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アリスという少女
しおりを挟む世の中に彼女がムカつく事は多々ある。
まず悪役令嬢モノで、ヒロインが身一つでの放逐を受け入れるのが気に食わない。
悪くもないのに私財を取り上げられる意味が分からない。
そうならないよう死ぬ気で空間魔法を習得した。訓練中に実際に虚空に逝きかけた。死ぬかと思った。
自身の財産を日常的に収納しておき必要があれば出す。アリスの部屋は殺風景だ。
義母や義兄弟姉妹が現れた時に備えて体と攻撃魔法を鍛える。十七になる頃にはSランクの魔獣も倒せるようになった。
彼女の考える義理家族は魔王の眷属なのだろうか。
大体まだ母が存命である。
それから犯罪の見逃し。
スリを働いた孤児に優しく事情を聞き、貨幣やモノを与えてリリースは物語でよく見た話だ。なぜ犯罪を犯して無罪放免なのか。なら最初から「可哀想な人は除く」って法律にしたらいい。
良い事なんだろうけれど釈然としない。逃げられたらお金戻らないしきっと繰り返す。
なのでその芽を潰していく。
家族の病気を犯罪の言い訳にされるのは気に入らないから、後払いできる公爵家名義の病院を設立し、未払いを防ぐ魔法契約を行なった。元気になってから労働や献血で返してもらう。
倒れられたらムカつくので、その間の衣食住は保証してやる。
実際に彼女からスリを働こうとした少年には、ダンジョンに連れて行き荷物持ちをさせた。
空間収納魔法もマジックバッグもあるのでただの嫌がらせである。
段階を踏み戦闘もさせた。肉体強化を施したのは、治癒が面倒だったから。
かけ直しも面倒なのでスキルとし付与した。
半月ほど連れ回した後にギルドに行くと、G級だった彼にB級冒険者並の判定が出た。
Bまでの飛び級は認められないらしくD級に昇格しただけだが、少年はその場で泣き崩れた。
D級ならば充分稼げる。病弱な妹の薬代と出来のいい弟の学費も、なんとか払える。
泣いている少年を放置し、アリスは報酬を受け取りさっさと帰ることにした。少年が倒した分から、盗もうとした金額を引いて彼の取り分とする。
あとから絡まれるのは面倒だ。この恩は必ずお返ししますと叫んでいたが、別にいらない。頭角を表し昇級していく彼とギルドで会う度に「姐さん!」呼びされ大変不本意だ。
さて、輸血などない時代に血は何に使うか。鍛錬中にダンジョンで襲撃さ叩きのめし、契約した吸血鬼に渡すのだ。
少数ながら存在する彼らの大部分は市民権を得ている。人を襲わない代わりに、個人契約や商取引で血をまかなう。
彼はその風潮に逆らい人から吸血していたが、アリスを襲ったのが運の尽き。
もちろん死ぬほどこき使っている。
大病院を建てても生活に密着した町医者の需要は無くならない。
貧乏人に無料診療をする医者にムカついたので、補助金を出し設備を整えある程度高度な治療を可能にする。それを契機に最低限の代金を設定しささやかでも対価を要求させた。
タダは良くない。他の医療機関に対する営業妨害だから。当の医者が飲まず食わずのような状態で痩せ細っていたのもよろしくない。あんな医者にタダで診てもらった奴らは鬼か。
たいへん立腹したのでカルテから遡り、払えるのに払わなかった者に強制的に労働を課した。
ブラックリストを作成し、名前がある者は給料から治療費を差し引くのを勤め先と連携し行う。
そいつらのせいで町医者が餓死寸前だったと話せば協力は容易かった。
町医者には散々説教した。一人が我慢しても次には繋がらない。次の医者にも極貧生活を強いるのか。誰も成り手がいなくなる。そこまで考えろと。
医者は反省もしたが、どうしても支払いできない患者は居ると譲らない。アリスの〝労働と献血で後払い〟システムを話し独り抱え込むのは自己満足だと一喝する。
アリスの許せないものは山とある。
権力や魔法による強制は一番許せない。
逆らえない商人や貴族を王家が騙し討ちで搾取する? 滅びろ。王子の無能を婚約者が尻拭いする? 革命されろ。王命で無理やり婚姻を結ばせる? 平民に初夜権行使? ストレートに死ね。いや殺す。
学園で魅了を使っていた男爵令嬢と、隷属を使った第三王子を呪っておく。呪術はまだ勉強中だが、彼女には適正があるようだ。
二人は誰にでも魅了され隷属するようになった。使い走りビッチとロイヤル奴隷犬の爆誕だ。
当のアリスはとっくに卒業資格認定試験に受かり通学はしていない。
そんな暇があればダンジョンに行く。
王家は慌てふためき王子を隔離したが、使用人にも土下座で従おうとするので周りが閉口した。
アタクシの王子ちゃんをよくも! 犯人を縛首に!! と製造責任者の側妃が発狂したが、実家が没落気味なので誰も聞かない。
散財と犯罪の宝箱なクズ息子に困っていた王は、側妃とまとめて幽閉した。
