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朝の受付カウンターは、いつも通り静かだった。
後日、あれはまさに嵐の前の静けさ。この言葉の通りだった。とわたしは思った。
観葉植物の葉を拭きながら、わたしは今日の予定を確認していた。
十時から大口の来客、午後には契約関連の打ち合わせ。――いつもの朝のはずだった。
その時、ロビーのガラスドアが音もなく開いた。
背筋の伸びた初老の男性と、若い付き添いが入ってきた。
初老の男性は、なんか見たことある格好と見たことある顔だったが、思い出せない。付き添いの方はスーツを着ていたが、まだ慣れてない風だった。
「いらっしゃいませ」
笑顔を保ちながら尋ねると、初老の男性が柔らかく言った。
「カワシマカオリさんにお会いしたいのですが」
私は内心、ため息をついた。
またカワシマさん……。
彼女は、社内の有名人だ。腕利きの営業マン。トップだと思うが、その分悪い噂もあった。その現れがある写真。援助交際だの体で契約を取っただの。そして今は倉庫の整理係になっていて、ジャージで仕事をしている。美味しそうなお弁当とおやつでまた有名になったが、ジャージもよく見るとブランドのものを着ているのではないかと噂だ。
よくわからないから、はっきり言えないけど、だって同じ値段だったらジャージの運動着と言うか作業着よりおしゃれ着にお金をかけるよね。だから、噂は外れていると思う。
「申し訳ございません。社員はお約束のない方と面会は出来ません」
定型文を告げると、付き添いの若い男が一歩前へ出た。
「それでは、法的措置も考えさせていただきます」
その言葉の“圧”に、空気が変わった。
私は慌てて警備に連絡しようとしたが、背後から総務の主任が顔を出した。
「なにかありました?」
「お客様が、カワシマさんとの面会を希望されています」
「今は……」主任が口を開きかけたその時、付き添いがさらに声を低くした。
「写真の件です」
封筒から取り出されたのは、例の写真だった。
カワシマさんと、この男性――つまり目の前の老人――が並んで写っている。
「問題の写真」社内で散々噂になった、あの表紙事件だ。だから、見たことあったんだ。
「それを公式ページの表紙に貼り付けた上に、ふざけた紹介文まで添えられていた。どういうつもりですか?」
老人の声は静かだったが、底に怒りが沈んでいた。
私は言葉を失った。
「……確認いたしますので、少々お待ちください」
内線を取ろうとした瞬間、エレベーターの表示灯が点いた。
一階に降りてくる。
その中から出てきたのは、社長と秘書。
なんと社長がこんな所に?秘書は目で黙っていろと合図を送って来た。
その時、ドアが開いて男が二人入って来た。
長身で、柔らかな笑みを浮かべた男。
紺色のスーツに紺と茶のストライプのネクタイが男の顔の端正さを強さに変えている。
後ろの男は、見るからに秘書の格好をしている。
グレーのスーツにグレーのネクタイ。目立たないことを意識した格好をしているが、とてもかっこいい。
社長が進み出て頭を下げた。うちの秘書は本当に深々と下げている。男が無言でうなずいた。後ろの秘書は軽く頭を下げ返した。
社長がわたしを見たので、要件を聞くために近寄った。それを聞いて驚いたが、すぐに受話器を取り、各部署に一斉連絡を入れた。
「至急、大ホールに全員集合してください。社長、並びにジングウジ・アサト様からお話があります」
受話器の向こうの混乱はどの部署でも同じだった。わたしも社内への部外者の立ち入りを防ぐために玄関に鍵をかけてホールに向かった。
今日の予定客へは、ジングウジ様の秘書が連絡を入れてくれると言うのでお任せした。
わたしの案内は必要ないと言うことなので、わたしも一社員としてホールに向かった。
ホールのドアを開けると、すでに社員たちがざわざわと集まっていて、わたしを見ると、
