デイジーは歩く

朝山みどり

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33 忍び寄るもの

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 リーフ商会の積荷の記録が机上に積まれた。とりあえず、手に入れられるのが運送会社だったのは運が良い。

 商会の内容が全部わかる。これは盲点だな。今後、利用できるし、こちらも気をつけなくては。
 
 初めてデイジーさんを見た日。あの日、彼女はカイルの隣で幸せに輝いていた。ピンクの服の刺繍。構図が見事で蝶のブローチが生き生きしていた。

 その後、妹のマリアから話を聞いて驚いた。カイルが別の女性に心を移して、婚約を破棄したと言うのだ。
 驚いた。あの二人にもそう言うことが起きるのだと。

 確かに恋愛は先着順ではない。叔父さんも婚約破棄の場に付き添ったそうだから、ひどい扱いをされたわけではない。

 ひどいのはその後だ。とんでもない噂を流してデイジーさんを孤立させ傷つけた。

 でも彼女はそれをはねのけた。そして王都へやって来た。マリアの助けがあったとしても勇気がある。

 王都でお店を出すと聞いて、手助けすることにした。

 お店を見せて貰って、話をして、手伝ううちに、わたしにとって特別な人になっていった。

 最初から心惹かれていたのは確かだ。でもあの時、隣にカイルがいて彼女は彼だけを見つめていた。
 

 「さて……どこから押すべきか」

 商売というのは、力任せに殴ればいいというものではない。
 一番効果が出るところを、小さな力で押せばいい。
 むしろ小さな力のほうが効く。

 挨拶がわりに、夫人と令嬢のドレスに手出しをした。
 王都の店で仕立てたものと既製品が一緒に送られて来た。

 まぁ店の荷ではなく個人、家族の荷。どういう対応になるのか拝見だ。
 
 わざとではあるが、あくまでも運送上の遅延の形をとる。

 案の定、苦情が来た。

 ドレスが届かない。いつものように届かない。とっくに届いているはずだ。何をやったんだ?
 慌てて届けさせた。そして翌日、詫びに行った。 

 わたしは真摯に謝罪し、そしてゆっくりと言った。

 「大変申し訳ございません。今後のお取引は……こちらから遠慮させていただいたほうがいいかと」

 すると
「そこまで、考えていない。これから気をつけてくれたらいい」

「それはありがとうございます」とお礼を言って会見を終えた。 


 デイジーさんを追い込んだ連中。リーフ夫人。令嬢のパトリシア。そして会長。
 
 彼らを正面から殴るのは面白くない。少しずつ角度を変えて押しつぶせばいい。



 リーフ商会は薪、塩や砂糖、調味料の卸し売りと小売りが商いの中心だ。
 
 流通を止めると客の迷惑になる。どうすればいいか?

 小さな店をたくさん作ってみるか?配達もやってみよう。揃いの服を着せて可愛い荷車を引かせて・・・商品の覆いも・・・

 デイジーさんに頼める。いいぞ。もっと考えよう。
 
 大店に対して、小さな店は脅威にならない……ように見える。
 だが、実際は違う。

 小さいからこそ、早く動ける。
 小さいからこそ、客の要望に柔軟に対応できる。
 小さいからこそ、価格も自由だ。

 そして何より、

 たった一店の不調ではなく、『街全体で勢力が移る』ように見せられる。

 リーフ商会の会長は自信家だ。だから冷静な判断を失う。
 そこへ小さな店が三~五軒、点在すれば――
 彼らは必ず焦る。

 俺は荷車のデザインを考えた。木工は俺の趣味だ。復讐って楽しい仕事だな!

 
 デイジーさんの刺繍は、本当に美しい。
 彼女の手が作るものは、心を浄化するような優しさがある。

 そんな人を潰そうとした商会が、報いを受けないはずがない。

 
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