26 / 43
26 吊し上げ 真相がわかる
予定より遅くカオリ先輩が帰って来た。青い顔のコバヤシ氏と一緒に笑顔で戻って来た。
すると秘書さんと専務氏が急ぎ駆け寄った。
「さすが、頼りになります」「よかった。メールで報告は貰っていたけど顔を見ると安心します」と聞いていてむかついた。
わたしは自分の席に座っていたけど、耳は全部そっちに向いていた。笑い声、軽い冗談、そして「本当にありがとうございます。カワシマさん。わたしではあぁ上手く収められませんでした」というコバヤシ氏の声。なんであんな言葉をかけられるの。あの人、泥棒なのに。
わたしはじっと見ていた。コーヒーを飲む仕草、ノートにメモする姿、笑いながらうなずく横顔。そのどれもが「出来る女」そのものだった。みんな、また騙されてる。
専務氏が「それじゃ今日はここまで」と立ち上がり、カオリ先輩が自分の席に戻り、コバヤシ氏がお土産を配ろうとし始めた。その瞬間、わたしの中で何かが弾けた。
立ち上がって、声を出した。
「カオリ先輩は泥棒をしています。暴力も振るいました。そのことを皆さんに聞いて欲しいです。先輩も言い訳があるでしょうから、ここで話しましょう」
一瞬、空気が凍った。
そして、誰よりも早くトオルの声が響いた。
「やめろ、ミナ!」
怒鳴り声。けど、もう遅い。みんながこっちを見ていた。
わたしの声も、もう止まらなかった。
「トオルさんの部屋の家具を全部持っていったんです。ベッドも、ソファも、食器も。人の部屋のものを売ったんです。それって泥棒ですよね?」
部屋の空気がざわめいた。ざわめきの中で、カオリ先輩は静かに立ち上がった。
その顔は、怒ってもいない、泣いてもいない。驚いていた。
「あなた、誤解してるみたいね。あの部屋の家具も家電も、全部わたしが買ったものよ。部屋の契約も、家賃も全部、わたしが払ってた。そこの殿方から聞いてないの?確認しなかったの?」
「だからです。だって、同棲してたのに!」
「同棲してたからって、それがどうだって言うの? 払った人の物は、払った人の物。世の中、そういうふうに出来てるの。知らなかった?」
淡々とした口調。わたしの胸が焼けるように熱くなった。
「でも……! でも、トオルさんの部屋なんです!」
「契約書見たことある? 名義はわたし。わたしの部屋。あなたたちが使ってたあの部屋は、わたしの契約した部屋。だから、わたしの物を持って出ただけ」
周りの人たちの視線がわたしに向かう。誰も味方をしてくれない。
どうして? みんな、あの人が悪いって知ってるはずなのに。
「だったら、わたしが泥棒って言ったのね。不思議だったのよね」
そう言うと、カオリ先輩は小さくため息をついた。
「よりによって泥棒だとわね」と呆れたように微笑んだ。
その笑顔が、耐えられなかった。
「そんな……都合のいい言い訳!」
「言い訳じゃない。証拠なら全部ある。契約書も、領収書も、銀行の振り込み明細も」
周りで、誰かが小さく笑った。
笑われた。わたしが。みんなの前で。
「ミナ、もうやめろって!」
トオルが立ち上がった。声が裏返っていた。
その顔は、焦って、真っ青で、わたしを見ていなかった。
トオルは社長秘書の方を見ていた。
そして、気づいた。
ホールの奥に、社長がいた。
誰が呼んだのかわからない。
でも、社長はそこにいた。
冷たい視線で、すべてを見ていた。
秘書が歩み出て、わたしたちの前で静かに言った。
「ジングウジ社長がお呼びです。カワシマさんとお二人とも、来てください」
お二人――それは、わたしとトオル。
社内が静まり返った。
カオリ先輩が気の毒そうにこちらを見ていた。
トオルが立ち上がり、わたしの腕をつかんだ。
「行くぞ」と言う声が震えていた。
引かれるままに歩く。廊下の先、重い扉の前。
秘書がドアノブに手をかける。
わたしたちが入ると、社長が椅子から顔を上げた。
「さて、騒がしい噂の中心人物が来たようだね」
声は静かだった。でも、その静けさが一番怖かった。
社長の横には秘書、そして専務氏。
机の上には何枚かの書類。
その一番上に、「社内風紀に関する報告」と書かれていた。
