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2.君の温もりを僕は知ってしまった
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高校を卒業してすぐに実家を出て、一人暮らしを始めた。母さんは大学に進んで、普通の会社員になってほしいようだった。喧嘩するように家を飛び出したから、仕送りなんてものはない。給料は家賃や生活費ですぐになくなってしまうから、がむしゃらに働いて、空いた時間は資格取得のために勉強していた。机の上で参考書を開いたまま朝を迎えたことも何度もあった。
テーブルの上を片付けて、いつものように参考書を広げる。鈴音が来たからといって、勉強をしなくていい理由にはならない。むしろ、鈴音にちゃんとごはんを食べさせるためにはこれまで以上に頑張らないといけないだろう。
しばらくして、鈴の音がしなくなったことに気がついた。勉強の手を止め、顔を上げる。僕の隣に置いていた、まだ誰も座ったことのない座布団の上で鈴音が丸くなって眠っていた。
勉強を終え、寝る支度をして、ベッドライト以外の明かりを落とす。鈴音はまだ座布団で眠っていた。「おやすみ」と声をかけると、目を閉じたまま返事をされて、つい吹き出しそうになる。
そういえば『おやすみ』という言葉を最後に言ったのはいつだろう。胸の内側が温かくて、くすぐったい。鈴音だけは、僕の罪を許してくれるような気がする。けれど同時に、僕の汚れた手で触れることで、この無垢な存在を傷つけてしまうかもしれないという恐怖が喉元にせり上がってくる。
明日、この衝動を後悔するかもしれない。それでも僕は温もりを求めて鈴音の鼻先にキスをした。
翌朝、目が覚めると鈴音が枕元で寝ていた。起こさないようにそっとベッドから降りて、仕事に行く支度をする。鈴音は家にいるから、今日は早く家を出なくてもいいのだと気がついた。
トースターでパンが焼きあがるのを待つ間に、部屋の中を片付ける。僕が出かけている間に、鈴音が怪我などしてしまわないように、危険になりそうなものは排除しておかなければ。
――ちりりん。
振り返ると、目を覚ました鈴音が僕のほうに近づいてきていた。
「鈴音、おはよう。ごはん食べようか」
鈴音は大きな欠伸をして、いつものように返事をしてくれた。鈴音のごはんを座布団の前に置く。焼きあがったパンにバターを塗っていると、鈴音が座布団の上にやってきた。
「いただきます」
僕がパンに齧りつくと、鈴音もにゃあんと鳴いた後、静かに食べ始める。動くたびにちりん、と聴こえる音が面白くて、愛おしくて。こんなに穏やかな気持ちで迎える朝食は上京してから初めてかもしれないと思った。
正直、鈴音を残して仕事に行くのは不安だ。フードボウルにキャットフードを多めに用意して、冷房は寒くなりすぎないようにセットする。座布団の近くに小さなひざ掛けも用意した。僕が部屋中をせわしなく歩き回るのを、鈴音はずっと追いかけてきていた。足元に纏わりつく鈴音の頭を撫でる。
「ごめん、僕仕事行かなきゃいけないんだ。いい子にしてて」
「にゃあん」
鈴音の声を聞きながら、そっと扉を閉めた。
テーブルの上を片付けて、いつものように参考書を広げる。鈴音が来たからといって、勉強をしなくていい理由にはならない。むしろ、鈴音にちゃんとごはんを食べさせるためにはこれまで以上に頑張らないといけないだろう。
しばらくして、鈴の音がしなくなったことに気がついた。勉強の手を止め、顔を上げる。僕の隣に置いていた、まだ誰も座ったことのない座布団の上で鈴音が丸くなって眠っていた。
勉強を終え、寝る支度をして、ベッドライト以外の明かりを落とす。鈴音はまだ座布団で眠っていた。「おやすみ」と声をかけると、目を閉じたまま返事をされて、つい吹き出しそうになる。
そういえば『おやすみ』という言葉を最後に言ったのはいつだろう。胸の内側が温かくて、くすぐったい。鈴音だけは、僕の罪を許してくれるような気がする。けれど同時に、僕の汚れた手で触れることで、この無垢な存在を傷つけてしまうかもしれないという恐怖が喉元にせり上がってくる。
明日、この衝動を後悔するかもしれない。それでも僕は温もりを求めて鈴音の鼻先にキスをした。
翌朝、目が覚めると鈴音が枕元で寝ていた。起こさないようにそっとベッドから降りて、仕事に行く支度をする。鈴音は家にいるから、今日は早く家を出なくてもいいのだと気がついた。
トースターでパンが焼きあがるのを待つ間に、部屋の中を片付ける。僕が出かけている間に、鈴音が怪我などしてしまわないように、危険になりそうなものは排除しておかなければ。
――ちりりん。
振り返ると、目を覚ました鈴音が僕のほうに近づいてきていた。
「鈴音、おはよう。ごはん食べようか」
鈴音は大きな欠伸をして、いつものように返事をしてくれた。鈴音のごはんを座布団の前に置く。焼きあがったパンにバターを塗っていると、鈴音が座布団の上にやってきた。
「いただきます」
僕がパンに齧りつくと、鈴音もにゃあんと鳴いた後、静かに食べ始める。動くたびにちりん、と聴こえる音が面白くて、愛おしくて。こんなに穏やかな気持ちで迎える朝食は上京してから初めてかもしれないと思った。
正直、鈴音を残して仕事に行くのは不安だ。フードボウルにキャットフードを多めに用意して、冷房は寒くなりすぎないようにセットする。座布団の近くに小さなひざ掛けも用意した。僕が部屋中をせわしなく歩き回るのを、鈴音はずっと追いかけてきていた。足元に纏わりつく鈴音の頭を撫でる。
「ごめん、僕仕事行かなきゃいけないんだ。いい子にしてて」
「にゃあん」
鈴音の声を聞きながら、そっと扉を閉めた。
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