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42 ミナの新しい道
ショッピング街の清掃は、想像とはぜんぜん違っていた。
キラキラした街で働くって、わたしもキラキラになれるって、どこかで信じていた。だけど現実は、冷たく湿ったモップの手触りと、トイレの匂いと、段ボールで擦れた指先だった。
汗が背中をつたうたび、「わたし、何してるんだろう」と胸の奥が重く沈んだ。
そんな日でも、ダイスケさんに声をかけられるとホッとした。まだ終わってないんだと思った。
「ミナちゃん、今日も頑張ってるね」
声が優しすぎて、その瞬間に泣きそうになった。
わたしなんかに、そんなふうに言ってくれる人が、この世界にいるんだって思ってしまう。
「食事している時、紹介したい仕事があるけど、ミナちゃんの家、親がきびしいんだよね。残念だな」
「いい仕事って?親は内容次第かな?」
「向いてると思うよ。簡単に言うとね、お客様と一緒に買い物に行って、服とか雑貨とか、選ぶのを手伝うんだよ。お客さんは美人を連れて歩くのが嬉しいんだって。で、うちの服を着てもらえれば、お店の宣伝にもなるしさ」
わたしが口を開く前に、スタッフの女の人がウインクした。
「ミナちゃん、向いてるよ。お客さんと話す時は店員も一緒だから、安全だし」
「でね、報酬はお客さんが、直接ミナちゃんに払うんだよ。手数料を取られないから、お得だよ」
「要は、一人親方! 社長とも言うのかな?かっこよくない?」
社長?わたしが?嘘みたいだ。でも、かっこいいと言われると悪い気はしない。
「僕も詳しいことは、よく知らないから、はっきりしたことは言えないけど。おおよそはこんな感じ。詳しくは事務所で聞けばいいしね。紹介したい。絶対向いてる」
「そう?」
「そうだよ。うちの服をあれだけ着こなせる娘は向いてるって」
「もし、面接に行くなら、内緒でうちの服貸すから着ていけばいいよ」
その日、部屋に帰ったらトオルは相変わらず、難しい顔をしてPCで何か見ていた。機械的に
「おかえり」
「ただいま」だけの会話。
次の休みに事務所に行って見ることにした。
朝、お店にいくとダイスケが用意していた服から、一番似合うと言われた服を借りて、ダイスケと一緒に事務所に行った。
わざわざ、半休をとってくれていた。
紹介されたコンパニオン会社の事務所は、小さくて静かだった。
責任者という人がドアを開けてくれた。ダイスケが丁寧に挨拶していたのだ、わたしも丁寧に、口惜しいけど、カオリさん風に挨拶した。
仕事の説明はほとんど、ダイスケの言った通りだった。
お客様の買い物同行。これが美術館とかお寺、神社になることもある。
カフェでの会話。これも流行のカフェを積極的に紹介するといい。
お店ではスタッフがいるから、任せておけるけど、美術とか芸術方面は自分で勉強して欲しい。
最後に、
「ミナさんは、お顔立ちがはっきりしていて、笑うと柔らかい雰囲気になる。お客様に喜ばれますね」と話を締め括った。
それからは、分厚い資料をそばに置いて、テキパキ事務的な調子になって
「これからは、大事なギャラの話をします。当社とは雇用契約ではありません。各自が事業主となって、お客様の依頼に対応していただきます。当社はあくまで紹介です。当社へは年に一度登録料を払って下さい」
「個人事業主なんですよね」
「それは、ミナさんが決めることですね」
「自分で決められるんですか?」
「それはおいおいと説明しましょう。ここで働いていただけると嬉しいですが、働いていただけますか?」
「はい」
「よかったぁ」とダイスケさんが呟いて、
「よかったぞ。ダイスケ。こんな娘を紹介してくれて」
それから、時間がないダイスケさんと一緒にショップに戻った。試着室で着替えた。
「どうする?ミナさん。仕事着がいるでしょ?よかったら一着買っちゃう? これでもいいし、週末、新しいのが来るから、見てから決めるといいよ」とダイスケさんが言った。
帰りに清掃会社の事務所に寄って退職の意向を伝えた。
「うん、そうか残念、じゃあ、片付けたらロッカーの鍵を持って来てね」
引き止められるかと思ったけど、あっさり了承された。
部屋に戻ると珍しくトオルがこちらを見た。
「おかえり」
「ただいま」
「話したいことがある。着替えたら来て」