社長は、ゆっくりとわたしを見た。
その目が冷たかった。
「君が、カワシマのことを泥棒だと言いふらしていたのか」
喉が詰まった。声が出なかった。
「言いました……でも、だって、本当に――」
「証拠はあるのか?」
証拠? そんなの、見た目で分かる。
家具がなくなった部屋。泣いていたトオル。
――だけど、口にした瞬間、全部が幼稚に思えた。
「見ました。部屋が空っぽになってました。トオルさんの部屋です」
「その部屋の契約者は誰だ?」
社長の声が刺さる。
トオルが答えた。「……カオリです」
「家賃の支払い名義は?」
「……カオリです」
「家具の領収書は?」
「……わかりません。全部、最初からカオリの部屋にありました」
その瞬間、社長は何も言わなかった。
ただ、ゆっくりと椅子に背を預けた。
沈黙。時計の音がやけに大きい。
「暴力については、診断書があるな。肋骨の骨折。蹴られたんだな。経緯はまだ調査中だ」
社長が資料をめくる。紙の音が、耳に刺さる。
「カワシマは、君たちが同棲していた時、契約解除と荷物の搬出を正式に申請している。書類も残っている。つまり、君たちの言う泥棒は成立しない。部屋を退去する時に家具を片付けるのは当たり前の行為だ」
社長の視線が、わたしに向いた。
「でも、あの家具は高価なものです。わたし検索したんです。ソファだって二百万とかそんな値段です。どうやってそんなお金を稼いだと?」すると、カオリ先輩が手を挙げた。
「どうぞ。説明出来るんだな。確かにそんな家具を使っていた理由に興味がある」そう言う社長はなんだか、焦っているようだった。
「はい、あのマンションの空き部屋を見に不動産屋さんと行った時、あの部屋、わたしが借りている部屋の人がちょうどドアを開けて出て来て、わたしが不動産屋さんと一緒なのを見て『入居希望の方?それだったら話を聞いてってことで、まぁ最初の予定より広い部屋だけど、問題は家具の始末。その人は凄く急いでいて、家具を引き取って欲しいってことで、いい家具だったから、家具はいただきました。後は普通に手続きしてあの部屋を契約しました。普通はお部屋の掃除とかの費用がかかるけど、わたしが辞退したのでその分、割り引いて貰いました。で、あの部屋。名義変更出来るから、と知らせたでしょ。受け取りメールを返して来たよね。来なかったから、あの部屋に住む気はないと思ったけど、住んでいるのね。二人で払うから・・・家具は業者を探したら買い取ってくれる所があったのよ。今、流行っているんですって。つまり、泥棒は誤解ね。ちゃんと全員に説明してね」
聞いているうちにますます、頭に血がのぼった。
「運だけで、いい家具を手に入れてそれを売るなんてずるい。ずるい。ずるい!トオルも黙ってるなんてずるい。暴力女!ずるい」
そうだ。暴力に言い訳は効かない。あれは暴力だ。だから、
「部屋に入って来て、いきなり蹴るなんて凶暴。暴力女」と怒鳴った。トオルが止めようろ口をふさごうとしてくるから、噛みついた。
「その経緯については、まとめたものがある。メールで送るよ。読んで話し合って」そう社長は言った。
「それぞれのPCに送ったから、机に戻って読んでくれ。それではここは解散」
トオルは頭を下げるとわたしを半分引きずって部屋を出た。
すると秘書さんと専務氏が急ぎ駆け寄った。
「さすが、頼りになります」「よかった。メールで報告は貰っていたけど顔を見ると安心します」と聞いていてむかついた。
わたしは自分の席に座っていたけど、耳は全部そっちに向いていた。笑い声、軽い冗談、そして「本当にありがとうございます。カワシマさん。わたしではあぁ上手く収められませんでした」というコバヤシ氏の声。なんであんな言葉をかけられるの。あの人、泥棒なのに。
わたしはじっと見ていた。コーヒーを飲む仕草、ノートにメモする姿、笑いながらうなずく横顔。そのどれもが「出来る女」そのものだった。みんな、また騙されてる。
専務氏が「それじゃ今日はここまで」と立ち上がり、カオリ先輩が自分の席に戻り、コバヤシ氏がお土産を配ろうとし始めた。その瞬間、わたしの中で何かが弾けた。
立ち上がって、声を出した。
