかけてきた。
「トシ、話したいことがあるんだけど。」
「ん?何?」
「いや、あの、今日の放課後さ、また中庭に来てくれないかな?」
普段のカミさんと違って何かたどたどしい気がする。
「別に構わないけど、須賀公園には行かないの?」
僕ら五人は特に用事がない時は須賀公園に集まる。
「あ、うん、今日はパスになる、かな?」
「オーケーオーケー。放課後な。」
「うん。」
そういうとカミさんはそそくさと自分の教室へ歩いて行った。
何だろう。このモヤモヤ感は。放課後に人気のない場所へ呼び出し、これは、もしや告白ではないのか。いや、そんな馬鹿な。カミさんはグンマと付き合っているんじゃなかったのか?グンマがカミさんのことが好きなのはグンマの顔を見れば誰でも分かる。しかしカミさんは僕に好意を抱いていたということか。
待て、落ちつくんだ山田。朝から失敗続きじゃないか。冷静になるんだ。考えすぎじゃないか?僕とカミさんは親友同士だ。別に特別な思いを抱いていなくても放課後に何か話したいことがあるのは不思議じゃない。
5、6時間目の授業は全く頭に入らなかった。考えれば考えるほど深みにはまっていき、答えのない疑問を繰り返した。
とうとう帰りのホームルームが終わった。さて、中庭に向かうか。胸がドキドキしてきた。焦るな、常に平静を保て。
中庭についた。そこには誰もいなかった。当然だ。カミさんのクラスはまだホームルームが終わっていない筈だ。僕は暇つぶしに将棋崩しを始めた。これがなかなか面白いのである。特に斜めっている状態のコマをその状態のまま盤外へ運び出すというのが何とも形容しがたい喜びをうむ。
「トッシー。お待たせー。ってあれ、なにしてんのよ?」
「見りゃわかるだろ。将棋崩しだよ。」
「え、一人で?そういう人だっけ、トッシーは。そんな可哀想な人だっけ?」
いつもの上機嫌のカミさんだ。僕もつい高揚してしまう。
「うるさいよ。カミさんがなかなか来なかったからだよ!」
「ゴッメーん。じゃあ今から将棋崩しやろう?」
「え、何か話があったんじゃないの?」
「いいのいいの。ほら、いくわよ。」
こうして僕は日が暮れるまで将棋崩しをやった。
「じゃあ暗くなるしもう帰ろっか。」
「うん。」
「いやあ、さっきのは惜しかったなあ、勝てると思ったのに、トッシー強すぎ。」
僕らは駅まで楽しくおしゃべりしながら帰った。
駅に着くと電車が丁度きた。僕とカミさんは同じ方面だったので同じ電車に乗り込んだ。
「ねえトッシー。」
「何だい?」
「夕陽が綺麗いだね。」
「うん。紫色とオレンジ色、赤色、様々な色が混ざり合って一つの芸術作品を作り上げている。」
「トッシー。」
「・・・」
「私と付き合って?」
「・・・」
電車が止まる。電車の扉が開いた。彼女は下を向きながら電車から降りた。
僕は彼女の背中を見ていたが彼女はすぐに人混みにまみれて見えなくなった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる