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第1章「ジョニー、自殺する」
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「やめてよ、リック!ジョニーは病気なのよ!」
マリーがリックのズボンの裾を掴んで、涙ながらに懇願した。
リックの手下のスティーブが、マリーの肩を掴んで無理やり引きはがすと、床に転がっていたフォークを掴んで彼女の喉元に突きつけた。
「リックさんの邪魔をするんじゃねぇよ、クソアマッ!」
「おい、スティーブ!口を慎め!リックさんの女になる方だぜ」
もう一人の手下のカートがそう言って、媚びるようにリックを見上げた。
「フフン………!」
リックは鼻息を荒げて、厭らしい目つきでマリーの全身をなめまわすように見つめた。
「心配はいらねぇよ、マリー!ジョニーは女の前で、ちょいとカッコをつけただけだ。見ろよ、青白い顔をして怯えているぜ!自分のしでかしたことを後悔して、ビビっているのさ!こんなフニャチン野郎!俺様がマジで相手をするわけないだろう!」
確かに俺の顔は緊張でこわばっていた。
自分の持つ超能力は信じていたが、今まで算段痛めつけられていた凶暴な大男と対峙すると、本能的な恐怖心が胸にこみあげてきた。
俺は勇気を振り絞り、声が震えないように細心の注意を払いながら言った。
「お前の方こそ、いくらマリーの前でカッコつけても無駄だぜ。お前みたいな顔面崩壊した筋肉バカ、発情した動物園のゴリラも相手にしてくれないぜ!」
リックは憤怒に全身をワナワナと震わせた。
「バカな野郎だ……。死んだな……」
スティーブがゴクリと生唾を飲み込んでつぶやいた。
(ジョニーは死ぬ気なんだわ!)
マリーもそう思った。
ヤクと八百長で連盟を追放されたとはいえ、リックは元プロレスラーだった。
その気になればリックは、片手でバーガーを食べながらでも俺をくびり殺せる。
(ジョニーは病気だと言っていたが、それでヤケを起こしているのだわ!)
「普通にやれば、俺様が瞬殺だ。それじゃあ、つまらねぇ。ジョニー、ひとつお前にハンデをやるぜ。お互いに一発ずつ殴り合うんだ。逃げたり、倒れた方が負けだ。つまり、根性のある方が勝ちって寸法だ」
リックがクイッと顎でカートに合図を送った。
カートが懐から長い鎖の付いた手錠を取り出した。
そして、カートは楽しそうに鼻歌を歌いながら手錠をリックと俺の左手首にはめた。
リックと俺は1メートル程の鎖で繋がれた。
リックが現役のプロレスターだった時に、得意だったチェーンデスマッチだ。
もうこれで俺は逃げることができなくなった。
倒れてもリックは無理やり俺を起こして、殴り続けるだろう。
リックは俺を時間をかけてなぶり殺すつもりだ。
マリーは絶望で目の前が真っ暗になった。
「1対1の男の勝負だ。勝った方がマリーをモノにする。文句はねぇな!」
何を勝手なことを言ってるのよ!
マリーがそう言おうとした矢先、俺は信じられない言葉を口にした。
「いいぜ。どうせ俺が勝つんだ……」
「――ジョニー…………。正気なの……!?」
「その代わり、俺が勝ったらお前らボンクラ三人組は工場を辞めて、二度とマリーの前に現れるなよ」
「何ぬかしやがる……!?」
スティーブが口から泡を吹き出した。
「リック!やっぱり、こいつ、イカレてますぜ!」
もうランチタイムはとっくに終わっていたが、社員食堂にいた者は全員、固唾を飲んで鎖で繋がれた二人の男を見守っていた。
「ハンディをやるぜ。ジョニー、お前から先に殴ってみろ」
「――お言葉に甘えて…」
俺のパンチがリックの腹に当たった。
だが、ペチッと弱々しい音がしただけだった。
三人組は腹を抱えて大笑いをした。
「何でぇ、その小便パンチは!?ハエが止まってたぜ!」
「おい、ジョニー!遠慮はいらねぇから、本気だしてくれよお!」
リックは腹をポリポリとわざとらしく掻きながら言った。
「それじゃあ、今度は俺様の番だな!一発で死なないでくれよな!」
(1発で決まったら面白くねぇ。せいぜい、長引かせていたぶってやるぜ)
リックは大げさに腕を振りかぶってから、全力の八割程度の力で俺の腹を殴った。
ドスッと鈍い音がした。
リックの太い腕が俺の腹に食い込んだように見えた。
しかし、俺は身じろぎ一つしないでじっと立っていた。
