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第3章「ジョニー、お見舞いに行く」
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クラウは今、集中治療室で生死の境をさまよっている。
俺とマリアナは人気のない真っ暗な病院のロビーで、ただ座って何かの知らせがないか、待っていることしかできなかった。
長椅子に腰かけた俺は、言いようのない絶望と自責の念に胸をさいなまれている。
「――クラウが死んだら、俺のせいだ!」
「そんなことないよ!」
俺の左隣に座るマリアナが力強く俺の手を握りしめた。
「ジョニーは何も悪いことをしていない!みんなフィフス・ストリートが悪いのよ!」
俺はマリアナの手を払いのけた。
「俺に近寄ると、マリアナも狙われるぞ!」
「ジョニーと一緒なら、死んでもいいス!」
マリアナはそう言って、俺の肩ににもたれかかった。
疲れていたのだろう、すぐにマリアナは俺の肩に寄り添ったまま静かに寝息を立てた。
「おい!セラベラム!この状況、何とかならねぇのか?」
俺は右隣にちょこんと座っているセラベラムに話しかけた。
セラベラムは正面を向いたまま、まったくの無反応だった。
「ちくしょう!なんとかもっと、コミュニケーションをとる方法はないのかよ?」
と、俺の言葉に反応したのか、セラベラムがゆっくりと右腕を動かし、俺の胸ポケットに入れたスマホを指差した。
「何だ、お前?スマホを使いたいのか?」
セラベラムはOKサインを指で示した。
俺は長椅子の上にスマホを置いてみた。
セラベラムの右手がスマホに近づいたと思ったら、指先がそのまま、スマホの中にめり込んだ。
スマホの画面が目まぐるしく変わっていった。
どうやら、ネットサーフィンをして、学習をしているようだ。
「おい、マリアナ!ちょっとスマホを貸してくれよ」
マリアナの肩を揺すったが、気持ち様さそうに眠っていて起きそうもなかった。
俺はマリアナが持ってたバックの中を勝手に漁って、彼女のスマホを取り出した。
俺のスマホの横にマリアナのスマホを置くと、思った通り、セラベラムは空いてる左手をスマホにめり込ませ、操作を開始した。
二台同時にスマホを操作しながら、セラベラムの眼球はものすごいスピードで小刻みに揺れている。
そんな状態は一時間ほど続いた。
突然、セラベラムの動きが止まり、俺に話しかけてきた。
「パパ!スマホをお返しますわ!」
「――もう言葉を覚えたのか!?」
「まだまだ、至らぬ点があるかと存じますが、以後、お見知りおきを……」
「いや、こちらこそ……」
俺はつい、お辞儀をしてしまった。
「――そうじゃねぇよ!俺はお前に聞きたいことが山ほどあるんだ!まず、第一に、どうして俺のことをパパって呼ぶんだ?」
「だって、私たち、パパから生まれた娘みたいなものですから……」
「俺の娘だと!ふざけんな!まったく身に覚えはないぞ!――――ちょっと、待て!今、私たちって言ったのか………!?」
「そのようなことより………。クラウさん、よろしいのですか?」
「何のことだ?」
「殺されますわよ」
セラベラムは上を指差し、あっけらかんと言った。
俺はギクッとして、床を蹴るようにして椅子から立ち上がった。
俺は飛ぶような速さで階段を一気に駆け上り、集中治療室に飛び込んだ。
ベッドには体中に管を付けられ、酸素マスクをしたクラウが眠っており、その脇には白衣にマスクをした眼鏡の男性医師と若い女性看護士が立っていた。
眼鏡の医師は注射器を持ち、今まさにクラウの腕に針を刺そうとしているところだった。
「やめろ!」
俺は医師の腕を掴んで持ち上げた。
「な、何だね、君は!?」
「お見舞いに来たんだよ」
「面会謝絶よ!出て行って下さい!」
看護士は俺を集中治療室から追い出そうと背中を押した。
俺はすかさずその看護士の手を握った。
看護士は一瞬、電流が流れたように身体をこわばらせた。
そして、すぐに俺に熱い視線を送ってきた。
「わ、私、一体どうしたのかしら………!?変だわ!身体が熱いわ!」
「――あんたたち、本当にこの病院の人間なのか?」
看護師は医師を指差して言った。
「私は、本当にこの病院の看護士よ。でも、この男は違うの!」
「おい!お前!何を言ってる!?」
「協力しないと殺すって脅かされたの!でも、もういいの!あなたのためだったら、殺されてもいいわ!」
「――と、言うわけだ!ニセ医者!」
俺はヒョイと注射器を取り上げた。
「ち、違う!私は本物の医者だ………」
俺は取り上げた注射器をニセ医者の首筋にブスリと差し、中の透明な薬品を注入してやった。
「な、なんてことをしやがる!!」
ニセ医者はガクッと膝をつき、全身を痙攣させた。
