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ジングウジ社長の言葉がホールに響き渡った後も、空気は張り詰めていた。
誰もが息を潜め、次に何が起こるのかを探っている。
そんな中で、わたしは控えめに社長の隣に立つ初老の男性――ヤマモト様――に目をやった。
その背筋は凛と伸び、どんな状況でも動じない品格を漂わせていた。
その隣に控える青年は、穏やかな笑みを浮かべているが、面白がっている。
ジングウジ社長の短い指示で、わたしの仕事が出来た。彼はカワシマ・カオリさんを探していたのだ。
彼女の部署の部長が、倉庫にいるはずだと答えると、そこに放送が入るのかと確認された。
わたしは、
「多分スピーカーの故障が放置されていたと存じます。わたくしがお連れします」と答えた。
するとジングウジ社長は、
「なら、僕も行こう」と軽くおっしゃった。するとヤマモト様たちも行きたいと言うことで
ジングウジ社長とヤマモト様、そしてそのお連れ様を案内して倉庫へ行った。
「へぇ、会社ってこんなふうになっているんだ。君は長く働いているの?」
「・・・まぁ」
「今度、ゆっくり話そうよ」
「はぃ」
「これ、お嬢さんが困っているだろ」
「だって、じいちゃん。美人にはすぐに手を出さないと」
「こら! お嬢さんすまんね」
「ぃえ」
エレベーターを降りると、倉庫まではすぐだった。
ドアが開いている。薄暗い通路の先から、軽快な作業音が聞こえてくる。
何語?も聞こえて来る。
段ボールを動かす音、紙を束ねる音。
そこに混じって、何語!
紺色のジャージ姿のカワシマカオリさん。
髪を後ろでまとめ、腕まくりして、マスクをして働いている。
棚の上のファイルを軽やかに取って、腰を落として箱に収める。
その動作は実に美しく、無駄がない。
思わず、見惚れてしまった。
「……おぉ」
ヤマモト様の声が、驚きと感嘆の混じった響きで漏れた。
「勇ましいな。まるで若い頃の自分を見ているようだ」
カワシマさんが手を止め、振り返った。
その瞬間、驚きと戸惑いが一度に彼女の表情をよぎった。
そしてすぐに笑顔を作り、こう言った。
「ヤマモトさん……それに、アサト…ジングウジさん。お孫さん?」
「うん、僕が孫。初めまして、驚いた?」
お孫さんがそう言うと、
「うん、驚いた。初めまして。どうしたんですか?ご一緒で」
ジングウジ社長が一歩前へ出る。
声のトーンは柔らかく、まるで恋人を迎えに来たようだった。
「二人で来たわけじゃないよ。偶然、今日出会ったんだ」
「それにしても、いないから、迎えに来たのだよ」
と、ヤマモト様。
その言葉に、カワシマさんが笑った。
「お迎えって?何かあるんですか?」
「それにしても……その格好。やっぱり似合うな」
「そうですか?動きやすくて助かります。これっていい物の良さですかね」
「モデルもいいから、試着の時より似合ってる。かっこいいし、可愛い」
そう言いながら、ジングウジ社長が軽く手を広げた。
「ちょっと回ってみてくれないか?」
カワシマさんは一瞬、冗談だと思ったのか目を見開いたが、
笑いながら、くるりと一回転してみせた。
その仕草がなんとも自然で、周囲の空気がふっと柔らかくなる。
倉庫に差し込む光が、彼女の髪に反射して、まるで舞台照明のように輝いた。
「いいねぇ」とヤマモト様が満足そうに頷き、
「最初はスーツを着た怖いお姉さんだったのに、こういう姿で働いてるのはいいねぇ」と言った。
「おっと、戻って仕事をしないと」とジングウジ社長はおっしゃると
「戻りましょう」とキリッとした声で皆を促した。
倉庫を出て、四人の後ろを歩く。
まるで新しい時代の幕開けのようだった。
ホールのドアの前に立った時、ジングウジ社長が振り返って私に言った。
「ありがとう。いい案内だった」
その言葉に、わたしは深く頭を下げた。そして前に出てドアを開けた。
ドアが開いた時、それまで騒がしかった部屋が静かになった。
その瞬間、カワシマさんはやり手の営業の顔になった。
ジングウジ社長に、甘えていた姿はどこにもなかった。
「待たせてすまない。これで全員が揃ったな」と秘書の方を見て、
「全員が揃った所でこれからの話を始める」
ジングウジ社長、いえ、社長は全員に向かって話し始めた。
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