一人暮らしのおばさん薬師を黒髪の青年は崇めたてる

朝山みどり

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05 王都からの客 ローゼンブルグ・ハウアー侯爵夫人

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なんだかあたりに随分騎士の姿、それも近衛騎士が増えたなと思っていたら、国王と側室が温泉に来るらしい。
一応、お忍びらしいが、面倒なことになったらいやなのでしばらく家に、篭ることにする。

ポーションも多めにつくってフィルと一緒に納品に行く。

多めに買い物をして家に帰った。本もたくさん用意したので、当分家で過ごせる。このまま一生外にでなくていいやと楽しくすごしていたら、ある日使いがきた。

使いが差し出した手紙の筆跡をみてうんざりした。

ローゼンブルグ・カーター侯爵令嬢。いまはローゼンブルグ・ハウアー侯爵夫人で王宮の侍女長をやっているらしい。

学院時代は親友とおもって、王太子妃教育の愚痴をこぼしたりした相手だ。

わたしのお友達兼侍女を努め、わたしの部屋から義妹を害する計画の証拠を見つけた女だ。巧みな裏工作に気付かなかったが、冤罪の計画はローゼンブルグが立て義妹は操られたのだと思っている。

あの断罪の時妊娠していたが、相手はハウアー侯爵なのだろうか?

断らせてもらえなそうだから、会うことにした。返事は使いに口頭で返した。

待っていたように彼女がやってきた。

お手入れに頑張っているようで、保存状態はまぁまぁ。だけど精神的に参っているわね。

フィルは教育に悪いから奥に隠れてもらっている。ただ、心配性だからすぐに飛び出せるようにしているはずだ。

「ずいぶん、急な訪問ですね。ハウアー侯爵夫人」

「失礼は承知よ。助けて欲しいの」

「無理とわかっていて来るなんておかしくなったのね。わたしもひまじゃないの。結論のわかっている事を話す時間はないわ」

「・・・・・」

「お引取りを」

「お願い聞いて、息子が」

「・・・・」

「息子がけがをしたの背骨をいためたの」

「・・・・・」

「治療して欲しいの」

「あの茶番劇の時おなかにいた子?」

「気づいていたの?」

「もちろん、聖女ですから」

「なにも言わないの?」

「なにを言うの?」

「大事な息子なの」

「・・・・・」

「お願い、なんとか言って、助けて欲しいの」

「偽聖女には無理だわ。王妃に頼めばいいのでは」

「彼女に能力はないわ」

「彼女を聖女にしたのはあなたがたよ」とわたしが言うと

「悪かったわ。仕方なかったの。脅されていたの」

「自分の利益は確保していたのに?脅されたと言うの?よく知っているのはあなた、わたしの犯罪の証拠をだしたのはあなたよ」

ローゼンブルグは椅子から降り、ひざまづくと

「・・・・・息子はなにより大事だわ」

「そうなら余計に助けたくないわね」


「どんなことでもする。息子を治療して」

「いやよ」

「そうこの街がどうなってもいいのね」

「そんな脅しこわくないわ。たいして力もないくせに」

「子供の頃から嫌いだった」と溢れる涙をぬぐいもせずにこう言った。

「そう気が合うわね。わたしもあなたのことがきらいだったわ。わたしのおこぼれをもらおうと付きまとって」

「そうおもっていたの」と呟くと力なく立ち上がった。

ハウアー侯爵夫人は黙ってでていった。

フィルが部屋に入ってくると震えているわたしを抱きしめた。

「ミーナ・・・がんばったね・・・あの女ミーナに・・・・許せない・・・」

「フィル・・・・ありがとう・・・」

「ミーナ、ベッドに入ったほうがいい・・・・あたたかいミルクを持っていくよ」

フィルはわたしを抱き上げると

「部屋まで運ばせて、ミーナのお世話をいっぱいしたい」
わたしをベッドの座らせると

「ベッドに横になっていてね。ミルクを待ってくるから」
そういうとでていった。


フィルがミルクにすこしお酒を混ぜたと言って持ってきた。

「ミーナ、たくさん寝て忘れて」

そういうと額にキスをして
「寝付くまでそばにいさせて」

「ありがとう、フィル」そう言ったつもりだったが、声は届いただろうか?


ふと気づいたがまだ夢のなかのようだった。

しなやかな獣が長い尻尾を振って部屋にはいってきた。美しい獣だった。

次に目が覚めると、朝だった。いつもより寝坊したようで日が高く登っていた。

体を起こすとフィルが声をかけてきた。

「おはよう。体はどう?」

「大丈夫よ。たくさん寝たから・・・・なんだか新品になったような・・・生まれ変わったような」

「ふふ、元気になったみたいで・・・ご飯もできてます」

「ありがとう、起きるわね」

朝ごはんを食べて庭のベンチでフィルが薬草の手入れをしているのを、見た。

わたしはいままで、断罪のことを忘れたと思っていたが、心の奥深くに沈めてそこにない振りをしていただけだと気付いた。

吐き出さないと無くならいものがあるのだ。吐き出したい。復讐したい。苦しめてやりたい。そう思った。


復讐は蜜の味。経験したから言える。まったくそのとおり。
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