一人暮らしのおばさん薬師を黒髪の青年は崇めたてる

朝山みどり

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15 それから

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わたしの家に居着いた美しい青年は、あれほど約束したのに、 殺人おいたがやめられないようだ。
さる侯爵家の代替わりのうわさを聞いてそう思う。
夜更けにこっそり黒い獣が帰ってきたのは知ってるのよと問いただしたいが、決して白状しないだろうし、この家を追い出したら、たがが外れてわたしの新しい街着の悪口を言ったお嬢さんの首をもぎかねないから、追い出すこともできない・・・わたしが見張っていないとこの無垢な殺人鬼を野に放つことになる・・・決して
「ミーナ、最近このレモンパイっていうのが王都で人気だそうです。どんなものか教えてもらったんで作ってみたんですよ・・・・食べて批評してください」
と言われたから、かれを追い出さないわけではない。


「あら、フィル美味しい。カスタードの硬さがちょうどいいし、このお酒は?」
「ジンというお酒です。お酒で飲むにはくせがありますが、レモンパイには会いますね。黒胡椒があるといいですが・・・・」
「それはむずかしそうね」
「ミーナ、おかわりしますか?体重を気にする頃ですから、遠乗りにいきませんか?河の水かさが減って川を渡れる場所ができたそうですよ」
「そうね」
「明日にしますか? 明後日?」

こんなに楽しそうに遊びに行くことを提案する連続殺人鬼を冷たく扱えない。わたしは明日にしましょうと言うと、喜んでいるのを見せるために明日着る乗馬服はなにがいいかなぁとはしゃいで見せた。


一日遊んで帰ってきたら、ギルドに来てくれと連絡が来ていた。


「ミーナさん来ていただいてありがとうございます」とまだ若いギルド長が頭をさげた。
このギルドに赴任して半年だが、有能な人物らしい。執務室に招かれて話を聞いて驚いた。

「エリーゼ王太后閣下から王宮に来て欲しいと連絡が・・・・お話したいそうです」
「わかりました」
「その・・・・先代から聞いております。わたしもご一緒します」
「お願いします。準備してきます」

王宮からの馬車に乗ってわたしは再び、王宮へやって来た。

エリーゼは国政のすべてから退いて離宮に暮らしていた。

ギルド長は部屋に案内されて去って行った。わたしとフィルも先ず部屋に案内され、侍女の手を借りて身支度を終えると、エリーゼの部屋に案内された。

「おひさしぶりでございます、王太后閣下」
「いやですわ、楽になさってそちらのフィルさんも・・・あいかわらず素敵ですね。たまに先代の王妃様の部屋にあらわれる『ぬばたまの君』のようですわ」
「・・・・」
「この城に妖しなどおりませぬが、王妃様の容態がよくなくて、侍女長のイボンヌが夜勤体制を変えましてね、王妃様のお部屋の隣に不寝番を置くようにいたしましてね・・・ずっと見張らせましたのよ・・・
でね、そろそろ王妃様の時間が残り少ないなと思う頃、不寝番が眠ってしまうことがあったようで・・・いえだれも認めませんがね。ただ、そういったことが起きると王妃様がお元気になられるのでね。ただ夢のなかで美しい青年をみたと申す者と獣をみたと申すものだのおりまして・・・・警備のものはだれも通してないと言うし・・・まぁ王妃様が回復なさるのはいいことですしね」

「大切になされて・・・・王室のお子様達もよくお見舞いなさるとか・・・」

「はい、皆、気にしているようですね」
「見舞って下さいますか?」
「そうですね、お見舞い致しますわ」
このあと、わたしたちは庭を散歩したが、エリーゼは侍女に手を取られて歩いていた。
木陰のあずまやで一休みしたわたしはエリーゼに聖魔法をかけた。
エリーゼはわたしを見てにっこり笑うと
「膝はきまぐれだから、いきなり治ったりするのね」と言った。




「まがりなりにもミーナの義妹でしょ。死んだら寝覚めが悪いでしょ。だ・か・ら・僕定期的にお見舞いしてたんですよ」わたしが問いただすとこう答えるであろうフィルの表情も声音も想像できてしまう。