「ジングウジ・アサトって?」「何か聞いてる?」「何があったの?」とか聞いて来たが、
「何も知らないの。聞いてない」しか言えなかった。
これが全従業員か、約三百名、初めて全員がホールに集まった。
ベッドのツーショットの二人はいるかな?始業すぐだから、誰も何も聞いてないな。
そこでドアが開いて、社長秘書が入って来た。彼は全員を見渡しながら、
「揃っていますか?大事な話があります。静粛にお出迎えして下さい」
そこで社長が入って来て、頭を下げて、ジングウジ様を招き入れた。
入って来た彼は受付の印象なんて生ぬるいと思うほど、鋭い輝きを持っていた。
前に立つとざっと全体を見て
「ジングウジ・アサトだ。詳しい説明は追ってするが、本日付で、株式会社マクサの経営権は、ジングウジグループに移譲されました」
既に登記の手続きは完了しています。詳細は追って文書で説明します。まずお伝えしたいのは――この会社を“正常化”することです。
“正常化”なんて無礼だと思う向きもあるでしょう。言い方を変えればジングウジグループとしてふさわしい状態にする。
そういうことです。わたしは自分の手の中にあるものを正しい状態にして置きたいのです」
その言葉が、ホールの隅々まで染み込んでいった。
誰も拍手しない。誰も笑わない。ただ、ざわめきが広がる。
「近く、コンプライアンス委員会を設置します。情報管理、広報体制、社員の安全、すべて見直します」
そして少し間を置いて、
「特に、社内からの不正アクセスや虚偽の投稿については、厳重に対処します」
発言に連れて小声で話し始める人が増えてざわめきが広がり、大きくなって行った。
それをジングウジ社長は面白そうに見ていた。
あっ応接間に案内したお客様がいる。わたしは社長秘書の所へ行くとそのことを告げた。
秘書はジングウジ社長の秘書にそれを告げた。ジングウジ社長の秘書はわたしの所へ来ると、
「すぐ、こちらへ、ご案内をして下さい」と言った。
後日、あれはまさに嵐の前の静けさ。この言葉の通りだった。とわたしは思った。
観葉植物の葉を拭きながら、わたしは今日の予定を確認していた。
十時から大口の来客、午後には契約関連の打ち合わせ。――いつもの朝のはずだった。
その時、ロビーのガラスドアが音もなく開いた。
背筋の伸びた初老の男性と、若い付き添いが入ってきた。
初老の男性は、なんか見たことある格好と見たことある顔だったが、思い出せない。付き添いの方はスーツを着ていたが、まだ慣れてない風だった。
「いらっしゃいませ」
笑顔を保ちながら尋ねると、初老の男性が柔らかく言った。
「カワシマカオリさんにお会いしたいのですが」
私は内心、ため息をついた。
またカワシマさん……。
彼女は、社内の有名人だ。腕利きの営業マン。トップだと思うが、その分悪い噂もあった。その現れがある写真。援助交際だの体で契約を取っただの。そして今は倉庫の整理係になっていて、ジャージで仕事をしている。美味しそうなお弁当とおやつでまた有名になったが、ジャージもよく見るとブランドのものを着ているのではないかと噂だ。
よくわからないから、はっきり言えないけど、だって同じ値段だったらジャージの運動着と言うか作業着よりおしゃれ着にお金をかけるよね。だから、噂は外れていると思う。
「申し訳ございません。社員はお約束のない方と面会は出来ません」
定型文を告げると、付き添いの若い男が一歩前へ出た。
「それでは、法的措置も考えさせていただきます」
その言葉の“圧”に、空気が変わった。
私は慌てて警備に連絡しようとしたが、背後から総務の主任が顔を出した。
「なにかありました?」
「お客様が、カワシマさんとの面会を希望されています」
「今は……」主任が口を開きかけたその時、付き添いがさらに声を低くした。
「写真の件です」
封筒から取り出されたのは、例の写真だった。
