満月の夜に君を迎えに行くから

桃園すず

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幕間3.叶わぬ想いなら出会わなければよかった

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 清潔ないい匂いがする。どうやら女の人の家に着いたらしい。さっきより大きくてふわふわのタオルで濡れた体を拭いてくれているようだ。優しく触れられて、思わず喉が鳴った。

「気持ちいいの? かわいい。それにしてもとっても綺麗な黒猫さんね」
「ありがとう。もう大丈夫だ。世話になった」
「よかった、だいぶ元気になったみたいね。ごはんも食べるかしら」

 そう言って女の人はどこかへ行ってしまった。猫の姿では言葉が通じない。こちらはわかるのに、もどかしい。改めて部屋を眺めていると、ソファーの上からこちらを睨みつける白猫の姿が目に入った。

「お前、新入りか? ユイにベタベタするな」
「ユイ、というのはさっきの女の人か。心配ない。すぐに出ていくつもりだ」

 白猫はソファーの上から華麗に着地すると、こちらに歩いてくる。宝石のように透き通る水色の瞳に、暖かそうなふわふわの毛並みのそいつは、値踏みするように鼻先まで顔を近づけてくる。そこにユイと呼ばれた女の人が帰ってきて、白猫をひょいと抱き上げた。

「あー、もう大福。ちょっかい出さないの。ほら、黒猫ちゃん。お口に合うようだったら食べて」

 目の前にごはんを乗せた皿が置かれた。思わず匂いを嗅ぐ。たしかこれは、まだ猫だったときにタクミがよく与えてくれたおいしいやつだ。これ以上ユイの世話になるのは気が引けたが、誘惑に負けてひと舐めしてしまう。それからはもう、無我夢中で平らげた。

「ユイ、あいつばっかりずるいぞ。俺にもあれをくれ」
「大福、ダメよ。昨日あげたでしょ。今日は我慢して」

 大福というのは、あの白猫の名前のようだ。随分と面白い名前をつけられたものだ。以前テレビで見た大福という食べ物は、白くてすべすべしていておいしそうだった。ユイは大福を食べるつもりなのだろうか。それにしても、ユイは大福の言葉だけはわかるみたいだ。

 そういえばタクミも鈴音が人間の姿になる前からこちらの言うことをわかっていてくれた気がした。……タクミ、心配しているだろうか。いや、タクミは鈴音が猫のままだったらよかったと言っていた。それなら、今この姿でもう一度会いに行けば、喜んでくれるのだろうか。そうだとしたら、嬉しいような、悲しいような。胸がずきずきと痛んだ。
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