見栄と友情

朝山みどり

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21 道の先は

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 わたしは、古民家カフェとか、骨董品とか、「蔵の街」という言葉が好きだった。
 SNSで見かける、くすんだ木の梁、裸電球、アンティークの椅子。
 そういう写真を見ると胸がふわっと温かくなり、別の人生があるような気がしてしまう。

 そして今の家がそういった言葉で表現できる場所だと気がついた。

 仕入れはただ。そう蔵にある骨董品はただ。



 ソファに座ると、静寂が重い。

 スマホの中の古民家は夢を実現させた誇らしさで輝いている。

 翌朝、衝動が爆発した。
「行こう」車に乗ってエンジンをかけていた。

 甘くないことはわかる。ただ、見に行くだけ。
 そんな小さな言い訳を胸に抱きながら、高速に乗った。
 蔵の街、古道具、民藝。
 地図アプリで検索して、片っ端からピンを刺していった。


 最初に立ち寄ったのは、里山に抱かれた古民家カフェ。
 平日なのに駐車場には車が止まっていた。

「いらっしゃいませ。おひとりですか?」

 店主らしき女性が笑顔を向けていた。
 歳は……わたしと同じか、少し上くらい。

「素敵ですね、このお店…」

「ありがとうございます。実家なんです。誰も住まなくなったので、思い切って改装したんです」

 実家を改装。それはわたしにとって、ありえない単語の組み合わせだった。

 だが、あの家はわたしのものだ。好きにしていいのだ。

 料理はごく普通の料理。だけど盛り付けが素敵だ。この皿は蔵から?


 そこから一週間、わたしは旅を続けた。
 古道具を棚に並べている店主、親戚が遺した家を手直ししてパン屋に変えた若い夫婦、
 移住して庭に窯を作り陶器を焼く女性。
 誰もが自分の場所を、自分の手で選んでいた。

「好きな物を置いて、売って、暮らしてるだけですよ」

 そう言った人がいた。
 わたしの胸がぎゅっと痛んだ。

 好きな物を置く。何を置いてもいい空間。
 誰の目も、誰の指図もなく。


 旅の最終日、藍染めの工房で美しい色合いの布を触っている時、スマホが震えた。
 息子からの着信ではなく、親戚からだった。

「無断でどこに行った?」とか。ほんと。うるさい。わたしの勝手だ。

 気が早いけど、カフェのマダムの装いにしちゃおうと服を買った。


 一週間ぶりに戻った自宅の玄関に、野菜の袋が置いてあった。

 誰からとも書いていない。単純に好意で持って来たと思うことにした。

 カフェの真似をしてクリーム煮にした。美味しかった。

 職場としてみると、家は見栄えがいい。悪くない。
 翌日、わたしは写メを撮ろうと家の中を歩いた。

 スマホの中の家は素敵だった。
 リビングは、前妻が整えた北欧風の家具が置かれ、洒落ている。
 そして、全体的に、古民家ではなく昭和レトロと言っていいようだ。

 どこか都市的で、洗練されている。
 そう、あの人が暮らしやすいように整えた家。


 台所も、風呂も、トイレも、古くてかっこいい。

 写真を見ながら考えた。骨董を売るだけでは暮らせない。

 何か商売をしなくては。それとも全部売って、現金持って引っ越してパートでもする?現金あるし。

 いやいや、せっかく、舞台を貰ったのだ。もう一花咲かせたい。

 わたしは料理が得意じゃない。

 だけど、カフェの料理だってそんなに卓抜した味ではなかった。

 違うのは盛り付け。お皿も・・・蔵を点検しよう。

 夕方、強い風が吹いた。
 風が木々を揺らし、軒下で音がした。
 その音に混じって、ふとあの町で出会った店主たちの顔が蘇った。

 仕入れはただでした。蔵にありました。
 好きなものを置く場所ができた。
 暮らしにくいけど、そこが好きになりました。

 わたしの頭の中で、それらの言葉が形を持ち始めた。

 この家、蔵、庭。全部ただで手に入った。そりゃ、維持費が大変だろうけど。

 それからわたしは、蔵に入った。

 思ったより、きちんと整理されている。

 木の箱に何やら漢字で書いてある。全部読めないが、皿とか椀はなんとかわかる。

 大きい急須がある。大きい灰皿もある。

 カフェで使えるものはどれって目線で見ると、宝の山だった。






  
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