黙ってすっこんどいたら良かったのに

朝山みどり

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43 終わりってことだ 地方の会社社長

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 本社から、人を送ると連絡が来た。まぁいつものように楽しく飲めばいいだろう。

 昼過ぎに、男女二人組がやってきた。いかにも都会って感じの二人だ。

 挨拶もそこそこにパソコンを起動させると、あっさり経理のファイルを開いた。

「今月分はどこにありますか?」と言われたが、

「今、つけています」と経理がすまして答えた。



 何かがおかしい。いつもと違う。

 経理も総務もひきつっている。どうしたんだ?

 責任者がわたしのそばに来て

「あっさり、起動しました。パスワードを知らないのに」

「それってどういうことか?」

「税務所よりすごいです」



 その理由はすぐに分かった。
 経理の若い子が青い顔をして、こちらを見ている。
 口をぱくぱくとして、なにも言わない。

「どうした?」
 と声をかけると、彼女は震える声で言った。

「……本社の方が……来ています……」

 知ってる。いつものことだろう?あの本社をなぜ、怖がる。親戚だぞ。

 あそこは昔から金庫だ。困ったら金を渡してくれるし、小言を言われても黙って聞いておけばそれで済む。
 税務所が来たって、追徴金を払えば終わりだ。むしろ成績アップに貢献しているんだ。感謝されている。
 その本社が、来たからなんだ!

 だが、経理課の怯えように、悪い予感がした。しかし、まだその時の私はいつものように、形式的な注意で終わると思っていた。

 それが甘かった。間違っていた。


 翌日、彼らは社員を会議室に集めた。
 表情も声も、こちらの返答を必要としていないようだった。

「まず、経理システムのセキュリティがゼロでした」
「ゼロ?」
「はい。IDは共通、パスワードは電話番号ですね。誰でも入れます」

 事務の子たちが小さく震えた。でも、それは私が決めたものではない。
 昔からそうだっただけだ。

 わたしの言い訳を待たず、話が続いた。

「内部データに簡単に入れたので、すべて確認しました」

 
「勝手に入ったのか!」
 と言おうとして、言えなかった。
 目の前の男の目を見た途端、喉がひりついて声が出なかった。

 彼は、笑顔ではなかった。怒ってもいなかった。
 

「予算が個人的な飲食代・旅行代に使われていましたね」

 わたしは咳払いして言い返した。

「それは……その……営業活動の一環で・・・」
「では、なぜご家族との旅行の領収書が出てくるのでしょう?せめて破棄でもしてあれば調べがいがあるのですが」と吹き出さんばかりに言われた。



 なぜわかる?
 あの領収書は、別に閉じてあったはずだ。

 机の上に数枚のコピーを並べた。ホテル名、日付、人数。
 子どもの名前まで載っている。


「……税務所からの追徴課税は、本社に払って貰っていたようですね?」

 本社から金をもらって払う。その通りだ。
 だが、設立以来、それが問題になったことは一度もない。

「何も学ばずに、同じことを繰り返している。
 なので、私たちは本社からの補填を一時停止することにしました」

 世界がぐらりと揺れた。

 補填停止?

「そ、そんなことをしたら……支店は回りません!」
「ええ。ですので、あらゆる権限を、本社に移管します」

 
 横にいた女性が、一歩前に出た。
 彼女は、わたしを見る目が優しいのに、内容は容赦がなかった。

「本日から、私はこの会社の暫定経営責任者になります。もうこの会社の役割は終わっています」
「は?」
「社員の今後の雇用先のお世話と思って下さい」

 柔らかい声で、地獄みたいな宣告をしてくる。


 つまり、潰すと言うことか。


 翌日、幹部会議が開かれた。
 いつもなら、幹部(親戚筋)がワイワイ喋り、
 わたしは形だけ座っていればよかった。

 だが、その日は違った。

 全員がわたしのことを責め立てた。「何をやっていたんだ」と。

 今までこれでよかったんだ。先代もその前もここに座っているだけで給料を貰っていたんだ。

それがどうしてここで、わたしの代で。

 
「……私は親戚筋だぞ。本社は私を無視できない」

「ここで辞めた方が楽ですよ。社員が気づいていないわけないですよ」

「えぇ、彼らはきちんと仕事ができる人たちです。無難に過ごしてますが、会社ですので上には逆らわない。だから上がちゃんとしてないとね」



 辞任届を書く時、手が震えた。社員たちのひそひそ声が聞こえる。

「終わったな」「ついに来たか」「本社が動いたら終わりだよ」「親戚ってすごいよね」


 会社を出ると、なぜか寒かった。

社用車として買った、自家用車に乗る。車検を受けたことがないのが自慢だったが・・・・



 

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