「カオリ先輩は泥棒をしています。暴力も振るいました。そのことを皆さんに聞いて欲しいです。先輩も言い訳があるでしょうから、ここで話しましょう」
一瞬、空気が凍った。
そして、誰よりも早くトオルの声が響いた。
「やめろ、ミナ!」
怒鳴り声。けど、もう遅い。みんながこっちを見ていた。
わたしの声も、もう止まらなかった。
「トオルさんの部屋の家具を全部持っていったんです。ベッドも、ソファも、食器も。人の部屋のものを売ったんです。それって泥棒ですよね?」
部屋の空気がざわめいた。ざわめきの中で、カオリ先輩は静かに立ち上がった。
その顔は、怒ってもいない、泣いてもいない。驚いていた。
「あなた、誤解してるみたいね。あの部屋の家具も家電も、全部わたしが買ったものよ。部屋の契約も、家賃も全部、わたしが払ってた。そこの殿方から聞いてないの?確認しなかったの?」
「だからです。だって、同棲してたのに!」
「同棲してたからって、それがどうだって言うの? 払った人の物は、払った人の物。世の中、そういうふうに出来てるの。知らなかった?」
淡々とした口調。わたしの胸が焼けるように熱くなった。
「でも……! でも、トオルさんの部屋なんです!」
「契約書見たことある? 名義はわたし。わたしの部屋。あなたたちが使ってたあの部屋は、わたしの契約した部屋。だから、わたしの物を持って出ただけ」
周りの人たちの視線がわたしに向かう。誰も味方をしてくれない。
どうして? みんな、あの人が悪いって知ってるはずなのに。
「だったら、わたしが泥棒って言ったのね。不思議だったのよね」
そう言うと、カオリ先輩は小さくため息をついた。
「よりによって泥棒だとわね」と呆れたように微笑んだ。
その笑顔が、耐えられなかった。
「そんな……都合のいい言い訳!」
「言い訳じゃない。証拠なら全部ある。契約書も、領収書も、銀行の振り込み明細も」
周りで、誰かが小さく笑った。
笑われた。わたしが。みんなの前で。
「ミナ、もうやめろって!」
トオルが立ち上がった。声が裏返っていた。
その顔は、焦って、真っ青で、わたしを見ていなかった。
トオルは社長秘書の方を見ていた。
そして、気づいた。
ホールの奥に、社長がいた。
誰が呼んだのかわからない。
でも、社長はそこにいた。
冷たい視線で、すべてを見ていた。
秘書が歩み出て、わたしたちの前で静かに言った。
「ジングウジ社長がお呼びです。カワシマさんとお二人とも、来てください」
お二人――それは、わたしとトオル。
社内が静まり返った。
カオリ先輩が気の毒そうにこちらを見ていた。
トオルが立ち上がり、わたしの腕をつかんだ。
「行くぞ」と言う声が震えていた。
引かれるままに歩く。廊下の先、重い扉の前。
秘書がドアノブに手をかける。
わたしたちが入ると、社長が椅子から顔を上げた。
「さて、騒がしい噂の中心人物が来たようだね」
声は静かだった。でも、その静けさが一番怖かった。
社長の横には秘書、そして専務氏。
机の上には何枚かの書類。
その一番上に、「社内風紀に関する報告」と書かれていた。
社長は、ゆっくりとわたしを見た。
その目が冷たかった。
「君が、カワシマのことを泥棒だと言いふらしていたのか」
喉が詰まった。声が出なかった。
「言いました……でも、だって、本当に――」
「証拠はあるのか?」
証拠? そんなの、見た目で分かる。
家具がなくなった部屋。泣いていたトオル。
――だけど、口にした瞬間、全部が幼稚に思えた。
「見ました。部屋が空っぽになってました。トオルさんの部屋です」
「その部屋の契約者は誰だ?」
社長の声が刺さる。
トオルが答えた。「……カオリです」
「家賃の支払い名義は?」
「……カオリです」
「家具の領収書は?」
「……わかりません。全部、最初からカオリの部屋にありました」
その瞬間、社長は何も言わなかった。
ただ、ゆっくりと椅子に背を預けた。
沈黙。時計の音がやけに大きい。
「暴力については、診断書があるな。肋骨の骨折。蹴られたんだな。経緯はまだ調査中だ」
社長が資料をめくる。紙の音が、耳に刺さる。
