イージスの盾

櫃間 武士

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第5章「ジョニー、ブログを立ち上げる」

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「ちょっと、あんたの使ってるタブレット端末、貸してくれ」

「はい…………」

 俺はロングヘヤーの受付嬢からタブレット端末を受け取った。

「セラベラム。どうだ?」

 セレベラムは両手をタブレット端末の中に差し込んで、フィフス・ストリートのシステムをハッキングし始めた。

「簡単です。全てのデーターベースにアクセスできました」

「じゃあ、俺のブログにデーターベースをアップしてくれ。フィフス・ストリートのメンバーの個人情報を丸裸にしてやれ!」

「わかりました!」

 巨大な麻薬カルテルともなると、一般の一流企業と変わらない人事システムを完備している。

 氏名、住所、生年月日、家族構成、銀行口座……。

 中には武器や麻薬の売買記録や、殺人の犯罪記録もご丁寧に記録されていた。

 俺のブログに顔写真付きでフィフス・ストリートのメンバーリストが掲載された。

 警察だけじゃなく、敵の麻薬組織にも狙われ、怯える日々を過ごせばいいさ。

「パパ。やはり予想通り、メンバーリストに警察署長の名前もありました。かなりの額の賄賂が振り込まれています」

「よし!警察署長の名前はアップするな。今から、電話して脅迫するからな」

 と、エレベーターが開き、エントランスホールにドッと武装した兵士たちが現れた。

 アメリカ陸軍で採用されているボディアーマーに身を包んだ兵士達は一列に並び、俺に向かってM16自動小銃を連射した。

 例によって俺のイージスの盾は銃弾を跳ね返し、兵士達に跳弾が降り注いだ。

 兵士達は自分たちの撃った弾が跳ね返っているとは夢にも思わず、ビクともしない俺に向かって無我夢中で銃撃を続けてた。

 俺は受付嬢が流れ弾で死なないように盾になってやりながら、銃弾の嵐の中に身をさらしていた。

「セレベラム、警察署長に電話をしてくれ」

 俺はイヤホンを外してスマホを取り出すと、銃撃を受けながら電話をした。

 電話はすぐにつながったが、相手は用心しているのだろう、だんまりを決め込んでいた。
 
「もしもし。あんたは警察署長だな。俺の名はジョニー。これから、フィフス・ストリートのアジトでひと暴れする正義の味方だ」

「――――なんのことだかわからんが……」

「おとぼけはなしだ、署長さん。俺はフィフス・ストリートのメンバーリストを手に入れた。その中にはあんたの名前も載っているんだ。俺がこの電話番号を知っているのがその証拠だ」

 警察署長は最初、すっとぼけていたが、献金の記録を順番に読み上げると、最後は黙り込んでしまった。

「おっと!アジトの前にパトカーが集まってきたな。テレビを付けてみろよ。事前にマスコミには連絡しといたから、テレビ局の中継車がもうすぐ来るぜ」

「そんなリスト、偽物だ!何の証拠にもならんぞ!」

「勘違いするな!俺はあんたの情報は公開しない。メンバーリストは全てブログに公開した。ただ一人、あんたの名前を除いてな」

 電話を通して、警察署長の動揺が伝わってきた。

「トレビノはあんたが自分だけ助かろうとして、裏切ったと思うだろうな!」

「な、な、なんてことをしてくれた…………!!」

「今すぐ、フィフス・ストリートとつながりのある警官を逮捕しろ!!でないと、あんた、部下の警官に殺されるぜ」

「し、しかし、そんなことをしたら、どっちみちトレビノに殺される!」

 警察署長は心の底から怯えていた。

「大丈夫だ。トレビノはもうすぐ死ぬ!期待して、ライブ映像を見ていてくれよ」

 震え声の警察署長をなだめすかし、俺は通話を切った。

「警察署長は見逃すのですね」

「ブログにはアップしないが、後で情報はマスコミにリークするさ。それでどうなるかは知らねぇよ」

「パパは情報は公開しないと言いましたよ?」

「あれは嘘だ!」

 セラベラムはいまいち腑に落ちないという顔で小首をかしげた。

 まだ、この娘には嘘をつくという人間らしい思考が理解できないようだ。

 その時だった。

 エントラスホールの照明が消え、ビルの入り口のシャッターが轟音を立てて次々と閉まっていた。

「どうした、セラベラム?システムはハックしたんじゃなかったのか?」

「警備システムがネットワークから切り離されました。全てのエレベーターが停止し、防火扉が次々と閉じられています」

「最上階のトレビノの部屋に行けないってことか?どうしたらいい?」

「直接、警備室に行って、ビル管理システムを操作しなければいけません」

「わかった」

 ふと、気が付くと、銃撃が止んでいた。

「おっと!電話に夢中で、銃撃を受けていたのをマジに忘れてたぜ!」

 俺を攻撃していた兵士達は、エントランスホールに折り重なって横たわっていた。

 一人だけ生き残りもいたが、すっかり戦意を喪失し、呆然と立ち尽くしている。

 無理もない。

 あれだけ銃をぶっ放していたのに、俺は全く無視して電話をしたり、独り言をつぶやいている。
 
 そのうえ、誰も攻撃していないのに、どこからか弾が飛んできて、仲間が次々と倒れていったのだから。

 受付のテーブルからロングヘーアの受付嬢が、恐る恐る顔を覗かせた。

「受付のお姉さん。警備室はどこだい?」

「――地下1階だけど、入退室装置があるから入れないわよ、手のひら静脈認証センサーがあるの」

「ふーん。あそこで突っ立ってる兵隊さんなら入れるよな」

 受付嬢はコクリと頷いた。

 それを見て、生き残りの兵士が何か言おうと口を開きかけたが、俺は持参した拳銃を兵士の顎先に突き付けて黙らせた。

「警備室まで案内してくれ。あんたのくれよ」

 俺は生き残りの兵士をホールドアップさせたまま、非常階段を下って地下一階に向かった。
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