代わりに、机の上に散乱していた食器が音を立てて飛び跳ねた。
パンチの衝撃は、俺の身体の表面を伝って机の上に拡散されたのだった。
マリーがリックのズボンの裾を掴んで、涙ながらに懇願した。
リックの手下のスティーブが、マリーの肩を掴んで無理やり引きはがすと、床に転がっていたフォークを掴んで彼女の喉元に突きつけた。
「リックさんの邪魔をするんじゃねぇよ、クソアマッ!」
「おい、スティーブ!口を慎め!リックさんの女になる方だぜ」
もう一人の手下のカートがそう言って、媚びるようにリックを見上げた。
「フフン………!」
リックは鼻息を荒げて、厭らしい目つきでマリーの全身をなめまわすように見つめた。
「心配はいらねぇよ、マリー!ジョニーは女の前で、ちょいとカッコをつけただけだ。見ろよ、青白い顔をして怯えているぜ!自分のしでかしたことを後悔して、ビビっているのさ!こんなフニャチン野郎!俺様がマジで相手をするわけないだろう!」
確かに俺の顔は緊張でこわばっていた。
自分の持つ超能力は信じていたが、今まで算段痛めつけられていた凶暴な大男と対峙すると、本能的な恐怖心が胸にこみあげてきた。
俺は勇気を振り絞り、声が震えないように細心の注意を払いながら言った。
「お前の方こそ、いくらマリーの前でカッコつけても無駄だぜ。お前みたいな顔面崩壊した筋肉バカ、発情した動物園のゴリラも相手にしてくれないぜ!」
リックは憤怒に全身をワナワナと震わせた。
「バカな野郎だ……。死んだな……」
スティーブがゴクリと生唾を飲み込んでつぶやいた。
(ジョニーは死ぬ気なんだわ!)
マリーもそう思った。
ヤクと八百長で連盟を追放されたとはいえ、リックは元プロレスラーだった。
その気になればリックは、片手でバーガーを食べながらでも俺をくびり殺せる。
(ジョニーは病気だと言っていたが、それでヤケを起こしているのだわ!)
「普通にやれば、俺様が瞬殺だ。それじゃあ、つまらねぇ。ジョニー、ひとつお前にハンデをやるぜ。お互いに一発ずつ殴り合うんだ。逃げたり、倒れた方が負けだ。つまり、根性のある方が勝ちって寸法だ」
リックがクイッと顎でカートに合図を送った。
カートが懐から長い鎖の付いた手錠を取り出した。
そして、カートは楽しそうに鼻歌を歌いながら手錠をリックと俺の左手首にはめた。
リックと俺は1メートル程の鎖で繋がれた。
リックが現役のプロレスターだった時に、得意だったチェーンデスマッチだ。
もうこれで俺は逃げることができなくなった。
倒れてもリックは無理やり俺を起こして、殴り続けるだろう。
リックは俺を時間をかけてなぶり殺すつもりだ。
マリーは絶望で目の前が真っ暗になった。
「1対1の男の勝負だ。勝った方がマリーをモノにする。文句はねぇな!」
何を勝手なことを言ってるのよ!
マリーがそう言おうとした矢先、俺は信じられない言葉を口にした。
「いいぜ。どうせ俺が勝つんだ……」
「――ジョニー…………。正気なの……!?」
「その代わり、俺が勝ったらお前らボンクラ三人組は工場を辞めて、二度とマリーの前に現れるなよ」
「何ぬかしやがる……!?」
スティーブが口から泡を吹き出した。
「リック!やっぱり、こいつ、イカレてますぜ!」
もうランチタイムはとっくに終わっていたが、社員食堂にいた者は全員、固唾を飲んで鎖で繋がれた二人の男を見守っていた。
「ハンディをやるぜ。ジョニー、お前から先に殴ってみろ」
「――お言葉に甘えて…」
俺のパンチがリックの腹に当たった。
だが、ペチッと弱々しい音がしただけだった。
三人組は腹を抱えて大笑いをした。
「何でぇ、その小便パンチは!?ハエが止まってたぜ!」
「おい、ジョニー!遠慮はいらねぇから、本気だしてくれよお!」
リックは腹をポリポリとわざとらしく掻きながら言った。
「それじゃあ、今度は俺様の番だな!一発で死なないでくれよな!」
(1発で決まったら面白くねぇ。せいぜい、長引かせていたぶってやるぜ)
リックは大げさに腕を振りかぶってから、全力の八割程度の力で俺の腹を殴った。
ドスッと鈍い音がした。
リックの太い腕が俺の腹に食い込んだように見えた。
しかし、俺は身じろぎ一つしないでじっと立っていた。
代わりに、机の上に散乱していた食器が音を立てて飛び跳ねた。
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