Ender's war~亡国王子の復讐譚~

急行2号

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王都の滅びと始まりの前夜(1)

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 王都マグナキャッスルは岩トカゲの街である。

 岩トカゲとは全体がごつごつした岩肌の巨大なドラゴンだ。しかし翼は折れており、手足が短く尾が長いので、人々は愛称として岩トカゲと呼んでいる。岩トカゲは石造りの王城を抱くようにして王都に居座り、右足に王立魔法騎士団本部を、左足に王立魔法学園を、どちらも石材によって建たせている。
 岩トカゲが動くことは未来永劫あり得ない。岩トカゲの喉元から頭頂部にかけては王城最上階のコーン型をした屋根が目立つ。

 てっぺんは標高が高く、雲に覆われて雨に降られることが間々ある。岩トカゲと王城、王立魔法騎士団本部と王立魔法学園の王立機関は一体化しており、さらに言えば岩トカゲの背中部分にはかつて王立魔法研究所と呼ばれる建物があったのだが、こちらは昔火災によって焼失したままである。

 王都の、石材を主とした街並みは岩トカゲを中心に円形を保ち広がっている。中央区には貴族の邸宅群があり、その外側に教会や医院、市場が建ち並ぶ。さらに外側は一般市民の住宅街が広がり、王都郊外には農牧地がある。
 人々は移動に馬車を使うが、乗車賃は高く、もっぱら貴族の乗り物と化している。王立機関の者はホウキによって空を飛行することが許されているが、一般市民には徒歩が主流だ。

 そんな王都マグナキャッスルにて、反王国組織が国王を襲撃したのは、エルスト王子がちょうど一五歳になる誕生日であった。大地を埋め尽くす、数多あるドラゴンの肉体で構成され入り組んだこの世界を統治する王国にとって激震が走った一夜であった。
 王都の街並みが炎に包まれて壊滅したのである。

「父上!」

 王城にて、まだまだ幼さの残るエルストが叫ぶ。
 父と兄の胸にはそれぞれ床から這い出た剣が容赦なしに突き刺さっている。剣はまるでいばらのようだ。父と兄は血を吐いている。

 エルストはそのとき両親や兄と会食している最中だった。エルストの好物が振る舞われ、王国王子の誕生日をささやかな団らんが祝い終えるはずであった。しかし爆音とともに会場に強襲してきた黒衣の大男が国王とエルストの兄コネリーを串刺しにした瞬間、祝いの席は立ち消えたのである。

「だ、誰か!」

 王妃が会場の外へ助けを求めていった。

「国王……もう全て〝終わり〟にしよう」

 黒衣の大男が、床に倒れた国王の体に、さらに剣を突き刺す。黒衣の大男はどうやら魔法によって剣を生み出しているらしい。

「貴様は……サルバか!?」
「私が何者かなどもはやどうでもいいことだ。そんなことはもうどうでもいいのだ。私が今夜おまえたちにすることは、おまえたちに利用された、人間と、ドラゴンの、無尽のうらみ!」
「うらみ……」
「ああそうだ。いのちをもてあそんだ! おまえたちへのッ!」

 黒衣の大男・サルバは次々と国王を刺していく。国王の全身を蹴たぐっていく。国王は、とうに絶命しているというのに。

「や、やめろ……」

 かろうじて生き長らえていたコネリーが、サルバへ向けて狙撃魔法を放った。サルバの黒衣が少しだけ焦げついた。このコネリーの行動により、サルバの関心がコネリーに移る。

「死に損ないは、ちゃんと、ぬかりなく死んでおけ」

 サルバの魔法によってコネリーの全身が捻れる。コネリーは悲鳴すら上げる瞬間も与えられなかった。
 エルストがコネリーを見たとき、コネリーの体は本来ならばあってはならないほうへと関節が曲がっており、とくに顔は〝真後ろ〟を向いていた。口や傷口からは内臓を思わせる塊が突出している。
 そうまでし終えると、サルバの、コネリーへの興味はいともたやすく途絶えたらしい。あっけないと言うよりほかにない。

「この頑愚な王国の歴史は我が手できっちり終わらせる」

 息絶えている父の首がサルバの剣によってすっぱりと刎ねられた。
 その直後である。エルストのもとに父の腹心サムが駆けつけた。

「エルスト様。逃げますよ!」

 サムはエルストの体を掴み、王都の外へとワープ魔法を使った。このサムの迅速な決断と行動によってエルストは生きのびることができたのである。
 その後王妃である母まで殺されたのかはわからない。だが、やはりきっと死んでいるに違いない。エルストはそう思った。

 国王一族の襲撃事件と同時に起きた王都壊滅事件はサルバの仲間がただ一人遂行した犯人なのであるが、それはまだ、エルストが知るところではない。
 サムに連れられてエルストが逃げのびたのは、かつては巨体を誇っていたであろうドラゴンの目をくりぬいたところに建てられた簡素な山小屋だった。山小屋の外からは王都に鎮座する岩トカゲが片手親指の爪ほどまでに小さく見える。

 エルストが一五歳になった夜、エルストは、黒煙を発しながら赤く燃える夜空と王都の姿をその水色の瞳に焼き付けた。これら一夜の光景はエルストの脳と心に「王国は滅んだ」という事実に近い真実を植え付けるにはじゅうぶんすぎた。
 それでもエルストが「もう一日生きてみよう」「もう一日生きてみよう」と今日から明日を繰り返し迎えようと思えたことの原動力になったのは、黒衣の大男サルバへの、子どもながらに明らかな復讐心そのものにほかならない。
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