イージスの盾

櫃間 武士

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第2章「ジョニー、クリスピータコスを食す」

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 フィフス・ストリートのアジトはその名の通り、街のはずれにあるスラム地区、五番街にある。

 ここがマンハッタンならば五番街と言えば、高級マンションや豪邸が立ち並ぶ世界一地価の高い通りだろう。

 だが、この町の五番街と言えば泣く子も黙り、黙らなければ撃ち殺されてしまう恐ろしいギャングの巣窟だった。

 五番街にひときわ高くそびえたつインテリジェントビルの最上階にエレーベータが止まると、ビルとカートが現れた。

 左右の壁に沿って、黒服のボデーガード達が並んで立っていた。

 足が沈みそうなフカフカの絨毯が敷き詰められた部屋には、大理石でできた最高級のエグゼクティブデスクが一つ置いてあるだけだった。
 
「リック、しばらく見ない間に、随分とハンサムになったじゃねぇか。どこで整形したんだい?」

 フィフス・ストリートのボス、ミゲル・トレビノは、椅子に腰かけたまま、腫れ上がったリックの顔をチラッと見て言った。

 トレビノはデスクの上に置いたリボルバーにゆっくりと銃弾をこめているところだった。

 パッと見、トレビノはどこにでもいる太った中年男だが、常軌を逸した凶悪性・残虐性でギャングたちからも恐れられている。

 無表情なトレビノを前にして、リック達は緊張で震え上がっていた。

「は、はい…………」

「黙ってちゃわからねぇだろうが!!」

 トレビノが声を荒げると、リックはビクリと肩を震わせた。

「お、同じ工場で働いてたジョニーってガキにやられました」

「ほう…………。工場で働いてる、ただのガキにやられたっていうのか?」

 トレビノは今度はカートの方を見た。

「お前は、リックの子分だよな?カートとか言ったっけ?」

「へい………」

「お前、そのガキがメシ食ってるところを襲って、逆にぶちのめされたそうだな」

「あのガキ、なんか変な武術を使ってるみたいでして………」

「その時、フィフス・ストリートの名前を出したそうだな」

「い、いや、俺は………」

「リック!カート!おめぇら、いつの間にフィフス・ストリートのメンバーになったんだ?わしはお前らを正式にフィフス・ストリートに入れた覚えはないんだがな………」

 トレビノは目の前に直立不動で立っているリックの顔を下から覗き込んだ。

「ええ?リック?どうしておめえら、まだ、フィフス・ストリートに入団できないんだっけ?」

「――入団するための掟があるからです。フィフス・ストリートに入団する者は、フィフス・ストリートの敵を必ず一人、殺さないといけない………」

「その通り!!」

 トレビノが立ち上がった。

「お前ら、まだフィフス・ストリートの敵を殺したことがねぇから、入団できねぇんだったな。ひとつ、お前らにチャンスをやろう」

 トレビノはポンとリックとカートの目の前にリボルバーを放り投げた。

「――――こ、これでジョニーを殺れってことですかい?」

「チッ!チッ!チッ!」

 トレビノは右の人差し指を左右に振った。

「わかってねぇな。お前らは、フィフス・ストリートの名前を出して無様に負けたんだ。お前らはフィフス・ストリートの名前を汚した敵なんだよ!」

 リックとカートは、しばらくお互いの顔を見つめていた。

 と、二人同時にリボルバーに飛びついた。

 一瞬早く、リックの方が先にリボルバーを手にした。

「リックさん!!」

 カートが両手を組んで、哀願した。

 何のためらいもなく、リックはカートに向けてリボルバーの引き金を引いた。

 カートの額に穴が開き、死体となって転がった。

 周囲に控えていたボディーガードの一人が、カートの両足を持ってどこかに引きずって行った。

「リック!入団を許可してやるぜ!!手下と武器を貸してやる。そのジョニーとか言うガキに落とし前つけてこい!」
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