Ender's war~亡国王子の復讐譚~

急行2号

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王都の滅びと始まりの前夜(3)

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 一筋、たいまつが木々のあいまを縫うように線を描きながら山を下りていく。エルストである。なんと野性的な姿だろうか。これがサムであれば、彼なら魔法の杖の先端を明るくさせ、たいまつの代わりにしたものであるが、エルストは、火打ち石で起こした火を木の棒に点けることしか手段を取れなかった。
 山小屋のあるドラゴンの肉体は大きい。その肉体を下山しきるころには空にきっと朝日が昇っていることだろう。それでもエルストは構わなかった。何日かけてでも、二年前炎に焼かれた王都を目指す心持ちだった。

 それが途絶えたのは中腹にまで下りてきたころだった。途中、エルストの付近でとつぜん爆音がしたのだ。
 エルストはさっと青ざめる。エルストの下山に気づいたサムか、もしくは万が一にもサード・エンダーズか。後者ならば身の危険を感じてならない。このときエルストの、かつて奮い立っていたはずの気持ちはあっという間に〝危険〟に怯える弱小なものへと堕落していった。

 だがエルストは恐怖とほんの少し残った好奇心を頼りに、爆音がしたほうへ足を延ばし始める。無造作に、生えるがままに生えた木々の鋭い枝や草を掻き分けながら、音のしたほうへと歩いていく。なるべく足音を立てないようにエルストは気をつけていたがこの闇夜のことだからきっと響いてしまうだろう。暗闇は人間の聴覚を敏感にさせるほか恐怖心も悠々と煽ってくる。
 それでもエルストの心では、一歩進むたびに、好奇心が恐怖を強打するように膨れ上がっていくのだった。エルストにも不思議だった。「殺してやる」そんな気持ちも徐々に芽を再生させていた。しかしその思惑は、意外な形で摘み取られてしまうのである。

「あちちちち……」

 エルストは額を強張らせた。エルストの勘と王都で過ごした記憶による性別を判別するための偏見が間違っていなければ今聞こえたのはおそらく少女の声である。
 あたりを黒煙が占領している。たいまつはもはや頼りになどなっていない。なぜなら煙の濃さが強く、また周囲の地面や粗雑に荒れた木の枝ににちらちらと火が舞っているからである。まるで真っ暗な地面に火のついたロウソクが点在しているように見えた。しかし幻想的では全くなく、懐疑的な表情をしているエルストの輪郭がぼんやりと火の色に照らされている。

「参ったな~……ただの結界魔法だったかな、これ。ここじゃなかったのかな……ここだと思ったんだけどなあ、あの〝ありか〟……」

 やはり少女の声だ。エルストが思うにあれは独り言である。
 エルストの心の中ではいつしか、サード・エンダーズが爆音を起こした犯人であるという可能性は瞬く間に消え去っていた。

「誰?」

 エルストはついに少女に尋ねた。

「えっ? 人?」

 エルストは、地面に舞う火の上に立ち上がる、赤いマントを羽織った少女の姿を見た。
 少女がエルストへと歩み寄っていく。ふたりの距離が近づくにつれ、エルストの目は、少女のあどけなさそうな顔立ちと丸い瞳を映すようになる。

「あなたがこの山に結界魔法を張ってた人ですか?」

 少女はエルストに向かってそんなことを言った。

「結界魔法? 山に?」

 エルストは訊き返す。途中、煙のせいで噎せた。

「え、違うの? じゃあもしかして、あなたのほかにも誰か人間がいるんですか、こんな山に」

 少女はいかにも怪訝そうな表情をした。それはたしかにエルストに見えていた。少女は丸い瞳を細めてエルストの持つたいまつとエルスト自身の顔を見比べている。

「なんのこと? 君はいったい誰なの? 君がさっきの大きな爆発音をさせたんじゃないの?」

 押し問答のようだったがエルストには続けざるを得なかった。少女はしばらくのあいだ表情という表情を固まらせ、エルストを直視したまま何かを考えているようにしていた。やがて気を取り直したようにこう語り始める。

「私はベル」

 そしてそう名乗るのだった。

「ベル・テン。ちょっと目的があって〝あるもの〟を探してます。それを探すためにここに来ました、お邪魔してます」
「〝あるもの〟って?」
「国教の神様エオニオ様が使えたっていう魔法……〝最強の魔法〟。誰が相手であっても絶対に……殺せる魔法」

 ベルがそう言った直後、火の粉に燃やされた木の枝が音を立てて地に落ちた。
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