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31 モルフィ侯爵家
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バーバラ・ジェーンが憤慨して家に戻って来た。
「もう、王宮もたいした場所じゃありませんでした」と父の侯爵を前にバーバラ・ジェーンが言った。
帰ってくるなり執務室に来ての騒ぎだった。
「どうしたんだ。宰相の所から、頼まれて王妃殿下の所へ手伝いに行っていたんだろ」
「それが、期待外れで」
「いくらなんでも、お前の思う通りには行かないだろう」
「それがね、実力を示せないの。誰でも出来る書類の仕分けをさせられるんだけど、くだらない理由でやり直しばかりさせられるの。馬鹿馬鹿しくて。そうしてたら、多分ついていけなかったと思うんだけど学院をやめた子が、王妃の所で働いていてその子が、困っていたから、手伝ってあげたのよ。王妃のお茶会を」
「そこはちゃんと王妃殿下と言いなさい」
「あら、外ではちゃんとしてるわ。わたくしだもの」
「王妃殿下!」
「もう!その殿下と教会のお茶会の手伝いをして、その子と王妃、殿下がドレスを作ってたんだけど、なんともまぁ貧弱なドレスを作ってね。仕方ないからわたくしだけでも、ちゃんとしたのを作ったのよ」
そこに執事がやって来た。慌ただしくノックするとすぐに
「失礼します。王宮より」と言った所でドアが大きく開いて
「急ぎだ。失礼する。侯爵、並びにバーバラ・ジェーン殿はすぐに王宮へ」と口上が述べられさらに執事に向かって
「この家の家族は部屋に引き取るように。使用人は捜索の手伝いを」と言った。
「捜索とはなんだ?」と侯爵が声を荒らげたが、入って来た騎士に腕を取られて連れて行かれた。
「ご令嬢もこちらへ。侍女殿も一緒に」と口調は丁寧だったが、有無をいわさず取り囲んで馬車へ乗せた。
侯爵の取り調べはすぐに終わった。証拠は不十分だったが、押収した帳簿を精査すると税の計算がおかしかった。
解釈違いで済ませてもいいような些細なものだったが、脱税の証拠とされた。それを知った侯爵はこの事態から逃れられないとわかった。ただ、侯爵はどうして娘も取り調べを受けているのか、わからなかった。
普通の娘より少し頭の回転が速くて、気が強い。そんな娘は王宮で働くと頭角を表す。そう思っていた。それが試験を受けるより早く宰相の誘いがあった。娘は隠しているつもりのようだが、宰相に惹かれている。それで二人がうまくいけばそれに越したことはないと思っていた。
だが、一体なにが起こったんだ。知っておかなくては。それで、娘の取り調べに同席するようにと言われて、すぐに承知した。
「バーバラ・ジェーンは王妃殿下の予算で自分の衣装を作った。予算は王妃殿下が寄付をするために余らせていたのだ。それを横領した」そう言われて驚いた。それが罪なのか?金なら補填しよう。
「衣装を作ったと言うなら代金はわたしが払いましょう」と侯爵が言うと
「払う金があればな」一介の取り調べ係が無礼な口を聞いた。
「お前の娘が王妃殿下の予算を横取りして作った衣装と王妃殿下たちの衣装を、宮殿の一角で展示しておる。しがない庶民でも驚いているぞ。衣装の違いにな。わたしも見て来たが、わたしでもわかるひどさだ。特別に夜、見せに連れて行ってやる」
「違うわ。確かに少しいいのを作ったけど・・・予算は棒線で消してあったのよ。だからはっきりしてなかった」
「だから、説明されただろう。宰相はジュディ様がお前に説明したと証言しておる」
「そうだけど・・・」
「説明されてわからなかったなどと、子供のような言い訳でもするか?わからなければ、もう一度説明して貰えばいい。だが、これに説明がいるか?予算はいくら。それを聞けばいいだけだ」
「違うわ。予算は聞いてない」
「聞かずに勝手にしたのか?」
取り調べ係と娘のやり取りを聞きながらモルフィ侯爵は、だめだと思った。娘を救う道は一つだ。
「申し訳ありません。娘は子供なのです。成績は良かったのですが、子供で・・・いろいろ理解が足りないのです」
「なるほど、王妃殿下は教会と王家の関係を壊そうとしたとおっしゃってます」
「そのような・・・」と侯爵は言った。
教会と王室は長年、密かに覇権を争っているが、表面は取り繕っている。今回のお茶会は王妃が折れて大司教を招いたことになっていて、王妃殿下の機嫌をとるのが大変だったと言うのは一部に知られている。
そして、王妃と大司教二人共に、自分が優位に立ったと思って終わる成功したお茶会になった。
ただ、王妃は予定では完全な勝利で終わるはずだったのをかろうじての勝利にしてしまったバーバラ・ジェーンを罰したいと思い、大司教は心の傷を抉ったバーバラ・ジェーンを罰したいと思っている。
双方の意を汲んだバージルは、モルフィ侯爵へ遠慮しなかった。違法すれすれの家宅捜査。悪意ある解釈。
名目上の取り調べが終わった。侯爵夫人はバーバラ・ジェーン以外の子を連れて実家に戻った。夫人と子供達の生活費、学費は手元に残された。