「マスクと眼鏡で変装したつもりだろうが、その左手の高級腕時計には見覚えがあるぜ。あんた、俺を取り調べたアルバレス刑事だ!」
「ク、クソッタレッ………!」
アルバレス刑事は、そのまま眠るように目を閉じ、二度とは目を開かなかった。
俺とマリアナは人気のない真っ暗な病院のロビーで、ただ座って何かの知らせがないか、待っていることしかできなかった。
長椅子に腰かけた俺は、言いようのない絶望と自責の念に胸をさいなまれている。
「――クラウが死んだら、俺のせいだ!」
「そんなことないよ!」
俺の左隣に座るマリアナが力強く俺の手を握りしめた。
「ジョニーは何も悪いことをしていない!みんなフィフス・ストリートが悪いのよ!」
俺はマリアナの手を払いのけた。
「俺に近寄ると、マリアナも狙われるぞ!」
「ジョニーと一緒なら、死んでもいいス!」
マリアナはそう言って、俺の肩ににもたれかかった。
疲れていたのだろう、すぐにマリアナは俺の肩に寄り添ったまま静かに寝息を立てた。
「おい!セラベラム!この状況、何とかならねぇのか?」
俺は右隣にちょこんと座っているセラベラムに話しかけた。
セラベラムは正面を向いたまま、まったくの無反応だった。
「ちくしょう!なんとかもっと、コミュニケーションをとる方法はないのかよ?」
と、俺の言葉に反応したのか、セラベラムがゆっくりと右腕を動かし、俺の胸ポケットに入れたスマホを指差した。
「何だ、お前?スマホを使いたいのか?」
セラベラムはOKサインを指で示した。
俺は長椅子の上にスマホを置いてみた。
セラベラムの右手がスマホに近づいたと思ったら、指先がそのまま、スマホの中にめり込んだ。
スマホの画面が目まぐるしく変わっていった。
どうやら、ネットサーフィンをして、学習をしているようだ。
「おい、マリアナ!ちょっとスマホを貸してくれよ」
マリアナの肩を揺すったが、気持ち様さそうに眠っていて起きそうもなかった。
俺はマリアナが持ってたバックの中を勝手に漁って、彼女のスマホを取り出した。
俺のスマホの横にマリアナのスマホを置くと、思った通り、セラベラムは空いてる左手をスマホにめり込ませ、操作を開始した。
二台同時にスマホを操作しながら、セラベラムの眼球はものすごいスピードで小刻みに揺れている。
そんな状態は一時間ほど続いた。
突然、セラベラムの動きが止まり、俺に話しかけてきた。
「パパ!スマホをお返しますわ!」
「――もう言葉を覚えたのか!?」
「まだまだ、至らぬ点があるかと存じますが、以後、お見知りおきを……」
「いや、こちらこそ……」
俺はつい、お辞儀をしてしまった。
「――そうじゃねぇよ!俺はお前に聞きたいことが山ほどあるんだ!まず、第一に、どうして俺のことをパパって呼ぶんだ?」
「だって、私たち、パパから生まれた娘みたいなものですから……」
「俺の娘だと!ふざけんな!まったく身に覚えはないぞ!――――ちょっと、待て!今、私たちって言ったのか………!?」
「そのようなことより………。クラウさん、よろしいのですか?」
「何のことだ?」
「殺されますわよ」
セラベラムは上を指差し、あっけらかんと言った。
俺はギクッとして、床を蹴るようにして椅子から立ち上がった。
俺は飛ぶような速さで階段を一気に駆け上り、集中治療室に飛び込んだ。
ベッドには体中に管を付けられ、酸素マスクをしたクラウが眠っており、その脇には白衣にマスクをした眼鏡の男性医師と若い女性看護士が立っていた。
眼鏡の医師は注射器を持ち、今まさにクラウの腕に針を刺そうとしているところだった。
「やめろ!」
俺は医師の腕を掴んで持ち上げた。
「な、何だね、君は!?」
「お見舞いに来たんだよ」
「面会謝絶よ!出て行って下さい!」
看護士は俺を集中治療室から追い出そうと背中を押した。
俺はすかさずその看護士の手を握った。
看護士は一瞬、電流が流れたように身体をこわばらせた。
そして、すぐに俺に熱い視線を送ってきた。
「わ、私、一体どうしたのかしら………!?変だわ!身体が熱いわ!」
「――あんたたち、本当にこの病院の人間なのか?」
看護師は医師を指差して言った。
「私は、本当にこの病院の看護士よ。でも、この男は違うの!」
「おい!お前!何を言ってる!?」
「協力しないと殺すって脅かされたの!でも、もういいの!あなたのためだったら、殺されてもいいわ!」
「――と、言うわけだ!ニセ医者!」
俺はヒョイと注射器を取り上げた。
「ち、違う!私は本物の医者だ………」
俺は取り上げた注射器をニセ医者の首筋にブスリと差し、中の透明な薬品を注入してやった。
「な、なんてことをしやがる!!」
ニセ医者はガクッと膝をつき、全身を痙攣させた。
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