王都の殺人がメインだと思っていたけど、義妹にかまうのがメインだったとは・・・・


翌日、義妹の部屋に行った。よくこの状態で生かされているとはと、初めて哀れに思った。

顔の傷くらいもっと早く治してやればよかった。

わたしは義妹にむけて聖魔法を放った。

「なに、あなたこないで」と義妹はフィルに向かって叫ぶと気を失った。

フィルはにやにやしてるし、エリーゼもイボンヌも笑っている。

「ミーナ、部屋にもどりましょ。抜け道知ってます。いい道ですよ」とフィルが手をとってきたので、部屋をでた。


夜、使いが来てもうしばらく滞在して欲しいと連絡が来た。承知の返事をしてしばらくすると侍女長のイボンヌが侍女を連れて訪ねてきた。

ドレスと小物を一式運んできたのだ。なんでも復活した義妹がお茶会をするというのでそれ用の衣装だというのだ。

フィルが喜んで受け取って大事にクローゼットに吊るしてくれた。明日フィルの分も届けてくれるそうだ。

義妹がお茶会を目標に頑張るなら、わたしは本でも読んで待っていればいいか。

フィルはいつのまにか仲良くなったメイドさんの伝手で菓子の厨房に出入りするようになり、いろいろ教えてもらっているようだ。



思ったよりも早くお茶会の連絡がきた。ドレスを着た時にフィルはとても褒めてくれたが、フィルこそ素晴らしかった。

会場に着くと義妹とエリーゼとイボンヌがもう部屋で待っていた。
一応、前の王妃ということできちんと礼を取って許しがでて席についた。

「お義姉様、老けましたわね」
「年相応に老けるのは当たり前では?」
「そばに置いているその若い男はなにものですの?」
「さぁ、何ものでしょう?ミーナのそばにおいてもらえるのを最大の幸福と考える愚かなものとでも思ってください」とフィルが答えると
「お義姉様はあいかわらずですね」と険のある顔で言った。
変わらないわねと思いながら
「そうね、かわる必要がありませんでしたから」
「そういうところです」
「そうですか?」
「いつも馬鹿にして」
「馬鹿にされる点があると自覚なさっているの?」
「ありませんわ」
「ではどうして馬鹿にされていると感じるの?」
「やだ、ミーナがいじめられている」とフィルが割り込んでくるから
「いじめられてないわ。でもここまで会話が続くなんて・・・・たいていひどいですわって泣き伏されていたから」
「それはミーナ大変だったね」とフィルが言うので
「でもそれって効果があってね、わたしは追放されたわ」
「馬鹿にしてますのね」
「事実を言っただけじゃない」
「馬鹿にしてると言うか馬鹿だよね」とフィルが笑うと、
「ほんとこんな馬鹿にはこうすればよかったのよ」というと平手打ちをお見舞いした。

空気が凍った。それからこう言った。
「これはあの日の分」そういうともう一度お見舞いした。
「これは今日の分。体を治してもらったお礼もいえない無作法に対してはまだよ」
そう言うとエリーゼとイボンヌがあわててひざまづいて
「ジェルミーナ様、ご無礼いたしました。この度、前王妃様のご不調を治していただきありがとうございます」
わたしはふたりにうなづくと義妹をじっとみた。
フィルはわたしの肩を抱くと義妹を見下ろした。誰も口を聞かなかった。
義妹は拳を固くにぎり、口をへの字にくいしばっていた。

「この女の手綱は任せるわ」そういうとわたしたちは部屋をでた。

「フィルごめんね。フィルに負担をかけたでしょ?」
「いえいえ、厨房の皆さんが仲良くしてましたから、返って楽しかったですよ」
フィルはわざと話をすり替えて返事をしてくれた。

すごく気楽になった。フィルが前王妃に意地悪するついでに殺された当主の皆さんには申しわけないが、多分全員がフィルのせいってことはないだろうから・・・・

わたしたちはその日のうちに王宮をでると、こじんまりとしたホテルに泊まった。
ほっとくつろげた。夕食は近くのレストランに食べに行って、いろいろな料理を取った。
すごい量になったけど、フィルが
「大丈夫、ぼくが食べます。味を覚えて家で再現しますね」とわたしのお皿からお肉を取りながら言った。

翌日、無事に帰れるとほっとしているギルドマスターと待ち合わせて、ギルドの馬車で町に向かった。

早く家に帰りたい。





季節が変わる頃、ちょっと遠くの海を見に行った。その帰り道で

「王妃様、ほら先代の王妃様、また倒れたんだって、なんか寝込んでいるとかうわさがあっただろ・・・いや倒れてない遊んでるとか。だけど倒れたそうだよ・・・・どうも王宮にいるより良さそうだから、別荘に行きなさるって・・・」
「まぁ子供もいないし・・・エリーゼ様に、今では王太后様って言うんだっけ、丸なげでお茶会とかパーティーのとき元気になる人・・・ってうわさの人だよね」
「こら、あんまりそんな・・」
「そうだ。だれが聞いてるかわからないし・・・」
「でもだれからそんな・・・」
「娘の友達が下働きやっていて・・・・」

わたしとフィルは目を見合わせた。

フィルに笑いかけると、フィルは
「早く家に戻りたいですね。アントンのパン屋のバターロールが恋しいです」
「あら、わたしは金魚のパン屋のクロワッサンが恋しいわ」
「わかりました。早起きして焼きたてを買ってきてあげます」
「あ・り・が・と」
「どういたしまして」
これからの楽しさを象徴するようにミモザの花びらが風に舞っていた。
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みんなの感想(1件)

hiyo
2024.09.10 hiyo

面白かったです。
お金が一杯あって地位があっても、本当の幸せにはなれませんよ……かな。
幸せとはその人の心が満たされている事なのでしょうね。

楽しい物語でした。読ませて頂いてありがとうございました。

解除

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