侯爵は労働刑になった。バーバラ・ジェーンは教会が引き取った。それの意味する所はいろいろ推測されたが、正解は誰もわからない。
「もう、王宮もたいした場所じゃありませんでした」と父の侯爵を前にバーバラ・ジェーンが言った。
帰ってくるなり執務室に来ての騒ぎだった。
「どうしたんだ。宰相の所から、頼まれて王妃殿下の所へ手伝いに行っていたんだろ」
「それが、期待外れで」
「いくらなんでも、お前の思う通りには行かないだろう」
「それがね、実力を示せないの。誰でも出来る書類の仕分けをさせられるんだけど、くだらない理由でやり直しばかりさせられるの。馬鹿馬鹿しくて。そうしてたら、多分ついていけなかったと思うんだけど学院をやめた子が、王妃の所で働いていてその子が、困っていたから、手伝ってあげたのよ。王妃のお茶会を」
「そこはちゃんと王妃殿下と言いなさい」
「あら、外ではちゃんとしてるわ。わたくしだもの」
「王妃殿下!」
「もう!その殿下と教会のお茶会の手伝いをして、その子と王妃、殿下がドレスを作ってたんだけど、なんともまぁ貧弱なドレスを作ってね。仕方ないからわたくしだけでも、ちゃんとしたのを作ったのよ」
そこに執事がやって来た。慌ただしくノックするとすぐに
「失礼します。王宮より」と言った所でドアが大きく開いて
「急ぎだ。失礼する。侯爵、並びにバーバラ・ジェーン殿はすぐに王宮へ」と口上が述べられさらに執事に向かって
「この家の家族は部屋に引き取るように。使用人は捜索の手伝いを」と言った。
「捜索とはなんだ?」と侯爵が声を荒らげたが、入って来た騎士に腕を取られて連れて行かれた。
「ご令嬢もこちらへ。侍女殿も一緒に」と口調は丁寧だったが、有無をいわさず取り囲んで馬車へ乗せた。
侯爵の取り調べはすぐに終わった。証拠は不十分だったが、押収した帳簿を精査すると税の計算がおかしかった。
解釈違いで済ませてもいいような些細なものだったが、脱税の証拠とされた。それを知った侯爵はこの事態から逃れられないとわかった。ただ、侯爵はどうして娘も取り調べを受けているのか、わからなかった。
普通の娘より少し頭の回転が速くて、気が強い。そんな娘は王宮で働くと頭角を表す。そう思っていた。それが試験を受けるより早く宰相の誘いがあった。娘は隠しているつもりのようだが、宰相に惹かれている。それで二人がうまくいけばそれに越したことはないと思っていた。
だが、一体なにが起こったんだ。知っておかなくては。それで、娘の取り調べに同席するようにと言われて、すぐに承知した。
「バーバラ・ジェーンは王妃殿下の予算で自分の衣装を作った。予算は王妃殿下が寄付をするために余らせていたのだ。それを横領した」そう言われて驚いた。それが罪なのか?金なら補填しよう。
「衣装を作ったと言うなら代金はわたしが払いましょう」と侯爵が言うと
「払う金があればな」一介の取り調べ係が無礼な口を聞いた。
「お前の娘が王妃殿下の予算を横取りして作った衣装と王妃殿下たちの衣装を、宮殿の一角で展示しておる。しがない庶民でも驚いているぞ。衣装の違いにな。わたしも見て来たが、わたしでもわかるひどさだ。特別に夜、見せに連れて行ってやる」
「違うわ。確かに少しいいのを作ったけど・・・予算は棒線で消してあったのよ。だからはっきりしてなかった」
「だから、説明されただろう。宰相はジュディ様がお前に説明したと証言しておる」
「そうだけど・・・」
「説明されてわからなかったなどと、子供のような言い訳でもするか?わからなければ、もう一度説明して貰えばいい。だが、これに説明がいるか?予算はいくら。それを聞けばいいだけだ」
「違うわ。予算は聞いてない」
「聞かずに勝手にしたのか?」
取り調べ係と娘のやり取りを聞きながらモルフィ侯爵は、だめだと思った。娘を救う道は一つだ。
「申し訳ありません。娘は子供なのです。成績は良かったのですが、子供で・・・いろいろ理解が足りないのです」
「なるほど、王妃殿下は教会と王家の関係を壊そうとしたとおっしゃってます」
「そのような・・・」と侯爵は言った。
教会と王室は長年、密かに覇権を争っているが、表面は取り繕っている。今回のお茶会は王妃が折れて大司教を招いたことになっていて、王妃殿下の機嫌をとるのが大変だったと言うのは一部に知られている。
そして、王妃と大司教二人共に、自分が優位に立ったと思って終わる成功したお茶会になった。
ただ、王妃は予定では完全な勝利で終わるはずだったのをかろうじての勝利にしてしまったバーバラ・ジェーンを罰したいと思い、大司教は心の傷を抉ったバーバラ・ジェーンを罰したいと思っている。
双方の意を汲んだバージルは、モルフィ侯爵へ遠慮しなかった。違法すれすれの家宅捜査。悪意ある解釈。
名目上の取り調べが終わった。侯爵夫人はバーバラ・ジェーン以外の子を連れて実家に戻った。夫人と子供達の生活費、学費は手元に残された。
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