43 / 43
43 終わりってことだ 地方の会社社長
しおりを挟む本社から、人を送ると連絡が来た。まぁいつものように楽しく飲めばいいだろう。
昼過ぎに、男女二人組がやってきた。いかにも都会って感じの二人だ。
挨拶もそこそこにパソコンを起動させると、あっさり経理のファイルを開いた。
「今月分はどこにありますか?」と言われたが、
「今、つけています」と経理がすまして答えた。
何かがおかしい。いつもと違う。
経理も総務もひきつっている。どうしたんだ?
責任者がわたしのそばに来て
「あっさり、起動しました。パスワードを知らないのに」
「それってどういうことか?」
「税務所よりすごいです」
その理由はすぐに分かった。
経理の若い子が青い顔をして、こちらを見ている。
口をぱくぱくとして、なにも言わない。
「どうした?」
と声をかけると、彼女は震える声で言った。
「……本社の方が……来ています……」
知ってる。いつものことだろう?あの本社をなぜ、怖がる。親戚だぞ。
あそこは昔から金庫だ。困ったら金を渡してくれるし、小言を言われても黙って聞いておけばそれで済む。
税務所が来たって、追徴金を払えば終わりだ。むしろ成績アップに貢献しているんだ。感謝されている。
その本社が、来たからなんだ!
だが、経理課の怯えように、悪い予感がした。しかし、まだその時の私はいつものように、形式的な注意で終わると思っていた。
それが甘かった。間違っていた。
翌日、彼らは社員を会議室に集めた。
表情も声も、こちらの返答を必要としていないようだった。
「まず、経理システムのセキュリティがゼロでした」
「ゼロ?」
「はい。IDは共通、パスワードは電話番号ですね。誰でも入れます」
事務の子たちが小さく震えた。でも、それは私が決めたものではない。
昔からそうだっただけだ。
わたしの言い訳を待たず、話が続いた。
「内部データに簡単に入れたので、すべて確認しました」
「勝手に入ったのか!」
と言おうとして、言えなかった。
目の前の男の目を見た途端、喉がひりついて声が出なかった。
彼は、笑顔ではなかった。怒ってもいなかった。
「予算が個人的な飲食代・旅行代に使われていましたね」
わたしは咳払いして言い返した。
「それは……その……営業活動の一環で・・・」
「では、なぜご家族との旅行の領収書が出てくるのでしょう?せめて破棄でもしてあれば調べがいがあるのですが」と吹き出さんばかりに言われた。
なぜわかる?
あの領収書は、別に閉じてあったはずだ。
机の上に数枚のコピーを並べた。ホテル名、日付、人数。
子どもの名前まで載っている。
「……税務所からの追徴課税は、本社に払って貰っていたようですね?」
本社から金をもらって払う。その通りだ。
だが、設立以来、それが問題になったことは一度もない。
「何も学ばずに、同じことを繰り返している。
なので、私たちは本社からの補填を一時停止することにしました」
世界がぐらりと揺れた。
補填停止?
「そ、そんなことをしたら……支店は回りません!」
「ええ。ですので、あらゆる権限を、本社に移管します」
横にいた女性が、一歩前に出た。
彼女は、わたしを見る目が優しいのに、内容は容赦がなかった。
「本日から、私はこの会社の暫定経営責任者になります。もうこの会社の役割は終わっています」
「は?」
「社員の今後の雇用先のお世話と思って下さい」
柔らかい声で、地獄みたいな宣告をしてくる。
つまり、潰すと言うことか。
翌日、幹部会議が開かれた。
いつもなら、幹部(親戚筋)がワイワイ喋り、
わたしは形だけ座っていればよかった。
だが、その日は違った。
全員がわたしのことを責め立てた。「何をやっていたんだ」と。
今までこれでよかったんだ。先代もその前もここに座っているだけで給料を貰っていたんだ。
それがどうしてここで、わたしの代で。
「……私は親戚筋だぞ。本社は私を無視できない」
「ここで辞めた方が楽ですよ。社員が気づいていないわけないですよ」
「えぇ、彼らはきちんと仕事ができる人たちです。無難に過ごしてますが、会社ですので上には逆らわない。だから上がちゃんとしてないとね」
辞任届を書く時、手が震えた。社員たちのひそひそ声が聞こえる。
「終わったな」「ついに来たか」「本社が動いたら終わりだよ」「親戚ってすごいよね」
会社を出ると、なぜか寒かった。
社用車として買った、自家用車に乗る。車検を受けたことがないのが自慢だったが・・・・
99
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
【短編】婚約破棄?「喜んで!」食い気味に答えたら陛下に泣きつかれたけど、知らんがな
みねバイヤーン
恋愛
「タリーシャ・オーデリンド、そなたとの婚約を破棄す」「喜んで!」
タリーシャが食い気味で答えると、あと一歩で間に合わなかった陛下が、会場の入口で「ああー」と言いながら膝から崩れ落ちた。田舎領地で育ったタリーシャ子爵令嬢が、ヴィシャール第一王子殿下の婚約者に決まったとき、王国は揺れた。王子は荒ぶった。あんな少年のように色気のない体の女はいやだと。タリーシャは密かに陛下と約束を交わした。卒業式までに王子が婚約破棄を望めば、婚約は白紙に戻すと。田舎でのびのび暮らしたいタリーシャと、タリーシャをどうしても王妃にしたい陛下との熾烈を極めた攻防が始まる。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
いくら何でも、遅過ぎません?
碧水 遥
恋愛
「本当にキミと結婚してもいいのか、よく考えたいんだ」
ある日突然、婚約者はそう仰いました。
……え?あと3ヶ月で結婚式ですけど⁉︎もう諸々の手配も終わってるんですけど⁉︎
何故、今になってーっ!!
わたくしたち、6歳の頃から9年間、婚約してましたよね⁉︎
生命(きみ)を手放す
基本二度寝
恋愛
多くの貴族の前で婚約破棄を宣言した。
平凡な容姿の伯爵令嬢。
妃教育もままならない程に不健康で病弱な令嬢。
なぜこれが王太子の婚約者なのか。
伯爵令嬢は、王太子の宣言に呆然としていた。
※現代の血清とお話の中の血清とは別物でござる。
にんにん。
王女殿下の秘密の恋人である騎士と結婚することになりました
鳴哉
恋愛
王女殿下の侍女と
王女殿下の騎士 の話
短いので、サクッと読んでもらえると思います。
読みやすいように、3話に分けました。
毎日1回、予約投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる