イージスの盾

櫃間 武士

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第5章「ジョニー、ブログを立ち上げる」

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 俺はスマホでアニソンを聞きながら、街のはずれにあるスラム地区、五番街を歩いていた。

「たとえ明日世界が滅ぶとしても、私はリンゴの木を植えるだろう」

 ふいに頭に浮かんだ言葉を口にしてしまった。

 昔、元カノのマリーに教えてもらった言葉だ。

 マリーは信仰心の厚い娘だったなあ――――などと昔のことを思い出すなんて完全に死亡フラグじゃねぇか!

「OK、セラベラム!これは誰の言葉だっけ?」

「パパ。私をスマホ代わりにしていませんか?」

 俺の頭上を羽を広げて浮かんでいるセラベラムが、少し不満げに頬を膨らませた。

「16世紀ドイツの宗教改革者、マルティン・ルターの言葉です。これがどうかしましたか?」

「生きてるうちに、やれることはやっとくか。よし、セラベラム。俺はブログを作るぞ!適当に作ってくれ」

「それより、パパ、フィフス・ストリートのアジトが見えてきましたよ」

 薄汚れたスラム街に、場違いな三十階建てのインテリジェントビルがひときわ高くそびえ立っていた。

 元々は五番街は商業地区として都市開発されたのだが、このフィフス・ストリートのアジトが出来たため、他のまともな企業は逃げ出してしまったのだ。

 俺はナップザックから、昨晩、フィフス・ストリートから奪い取った監視用ドローンを取り出し、地面に置いた。

「セラベラム。最上階の様子を見てくれ」

「はい、パパ!」

 セラベラムが頷くと、地面に置かれた監視用ドローンが八基のプロペラが回転し、大空高く舞い上がった。

 監視用ドローンの撮影した映像は、手元のスマホに映し出された。

 監視用ドローンは窓に接近し、最上階の部屋の中を撮影し始めた。

 足が沈みそうなフカフカの絨毯が敷き詰められた部屋には、大理石でできた最高級のエグゼクティブデスクが一つ置いてあるだけだった。

 フィフス・ストリートのボス、ミゲル・トレビノが椅子に腰かけたまま、前後の見境がなくなるほど怒り狂い、ドローンに向かって発砲していた。

だが、銃弾は防弾ガラスに阻まれ、ドローンは自由気ままにトレビノの姿を撮影し続けた。

「セラベラム。このライブ映像をブログで公開しろ。みんなに観てもらおうぜ!」

「それはいいですが、パパの顔も映ることになりますよ」

「別に構わないさ」

「顔が世間に知られてしまうと、今後、色々と支障が出ると思いますが」

「じゃあ、俺の顔だけリアルタイムでモザイクかけといてくれ」

 セラベラムが適当に作って、俺のブログを立ち上げた。

「五番街のジョニー」というタイトルだ。

 適当にも程がある。

 スマホにトレビノのライブ映像が公開された。

 俺はフィフス・ストリートのアジトの前に立つと最上階を見上げて叫んだ。

「おい、ミゲル・トレビノ!今からそこに行くから逃げるんじゃねぇぞ!」

 ライブ映像に映るトレビノは、ビルの窓辺に立ち、俺を見下ろしていた。

 トレビノは背後に控えている高性能のボディアーマーに身を包んだ男に何か話しかけていた。

「誰だ、ボディアーマーの男?」

「恐らくトレビノの親衛隊隊長、マンテル大尉でしょうね。元特殊部隊の隊長で、トレビノが高給で引き抜いたそうです」

「あいつがそうか………。スポーツジムで筋トレしているただの中年オヤジみたいだが、強いんだろうな」

 トレビノとマンテル大尉は二人、俺の方を見下ろして、腹を抱えて笑いだした。

「絶対、俺の悪口言って、笑ってるだろ!」

「まさか向こうから来てくれるとはな。あいつは正気か?死にたいのか?」
「きっと、自分が不死身だと思い込んでいるのでしょうな」
「ワッハッハッハッハッ!」

 セラブレムが声色を使って、二人の会話を再現してくれた。

 俺はアジトの入り口に向かって階段を登っていった。

 と、建物内から小銃を構えた黒服の警備員達が飛び出し、俺の行く手を塞いだ。

「止まれ!動くと撃つぞ!」

 俺は一瞬も躊躇することなく、歩みを止めなかった。

「う、撃てっ!!」

 警備員達が一斉に発砲した。

 銃声と同時に警備員達の身体が崩れ落ちた。

 いつものように、俺に向かって放たれた銃弾は跳ね返され、それぞれ元の持ち主に向かって戻って行ったのだ。

 俺はビルの入り口を通り、絢爛豪華なエントランスホールに入ると、目の前に二人の可愛い受付嬢が座っていた。

 一応、フィフス・ストリートは表向きは貿易会社を名乗っているので、ちゃんとした受付もあるのだな。

 俺は受付に座る可愛い二人の受付嬢のうち、好みの顔のショートカットの受付嬢に笑顔で話しかけた。

「ミゲル・トレビノに会いたい」

「アポイントはありますか?」

「いーや!飛び込みだ」

「アポイントのないお客様には………」

ショートカットの受付嬢は満面の笑みを浮かべながら、ピストルを取り出した。

「死んでもらいます!」

 ショートカットの受付嬢が引き金を引いた。

「あっ!馬鹿野郎!」

 銃弾は跳ね返り、ショートカットの受付嬢の綺麗なオデコに穴が空いてしまった。

「セラベラム!女の子は殺すなよ!」

「知りませんよ!攻撃されたら、性別関係なく自動的にカウンターアタックしますよ」

「殺さなくたって、女性なら……」

 もう一人のロングヘヤーの受付嬢が、慌ててピストルを取り出し、俺を撃とうとしていた。

 俺は彼女の腕を捕まえ、頬に手を当てた。

 ロングヘヤーの受付嬢は衝撃を受けたように身体をビクッと反らした。

「俺の言うことを聞いてくれるよな!」

 ロングヘヤーの受付嬢は顔を紅潮させ、屈辱感で体が小刻みに震えさせながら返事をした。

「…………………はい」
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