カワシマさんと、この男性――つまり目の前の老人――が並んで写っている。
「問題の写真」社内で散々噂になった、あの表紙事件だ。だから、見たことあったんだ。
「それを公式ページの表紙に貼り付けた上に、ふざけた紹介文まで添えられていた。どういうつもりですか?」
老人の声は静かだったが、底に怒りが沈んでいた。
私は言葉を失った。
「……確認いたしますので、少々お待ちください」
内線を取ろうとした瞬間、エレベーターの表示灯が点いた。
一階に降りてくる。
その中から出てきたのは、社長と秘書。
なんと社長がこんな所に?秘書は目で黙っていろと合図を送って来た。
その時、ドアが開いて男が二人入って来た。
長身で、柔らかな笑みを浮かべた男。
紺色のスーツに紺と茶のストライプのネクタイが男の顔の端正さを強さに変えている。
後ろの男は、見るからに秘書の格好をしている。
グレーのスーツにグレーのネクタイ。目立たないことを意識した格好をしているが、とてもかっこいい。
社長が進み出て頭を下げた。うちの秘書は本当に深々と下げている。男が無言でうなずいた。後ろの秘書は軽く頭を下げ返した。
社長がわたしを見たので、要件を聞くために近寄った。それを聞いて驚いたが、すぐに受話器を取り、各部署に一斉連絡を入れた。
「至急、大ホールに全員集合してください。社長、並びにジングウジ・アサト様からお話があります」
受話器の向こうの混乱はどの部署でも同じだった。わたしも社内への部外者の立ち入りを防ぐために玄関に鍵をかけてホールに向かった。
今日の予定客へは、ジングウジ様の秘書が連絡を入れてくれると言うのでお任せした。
わたしの案内は必要ないと言うことなので、わたしも一社員としてホールに向かった。
ホールのドアを開けると、すでに社員たちがざわざわと集まっていて、わたしを見ると、
「ジングウジ・アサトって?」「何か聞いてる?」「何があったの?」とか聞いて来たが、
「何も知らないの。聞いてない」しか言えなかった。
これが全従業員か、約三百名、初めて全員がホールに集まった。
ベッドのツーショットの二人はいるかな?始業すぐだから、誰も何も聞いてないな。
そこでドアが開いて、社長秘書が入って来た。彼は全員を見渡しながら、
「揃っていますか?大事な話があります。静粛にお出迎えして下さい」
そこで社長が入って来て、頭を下げて、ジングウジ様を招き入れた。
入って来た彼は受付の印象なんて生ぬるいと思うほど、鋭い輝きを持っていた。
前に立つとざっと全体を見て
「ジングウジ・アサトだ。詳しい説明は追ってするが、本日付で、株式会社マクサの経営権は、ジングウジグループに移譲されました」
既に登記の手続きは完了しています。詳細は追って文書で説明します。まずお伝えしたいのは――この会社を“正常化”することです。
“正常化”なんて無礼だと思う向きもあるでしょう。言い方を変えればジングウジグループとしてふさわしい状態にする。
そういうことです。わたしは自分の手の中にあるものを正しい状態にして置きたいのです」
その言葉が、ホールの隅々まで染み込んでいった。
誰も拍手しない。誰も笑わない。ただ、ざわめきが広がる。
「近く、コンプライアンス委員会を設置します。情報管理、広報体制、社員の安全、すべて見直します」
そして少し間を置いて、
「特に、社内からの不正アクセスや虚偽の投稿については、厳重に対処します」
発言に連れて小声で話し始める人が増えてざわめきが広がり、大きくなって行った。
それをジングウジ社長は面白そうに見ていた。
あっ応接間に案内したお客様がいる。わたしは社長秘書の所へ行くとそのことを告げた。
秘書はジングウジ社長の秘書にそれを告げた。ジングウジ社長の秘書はわたしの所へ来ると、
「すぐ、こちらへ、ご案内をして下さい」と言った。
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