「カワシマは、君たちが同棲していた時、契約解除と荷物の搬出を正式に申請している。書類も残っている。つまり、君たちの言う泥棒は成立しない。部屋を退去する時に家具を片付けるのは当たり前の行為だ」
社長の視線が、わたしに向いた。
「でも、あの家具は高価なものです。わたし検索したんです。ソファだって二百万とかそんな値段です。どうやってそんなお金を稼いだと?」すると、カオリ先輩が手を挙げた。
「どうぞ。説明出来るんだな。確かにそんな家具を使っていた理由に興味がある」そう言う社長はなんだか、焦っているようだった。
「はい、あのマンションの空き部屋を見に不動産屋さんと行った時、あの部屋、わたしが借りている部屋の人がちょうどドアを開けて出て来て、わたしが不動産屋さんと一緒なのを見て『入居希望の方?それだったら話を聞いてってことで、まぁ最初の予定より広い部屋だけど、問題は家具の始末。その人は凄く急いでいて、家具を引き取って欲しいってことで、いい家具だったから、家具はいただきました。後は普通に手続きしてあの部屋を契約しました。普通はお部屋の掃除とかの費用がかかるけど、わたしが辞退したのでその分、割り引いて貰いました。で、あの部屋。名義変更出来るから、と知らせたでしょ。受け取りメールを返して来たよね。来なかったから、あの部屋に住む気はないと思ったけど、住んでいるのね。二人で払うから・・・家具は業者を探したら買い取ってくれる所があったのよ。今、流行っているんですって。つまり、泥棒は誤解ね。ちゃんと全員に説明してね」
聞いているうちにますます、頭に血がのぼった。
「運だけで、いい家具を手に入れてそれを売るなんてずるい。ずるい。ずるい!トオルも黙ってるなんてずるい。暴力女!ずるい」
そうだ。暴力に言い訳は効かない。あれは暴力だ。だから、
「部屋に入って来て、いきなり蹴るなんて凶暴。暴力女」と怒鳴った。トオルが止めようろ口をふさごうとしてくるから、噛みついた。
「その経緯については、まとめたものがある。メールで送るよ。読んで話し合って」そう社長は言った。
「それぞれのPCに送ったから、机に戻って読んでくれ。それではここは解散」
トオルは頭を下げるとわたしを半分引きずって部屋を出た。
あなたにおすすめの小説
蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。
彼女の微笑み
豆狸
恋愛
それでも、どんなに美しいとしても、私は彼女のように邪心のない清らかな微笑みを浮かべるよりも、穢れて苦しんで傷ついてあがいて生きることを選びます。
私以外のだれかを愛しながら──
いくら時が戻っても
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
大切な書類を忘れ家に取りに帰ったセディク。
庭では妻フェリシアが友人二人とお茶会をしていた。
思ってもいなかった妻の言葉を聞いた時、セディクは―――
短編予定。
救いなし予定。
ひたすらムカつくかもしれません。
嫌いな方は避けてください。
※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
売られたケンカは高く買いましょう《完結》
アーエル
恋愛
オーラシア・ルーブンバッハ。
それが今の私の名前です。
半年後には結婚して、オーラシア・リッツンとなる予定……はありません。
ケンカを売ってきたあなたがたには徹底的に仕返しさせていただくだけです。
他社でも公開中
結構グロいであろう内容があります。
ご注意ください。
☆構成
本章:9話
(うん、性格と口が悪い。けど理由あり)
番外編1:4話
(まあまあ残酷。一部救いあり)
番外編2:5話
(めっちゃ残酷。めっちゃ胸くそ悪い。作者救う気一切なし)
包帯妻の素顔は。
サイコちゃん
恋愛
顔を包帯でぐるぐる巻きにした妻アデラインは夫ベイジルから離縁を突きつける手紙を受け取る。手柄を立てた夫は戦地で出会った聖女見習いのミアと結婚したいらしく、妻の悪評をでっち上げて離縁を突きつけたのだ。一方、アデラインは離縁を受け入れて、包帯を取って見せた。