五里霧中

クロム

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兆し

真昼の攻防戦

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 とうとう四時間目が終わり昼休みがやってきた。僕は弁当をバックから取り出し、周りを見渡した。アキとマアナは弁当を取り出しているところだった。そして、沙耶高はというとすでに弁当を手に持ち僕のところへ向かってきていた。
「トッシー!行こうぜ!」
「あ、ああ。」
 
 するとアキとマアナも来た。
「なんだ?沙耶高も来るのか?」
「山田くんと沙耶高くんって仲よかったかしら。」
「いや、その、これは。」
 なんと説明すればいいのだろう。僕は途方に暮れて沙耶高を見た。沙耶高は一つも焦ることなく満面の笑みで答えた。
「葛西と舞亜菜だね。今日は一緒に昼ごはん食べていい?後、俺トッシーと将棋するって約束したから。」
「えーっとまあいいんじゃない?ねえアキ?」
「・・・・どうだろうな。」
 アキはあまり乗り気ではなさそうだが三対二だ。それに、断る理由など大してないのだ。
「うん、じゃあ中庭に行こうぜ!沙耶高も。」
「ありがとう、よっしゃー!!楽しみだぜー!」
 少し賑やかになりそうだ。
 中庭までの道のりが沙耶高が一緒だと特別なものにみえてくる。アキとマアナは二人で何かを話していた。

 中庭に着くとグンマがいた。グンマのクラスは毎回四時間目が終わるのが早い。実は先生が早くご飯を食べたいからという噂までたっていた。
「よー遅かったな。カミさんはまだか。ん?アキ、お前の隣に居る奴誰だ?」
「あーこいつ同じクラスの沙耶高。」
「えっとB組の富岡だっけ?よろしく。」
 こいつは本当に人見知りをしない奴だ。グンマは驚きながらも冷静に沙耶高に尋ねる。
「で、お前。何しに来たんだ?何が目的だ?」
「おいおい、グンマ。そう焦ることないじゃないか。」
 グンマは何か言いたげそうな顔したが口を噤む。沙耶高は少し真面目な顔をし、座っているグンマを見下ろすようにして答えた。
「最近クラスに自分の居場所がないっていうか、教室が窮屈に感じるっていうかあんま馴染めなくてさ。それで中庭で楽しそうにしているお前らと一緒に昼ごはんを食べたくって。俺、ほら、将棋とかさせるから・・」
 そうだったのか、全然気づかなかった。もはや、沙耶高を追い出すことは悪い事としか思えなくなった。とにかく昼ごはんを食べなくては。
「遅れたーー。ゴッメンー!あれ、沙耶高くんなんでここにいるの?」
「あー上野沢さん。久しぶり。」
 やっとカミさんがやってきた。カミさんは沙耶高と知り合いのようだ。どういう繋がりなのだろう。
「えーっとお二人はどういう関係?」
「私もう辞めたけど一年の頃放送部に入っていたのよ。その時一緒だったってだけだわ。」
「君がいなくなってから放送部は寂しくなったよ。それはそうと、こんなところで会うとは奇遇だな。」
 グンマの顔が険しくなった気がして僕は気まずくなった。
「さ、昼ごはんを食べよう!」
 マアナが全員に呼びかける。ベンチに六人座ると一人増えただけで狭く感じた。

 昼ごはんを食べ終えると僕はサキちゃんの墓へ向かう。すると、沙耶高までついて来た。別に見られたらまずいわけでもないのだが、なんとなく嫌だった。
「え、なにこれ?」
 予想通り質問してきた。これは僕ら五人を結ぶ象徴であり鎖である。だが、それを沙耶高に教えるわけにはいかない。
「一年前にここで事故があったんだ。かわいそうに死んじゃってさ、だからここに墓をつくって供養してるんだ。」
「あーそれ知ってるぜ。確か学校探検の日だっけな。そうか、ここだったのか。」
「うん。じゃあ昼ごはんも終わった頃だし将棋、やるか?」
「お、やってやろう。」

 中庭には設備として将棋のセットが二つと囲碁のセットが三つある。といってもどれも汚れており、碁石はところどころ欠けている。それでも僕らの暇潰しには丁度いい。

 僕は沙耶高と将棋をアキはマアナと五目並べ、カミさんはグンマと囲碁をすることになった。特に対戦相手は決まってなく食べ終わった人から順にさしていく。いつもは五人なので一人は観戦という形だったが今日は六人なので全員対局することができた。
 沙耶高はなかなか強かった。僕は防戦一方でなかなか攻めに移れなかった。沙耶高はいつになく真剣な顔で次の手を考えている。
 隣でアキの叫ぶ声が聞こえる。マアナに負けたようだ。もう一回とせがむアキの声が聞こえた。
 局も中盤になり守りも攻めも崩れかけていた。僕の攻めの手はことごとく見破られ王を守るのは飛車と金だけになった。敵の銀はこちらの守りへ踏み込みかためていた。だが、こちらの角とと金も相手の陣地に侵入している。五分五分ってとこだろう。
 カミさんとグンマがやってきた。囲碁が終わったようだ。
「頑張ってトッシー。」
 僕はカミさんからグンマに聞こえないように囁かれた。しかしかえってそれが怪しそうに見えたのだろう。グンマだけでなく沙耶高まで不審そうに見てくる。
「トッシーって上野沢と付き合ってんの?」
 沙耶高が少し語気を強めて聞いてくる。グンマもまじまじと見てくる。絶体絶命のピンチだ。と、隣で五目並べをしているアキが叫ぶ。
「あーまた負けたー!!マアナ強すぎ。もう一回もう一回だ!」
 沙耶高が笑いながら僕を見て言い放った。
「お前には渡さねーよ。」
「え、なにが・・」
 まさかアキさんのことを言っているのか。でもこいつは僕がカミさんと付き合っていることは知らないはずだ。きっと何かの冗談のつもりで言ったのに違いない。グンマは僕らに背を向け五目並べを見ることにしたようだ。僕はすっかり動揺してしまった。次の一手を考えようとしても、頭がストライキしている。
 
 その三分後僕はあっさり沙耶高に負けた。
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