「病気療養のため」。
もちろんアリスはそんな事情は知らない。
王家のメンツ的に一応犯人を探そうとしたが、アリスに抜かりはない。
恨みを持つ人物全てを媒介とし発動させた呪いは、術者を特定するのが困難なもの。
行き場のない怒りに、ここに道がありますけどねーと声かけしたような感じだ。
主犯を深追いするととばっちりの呪いが降りかかるが、事前に警告も出している親切設計。
男爵令嬢は娼館行きとなる。好色貴族のジジイの妾にしようとしたが、使用人でも誰にでも魅了されてしまうので男爵が諦めたのだ。
愛情溢れる接客で大層な売れっ子となり、館主ニッコニコ。
稼ぎ高で契約した男爵家もホクホク。
娘のせいで婚約破棄に至った高位貴族に何度謝り、いくら慰謝料を払ったことだろうか。これでなんとか領民を路頭に迷わせないで済む。
あと二人いる娘達を、妹の醜聞込みで貰っていただくには金がいる。
嫡男のためにも金は幾らでもいる。売り上げに喜ぶ親を誰も責められない。
本人含めみんな幸せだし。なんなら近隣国の王子に身請けされそう。
はっきり言って隣国王子は醜男だ。性格は良く能力も高いが容姿には自信がない。
だが元令嬢は全く気にせず真っ直ぐ目を見て、きれいな色ねと笑いかけてきた。初めて
王子という身分なしに純粋な好意を向けられ恋に落ちてしまう。
客には彼女の状態が事前に説明される。そうしないとマジ恋客が増産されてしまうので。だが王子はそれでも構わない。魔法に長けた王子は、魅了に指向性を持たせ彼だけに愛情を向けられるようにできるのだ。
一番の稼ぎ手なので身請けには大金が必要だったが、発明や商売で莫大な個人的資産を持つ王子には端た金。
彼女の実家には挨拶と共に目の眩むような金銀財宝が運び込まれた。このまま国に連れ帰るという王子に、どうぞどうぞと一家揃い踏みで歓迎する。
彼女を苦界に落とした家族に蟠りがない訳でもない。しかし事情は聞いていたし出逢えたのはそのおかげなので王子は割り切る。王と王妃も説得済だ。
なんだかなあと思っていた両親も、帰国したふたりのラブラブに当てられ諦める。何より息子の幸せそうな笑顔は初めてだった。
その国はのちに大発展を遂げる。元男爵令嬢は能力もなかなか高く、愛妻のために張り切る王子は頑張りまくった。仕事も子作りも。
ふたりが儲けた三男四女は幸いにも美男美女となる。この組み合わせが奇跡的コラボを産み出したのだ。全面的に整った美ではなくどこかアンバランスさを伴うもの。だがそれは美しさを引き立て飽きさせないエッセンスになった。
どの子も冴えない父を尊敬し、支える母を愛する素敵な紳士淑女に育つ。
王子はこの出会いに生涯感謝した。かれだけでなく妃も両家の親も兄弟姉妹も、周囲全てが大満足。国民だってハッピー。
元凶もとい恩人のアリスはもちろん最後まで何も知らない。
アリスは自由に生きたい。
他人の不自由も気に入らない。
アリスは自分のものを取られるのが嫌だ。
他人が取られているのも気に食わない。
ノブレスオブリージュとか言われて家の為
の結婚を強制されないよう、自らの価値を高めるのを怠らない。
結婚ではなく別件で世にご奉仕致します。
病院だけでなく学校も作り、道路や上下水道を整備した。災害に備えた事業に現地の民の雇用で働く場を提供した。
バカは許せないし臭いのも馬車が揺れるのも嫌だ。せいぜい稼いで遣って経済の歯車となってほしい。
公爵家紋章付きの投書箱を設置し広く意見を求める。
匿名なので腹の立つ投書も多い。悪意のある分は返す形で呪っておく。
匿名でもアリスにはなんの問題なく追える。
呪術はまだ始めたばかりだが侍従で試したら効いていたようで、金貨一枚で実験台になるには割に合わないと泣いていた。
その時の内容は一定期間ハゲて男性器が幼児になるものだった。
女性にはハゲかチリチリ髪どちらが良いか一晩悩んだ。
悩んで痔疾も追加すると決めた。
侍女達は震え上がり、より一層の忠誠をもって仕えた。
お願いですから実験はおやめくださいと目が語っていた。
鍛え抜かれた体と魔術で、様々な事態に対応した。さながらスーパーなあの人やコウモリのあの人のように。
ぴちぴちのボディスーツは着ないけど。
彼女が人魚姫ならば王子はナイフで刺されお亡くなりになっている。
いやそもそも人間にならない。助けた時点で金品を要求しておさらばだろう。
シンデレラなら逆に義母、義姉妹を顎で使っているし、マッチ売りの少女であれば口八丁でマッチを売り込む。
毒林檎を渡されたら握り潰し果汁を相手に飲ませる。毒味は贈る側の義務なので。
ヒロイン体質からは程遠い、どちらかと言うと世紀末なあの漫画やあの洋画でヒャッハーする側だ。
さーて、そんなアリスちゃんの恋のお相手は!?
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