イージスの盾

櫃間 武士

文字の大きさ
10 / 35
第2章「ジョニー、クリスピータコスを食す」

10

しおりを挟む
 クラウの部屋のベッドで俺は目が覚めた。

 隣で寝息を立てているクラウを起こさないように、俺はそっとベッドを抜け出し、直接バスタオルを裸の腰に巻いた。

 冷蔵庫を開け、酔い覚ましのトマトジュースをガラスコップに注ぐと、ベランダに出て朝陽に照らされた外の景色を眺めた。

 昨夜は暗くて気づかなかったが、ここ六階のベランダからは市民公園がよく見える。

 何人か、ヒマ人が早朝の公園をジョギングしている。

 俺はトマトジュースを飲みながら、ボーと公園を眺めていた。


 俺のこの超能力は一体何なんだろう?

 余命いくばくもない俺を憐れんで神様が超能力を授けて下さった。

 神様がこの超能力を使って、悪と戦い、正義を成せとおっしゃっている。

 そんなこたあ、カケラも考えてもいない。

 だが、もしかしたら、脳にできた腫瘍が原因で、俺は超能力を手に入れたのではないかと疑っていた。

 俺は日本のアニメによく出てくるエスパーになったのかもしれない。

 だったら超能力にカッコイイ名前を付けねぇとな………。

 ギリシャ神話に出てくる女神アテナの持つ最強の盾になぞらえて「イージスの盾」なんてどうだ?

 正直言って、ギリシャ神話なんか知らねぇが、アニメに出てきたので憶えていただけだが―――。

 でも、防御するだけじゃ必殺技みたいに叫べねぇしなあ………。


 ―――てなことを、寝ぼけた頭で考えていた時だ。

 俺の手のひらからガラスコップが滑り落ち、ベランダの床にトマトジュースをぶちまけた。

 俺の目の前に、突然、純白のローブを身にまとった金髪の少女が現れたからだ。

 少女は、ベランダの外、空中に浮かんでいた。

 なんと、背中には白い大きな翼までしょってやがる。

 俺は無神論者だ。

 天使なんかいるわけねぇ。

 俺はイカレちまって、幻覚を見ているんだ。

 その少女はじっと何か言いたげに俺のことを真正面から見つめていた。

 少女はゆっくりと、右の人差し指を伸ばし、マンションの下を指差した。

 俺は視線を落として、少女が指し示す方を見下ろした。

 二台の黒塗りのワゴンカーが走って来て、マンションの入口前に停まった。

 車内からひと目でギャングとわかるヤバイ恰好をした奴らが、拳銃やライフルを持ってぞろぞろと降りてきた。

 遠目でもわかる、ひと際ガタイのいい男がこっちのほうを見上げて指差した。

 リックだ!

 俺は慌ててベランドの陰に隠れた。

 リックのヤツ、フィフス・ストリートのギャングを引き連れて、殴りこんできやがった。

 俺は急いでベッドルームに戻って、クラウを揺すり起こした。

「ウーン…………、何なの、ジョニー……?こんな朝早く……。まだ、満足していないの…………」

「寝ぼけてないで、服を着てくれ!フィフス・ストリートが攻めてきた!」

「た、大変ッ!」

 クラウはベッドから飛び起き、大慌てでショーツに脚を通し、バスローブを羽織った。

「非常階段から逃げましょ!」

「逃げる?バカ言え!ヤツラ、この町を麻薬漬けにしやがる社会のダニだ。駆逐してやるぜ!」

「無茶よ、ジョニー!」

「ちょいと、このバットを持っていてくれ」

 俺は昨夜クラウからもらった金属バットを彼女に手渡した。

 それからクラウをお姫様だっこをして、俺はベランダに向かって駈け出した。

「キャーッ!」

 クラウがけたたましい叫び声をあげたが、俺は構わずベランダからダイブした。


 一階のマンションの入り口には、見張り役のギャングが一人、立っていた。

 俺はクラウを抱きかかえたまま、そのギャング目掛けて落下した。

 ゴキッと言う首の骨が折れる音がして、俺はギャングの頭の上に着地した。

 見張りはこいつ一人だけで、残りはクラウの部屋に向かってエレベータで登っているところだ。

 俺はクラウを安全な物陰に隠すと、金属バット一本を携えてマンションの中に入っていった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...