エミリーと精霊

朝山みどり

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13 鬼火とフクロウとクジャクとオオカミ

 食事を終えて外に出て来たものがその光景を見て、立ちすくむ。
 
 わたしを見て、不思議そうに、何か言いたそうに、なにやっているんだ?と言った顔をしている。

 とっさにこう言った。
 「ほら、そこよ! 鬼火を追い落とすのよ。消して!」
 わたしの指示でフクロウが飛んでいるように。あたかも指揮しているかのように。

 会長のクジャクもすぐに加わった。
 「いけ、そこだ!」
 彼の声にクジャクは羽を扇のように広げ、嬉々として、火の粉を舞わせながら鬼火とフクロウを追いかける。

 落ちた火の粉が芝を焦がし、フクロウがぶつかった校舎の壁から煙が出て来た。そこにクジャクがぶつかると炎が生まれて来る。

 だがそのとき、頭上を走る影が見えた。
 シャーロットの火炎狼だ。炎の毛並みを揺らし、屋根伝いに駆けてくる。
 「あなたも来たのね!」
 わたしが叫ぶと、シャーロットが遠くから返した。
「鬼火を取り押さえるわ!」
 そう言いながらも、彼女の目はちらりとこちらを見て、わたしの芝居を理解しているようだった。火炎狼は地上で跳ね、壁を蹴り、まるでフクロウたちの尾羽を追うように駆け抜けていく。
 地を伝う炎の帯が、空の光と絡み合い、まるで舞踏のようだった。

 フクロウが鬼火を追い立て、クジャクが先回りする。追い詰められた鬼火を火炎狼が爪で押さえつけるが、鬼火はするりを抜け出る。
 三つの精霊が絡み合って、熱と光が空と地を彩る。
 だけど――わたしには見えていた。
 フクロウもクジャクも、鬼火を追い払っているのではない。追いかけて遊んでいる。
 
 遊んで火の粉をまき散らすのを楽しんでいる。
 火炎狼は途中で足を止め、尾を高く振って楽しげに咆哮した。





 「水だ、水だ!」教師の声。
 水の精霊を持つ生徒たちが慌てて水をかけたが、炎は思ったより強かった。それに水の精霊が出せる水などたかが知れてる。
 土の魔法の生徒が必死に地を盛り上げて火を遮ろうとする。
 
 「早く! 広がる!」
 わたしは眉を寄せつつも声を張った。
 「フクロウが鬼火を抑えているわ! よかった。被害が広がらない!」
 実際には、教室の窓から炎が噴き上がり、煙が校舎の上に伸びていた。だが、取り巻きの生徒たちはすぐに賛同して声を重ねてくれる。
 「ルーシー様のフクロウが守ってる!」
 「さすがです!」

 ただ、小さな声で耳打ちしている。
 ――あのクジャクが一番火をつけてない?
 ――フクロウも同じじゃない?
 ほんのかすかな声。けれど耳に突き刺さる。



 そのとき、ふと視線の端にエミリーが映った。
 教室を見上げながら、彼女はただ両手を掲げていた。
 水が――彼女の手の先に水が出現しているのだ。
 「え……?」
 食堂の窓にかかった炎を、講堂の扉に迫った火を、その水が消していく。水の塊が現れては火を消していく。

 手元から放水しているわけじゃない。ただ、離れた空間に水を出しているのだ。

 「水を出してる? あれ、エミリーじゃないか?」
 「彼女の精霊ってトカゲじゃ……?」
 生徒たちのざわめきが広がった。
 けれどエミリーは何も言わなかった。ただ、表情も変えずに水を出している。そして黙っていた。



 食堂と講堂は守られた。だが教室は黒く焼け落ち、窓枠は煤けたままだった。
 
 煙の匂いが広場に重く漂い、生徒たちが泣き笑いの入り混じった声を上げる。

 その中で、会長とシャーロットは声を合わせている。
 
 「ルーシーが気が付いてくれてよかった」と会長が言えば
 「本当ですわ。フクロウのサポートがあったからやりやすかったですね」とシャーロットが答えた。
 「あぁ。ルーシーご苦労様」と会長が、偉そうに労いの言葉をわたしに言った。
 「そうだ。ルーシー、昨日お願いしたものを生徒会室に持って来てくれるかしら」とシャーロットが済まして言った。
 「ルーシーが引き受けてくれたのか。シャーロットの負担が大きいと心配してたんだ。ありがとう。でもちょうど良かった。この事態だ。すぐに徹底させたいからな。シャーロットの判断、いつもながら素晴らしい」と会長がまだ、飛んでいるクジャクに合図を送りながら言った。

 わたしは、生徒会室に一緒に行くと、まだできていないと詫びをいれた。
 「確かに昨日は疲れたな。無理をさせるつもりはない。ただ、早くしてくれ」と会長は言うと、シャーロットは
 「もう、ルーシー。生徒の為、ブリーズの為に頑張ってね。お父様にはあなたが今日、いいサポートをしてくれたって報告しようと思っているのよ」と青炎のフクロウを見ながら言った。火炎狼はフクロウをじっと見ていた。
 
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