イージスの盾

櫃間 武士

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第1章「ジョニー、自殺する」

01

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 俺は自暴自棄になっていた。

 興味本位で受けた脳ドックで悪性腫瘍が見つかり、余命半年と診断されたからだ。

 俺は医者の診断を受け入れることができず、安アパートの一室に引きこもり、毎日パソコンで治療方法がないか検索した。

 しかし、俺の自慢の最新式のパソコンでも治療方法は見つからなかった。

「フン!苦しむぐらいならひと思いに自殺してやらあ!」

 俺は近所のホームセンターに行き、護身用だと偽って一丁の拳銃を購入した。

 パブに寄ってしこたま安酒をあおった俺は、夜遅く安アパートに戻ってきた。

 俺はベッドに腰掛けると自分のこめかみに銃口を当てた。

「さらば!くそったれな我が人生よ!」

 俺はそう叫ぶと、目を閉じ、静かに拳銃の引き金を引いた。

 一瞬、恋人のマリーの顔が頭をよぎった。

 耳元で凄まじい銃声がした。

 と、壁に掛けていた額縁のガラスが割れ、床に落ちた。

「えっ?」

 俺は恐る恐る目を開け、自分のこめかみを触ってみた。

 かすり傷ひとつついていない。

 銃口に触れると熱い。確かに銃弾は発射されていた。

 俺は酒で少しふらつく足で立ち上がると、額縁の掛かっていた壁際に向かった。

 壁には小さな弾痕ができ、中には俺が発射した銃弾がめり込んでいた。

「――どういうことだ?俺はスーパーマンのように銃弾を跳ね返したのか?まさかな……」

 もともと無神論者の俺は、神の奇跡など信じなかった。

「酔っぱらっているから手元が狂って外しただけだ。今度は確実に死のう」

 俺は再びベッドに腰掛けると、今度は銃口を口にくわえた。

 俺が引き金を引くと同時に銃声がし、今度は足元の床に銃弾がめり込んだ。

 すっかり酔いの醒めた俺は、唖然として鏡に映った自分の顔を撫でまわした。

 口を開いて中を覗いてみた。

 どこにも傷一つついてはいない。

「間違いない。俺は弾を弾き返したんだ」

 その時、ドンドンと部屋のドアが激しく叩かれた。

「おい、何を騒いでやがる!今のは銃声じゃないのか?」

 アパートの大家が銃声を聞きつけて、慌てて飛んできたのだ。

 ドア越しに俺は怒鳴った。

「知るもんか!とっとと失せろ!」

「チッ!今度騒ぎ起こしたら追い出すからな!」

 大家は悪態をつきながら去って行った。

 いくらこの辺りが治安の悪い街だといっても、何度も銃声が響くと通報されてしまう。

 俺は左手を机の上に広げると引き出しからナイフを取り出した。

 そして大きく深呼吸をすると、思い切ってナイフを自分の手の甲に突き刺した。

 ナイフの切っ先はピタッと手の甲の上で止まった。

 いくら力を込めても、ナイフはそれ以上動かなかった。

 胸、腹、足、目玉…。

 幾度も俺は自分の体にナイフを突き刺そうとしたが、ナイフはけっして俺の皮膚に達しなかった。

 俺はほくそ笑んだ。

「俺の人生、最後の最後に面白くなってきやがったぜ!」
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