イージスの盾

櫃間 武士

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第2章「ジョニー、クリスピータコスを食す」

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 俺のバットスイングに打っ飛ばされて、ギャングのリーダーは血ヘドを吐きながら背中から倒れていった。

 と同時に、俺を取り囲んでいたギャング達のピストルが一斉に火を噴いた。

 中にはサブマシンガンやショットガンまで使って、流れ弾が仲間に当たるかもしれないのにお構いなしだ。

 元々フィフス・ストリートは、穀潰しの犯罪者共を金の力で掻き集めただけの烏合の衆だ。

 命令を出すリーダーが顎を押さえて床に転がってる今、てんでバラバラで統制がとれていない。

 俺は銃弾の嵐の中、微動だにせず、クールに立っているだけだった。

 ギャング共が撃った銃弾は俺の身体で跳ね返り、部屋中、四方八方に飛び交った。

 しばらくして、俺は硝煙を外に出すためにガラス戸を開け、ベランダに出た。

 背後のリビングには、自分たちの武器で被弾した間抜けなギャング達が、うめき声を上げながら横たわっている。

「――結局、俺が自分の手で倒したのは、見張りとリーダーだけだったな」

 せっかくクラウの前で恰好つけて、金属バットを持ってギャング共に立ち向かったのに拍子抜けだった。

 しかし、今まで、俺の持つ特殊能力「イージスの盾」は防御戦闘において特化したもので、攻撃力の圧倒的欠如が不安要素だった。

 だが、今のように敵の攻撃を反射する「カウンターアタック」を使えば、向かうところ敵無しではないか。

 俺はすっかり浮かれて、ベランダから地上を見下ろした。
 
 建物の陰から、バスローブ姿のクラウが心配そうに顔を覗かせているのが見えた。

 早く、安心させてやらないといけない。

 俺はクラウに声をかけようと、ベランダから身を乗り出した。

 その時だった。

 目の前の空中に、再び天使が――いやいや、天使なんているはずない――金髪のロングヘアーで白いロープを身にまとった十七歳ぐらいの白人少女(背中に大きな白い翼がついている)が現れた。

「すっかりお前のことを忘れてたぜ!お前………一体何なんだ!?」

 少女は右手がゆっくりと上がって、俺のことを指差した。

「――俺がどうした?」

 と、ガッシリとした太い腕が背後から伸びて来て、見覚えのある手錠があっさりと俺の右手にカチャッとかけられた。

「やったぜ!捕まえたぜ!!」

 リックの狂喜の叫び声がした。

 驚いて振り返ると、リックが喜色満面のニンマリ顔で、もう片方の手錠を自分の左手にかけるところだった。

 この野郎、物陰に隠れてこのチャンスを待っていたんだな!

 確かに俺の身体の表面は摩擦係数ゼロみたいで、掴もうとしても無駄である。

 だが、こうして手錠をかけられたり、何かに閉じ込められたりしてしまったら、抵抗も脱出もできやしねぇ!

 なるほど、完全無敵だと調子に乗っていたが、意外な弱点があったな。

「リック!お前が自分で手錠を持っていたのか?腰ぎんちゃくのカートはどうした?」

「あの役立たずなら俺の手でぶち殺してやったぜ!」

「――――やっぱり、お前ら、この世に1秒たりとも存在しちゃいけねぇな!」

 俺はベランダに置いてあった大きな鉢植えをよろめきながら持ち上げた。

「何してやがる!そんな物ぶつけても、俺様は痛くもかゆくもないぜ!」

「重量調整だよ!」

 そう言って、俺は鉢植えを抱えたままベランダから飛び降りた。

「うがわああああああッ!!」

 俺プラス鉢植えの重量に引きずられ、手錠でつながれたリックもベランダから飛び出した。


 俺は真っ逆さまに頭から落下していった。

 すると、俺の目の前に、翼の生えた少女が再び現れ、一緒になって落下した。

 少女の顔が、俺の鼻先数センチ先まで近づいてきた。

「………………!?」

 少女のうるうるとしたピンク色の唇がかすかに動き、小さな囁き声が聞こえた。

「………パ………パ………」

「パ……パパだとッ………!?」

 俺が目を丸くして叫んだ時、俺の身体はワゴン車の上に落下し、屋根を突き破った。
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