「うん、待ってて」
ちょうどよかった。
キラキラした街で働くって、わたしもキラキラになれるって、どこかで信じていた。だけど現実は、冷たく湿ったモップの手触りと、トイレの匂いと、段ボールで擦れた指先だった。
汗が背中をつたうたび、「わたし、何してるんだろう」と胸の奥が重く沈んだ。
そんな日でも、ダイスケさんに声をかけられるとホッとした。まだ終わってないんだと思った。
「ミナちゃん、今日も頑張ってるね」
声が優しすぎて、その瞬間に泣きそうになった。
わたしなんかに、そんなふうに言ってくれる人が、この世界にいるんだって思ってしまう。
「食事している時、紹介したい仕事があるけど、ミナちゃんの家、親がきびしいんだよね。残念だな」
「いい仕事って?親は内容次第かな?」
「向いてると思うよ。簡単に言うとね、お客様と一緒に買い物に行って、服とか雑貨とか、選ぶのを手伝うんだよ。お客さんは美人を連れて歩くのが嬉しいんだって。で、うちの服を着てもらえれば、お店の宣伝にもなるしさ」
わたしが口を開く前に、スタッフの女の人がウインクした。
「ミナちゃん、向いてるよ。お客さんと話す時は店員も一緒だから、安全だし」
「でね、報酬はお客さんが、直接ミナちゃんに払うんだよ。手数料を取られないから、お得だよ」
「要は、一人親方! 社長とも言うのかな?かっこよくない?」
社長?わたしが?嘘みたいだ。でも、かっこいいと言われると悪い気はしない。
「僕も詳しいことは、よく知らないから、はっきりしたことは言えないけど。おおよそはこんな感じ。詳しくは事務所で聞けばいいしね。紹介したい。絶対向いてる」
「そう?」
「そうだよ。うちの服をあれだけ着こなせる娘は向いてるって」
「もし、面接に行くなら、内緒でうちの服貸すから着ていけばいいよ」
その日、部屋に帰ったらトオルは相変わらず、難しい顔をしてPCで何か見ていた。機械的に
「おかえり」
「ただいま」だけの会話。
次の休みに事務所に行って見ることにした。
朝、お店にいくとダイスケが用意していた服から、一番似合うと言われた服を借りて、ダイスケと一緒に事務所に行った。
わざわざ、半休をとってくれていた。
紹介されたコンパニオン会社の事務所は、小さくて静かだった。
責任者という人がドアを開けてくれた。ダイスケが丁寧に挨拶していたのだ、わたしも丁寧に、口惜しいけど、カオリさん風に挨拶した。
仕事の説明はほとんど、ダイスケの言った通りだった。
お客様の買い物同行。これが美術館とかお寺、神社になることもある。
カフェでの会話。これも流行のカフェを積極的に紹介するといい。
お店ではスタッフがいるから、任せておけるけど、美術とか芸術方面は自分で勉強して欲しい。
最後に、
「ミナさんは、お顔立ちがはっきりしていて、笑うと柔らかい雰囲気になる。お客様に喜ばれますね」と話を締め括った。
それからは、分厚い資料をそばに置いて、テキパキ事務的な調子になって
「これからは、大事なギャラの話をします。当社とは雇用契約ではありません。各自が事業主となって、お客様の依頼に対応していただきます。当社はあくまで紹介です。当社へは年に一度登録料を払って下さい」
「個人事業主なんですよね」
「それは、ミナさんが決めることですね」
「自分で決められるんですか?」
「それはおいおいと説明しましょう。ここで働いていただけると嬉しいですが、働いていただけますか?」
「はい」
「よかったぁ」とダイスケさんが呟いて、
「よかったぞ。ダイスケ。こんな娘を紹介してくれて」
それから、時間がないダイスケさんと一緒にショップに戻った。試着室で着替えた。
「どうする?ミナさん。仕事着がいるでしょ?よかったら一着買っちゃう? これでもいいし、週末、新しいのが来るから、見てから決めるといいよ」とダイスケさんが言った。
帰りに清掃会社の事務所に寄って退職の意向を伝えた。
「うん、そうか残念、じゃあ、片付けたらロッカーの鍵を持って来てね」
引き止められるかと思ったけど、あっさり了承された。
部屋に戻ると珍しくトオルがこちらを見た。
「おかえり」
「ただいま」
「話したいことがある。着替えたら来て」
「うん、待ってて」
ちょうどよかった。
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