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現界ノ章:SECTION2『ルメリア襲来編』
EP:SOWRD 026 氷像で嗤う狂人
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巨大なクリスタルに映るルメリア・ユーリップの像。
それが、獰猛に嗤う。
「『節制』の、大剣霊……」
永絆や蓮花よりも随分前から魔剣に精通していた愛火も、普段は朗笑で満たされている顔に冷や汗を浮かべている。
当然、永絆も憤怒や嫉妬に狂うルメリアを前にして、度を超えた恐怖や緊張による強い頭痛や吐き気を覚えていた。
今こうしてやっとの思いであの狂人と相対出来ているのは、繋がれた蓮花の手から彼女の温もりを感じ取っているからだ。
そして、だからこそ、永絆は自分の殻を破って勝手に決めつけていた己の限界の向こう側へ行くことが出来る。
即ち、一度トラウマを植え付けれた別次元の相手に対して探りを言えれるという無謀に近い挑戦。
「こうしてまともに話すのは初めてか、ルメリア」
「凡人の分際で……いえ、それ以下の分際で、ルメを呼び捨てにした挙句、対等に口をきくんですか?」
「礼節の点においては、お前のお姉様は寛容だったんだが——」
「——その『二人きりで居たという事実』、今すぐお前ごと消し去ってやる」
温度が急激に下がり、張り詰めた空気は限界を訴え、ルメリアの双眸に宿った鋭い怒りを認めたその瞬間。
永絆はヴァージに魔気を通わせて攻撃に映ろうとしていたが、まるで時が奪われたように、もう既にその行動はルメリアより数秒は出遅れていた。
──目頭に当たる寸前の氷弾。
──既に膝の下あたりまでを侵食していた黒き氷の壊死。
──そして、髪の毛数本をむしり取っている頭上からの黒い雪。
一挙に押し寄せた感情と情報によって思考が停止し、要領を超えた事象の連続に遂には永絆の脳は破裂の時を迎えようとしていた。
「アイリスッ!」
それを防いだのは、蓮花の覇気の込められた詠唱だった。あっという間に永絆を取り巻く濃霧は、永絆だけでなく蓮花や愛火をも包み込んでゆく。
続けて、間髪入れずに、
「『一突連閃《レイ・レイピア》』ッ!!」
愛火が無数の閃光が炸裂させて真正面に居るだろうクリスタルルメリアを穿つ。
甲高い破砕音が轟き、衝撃波が周囲へ撒き散らされた。
エアポケットのようなこの時間を、永絆は決して無駄にしない。
蓮花がアイリスの『斬り霧の舞』で、永絆に迫っていた氷弾と雪を丸ごと霧散してくれた。
ところが、膝より下を侵した凍結は、とっくに壊死の効力を発揮していたのだ。
何かに躓くような形で、目の前に倒れる。その拍子に顔から地面に飛び込みそうになるのを、永絆は慌てて両手を地につくことで免れる。
しかし、それは目を意識の外に追いやっていた地獄と、これから味わう地獄の両方に蝕まれる地獄の始まりで。
「——う、ぐあああああああああああああああああああああああああああッ!?」
黒氷は、永絆の両膝から下を壊死させていた。それどころか、たった今、永絆が両手をついた地面も既に黒氷で凍結されており、それは即ち、彼女の両手もまた壊死の効力を受けてしまっていることを意味する。
「ナズ姉! 早く、ヴァージの剣能を自分に使ってっ!!」
まるで悲鳴を上げるかのように、蓮花が嗚咽混じりに叫ぶ。濃霧の展開に最大限の力を注いでいる今、駆け寄りたくとも駆け寄れないのだろう。
「永絆ちゃんっ!」
愛火も、永絆の名を叫んで安否を気に掛ける。彼女は、どこからか放たれている氷弾を片っ端から撃ち落としていた。
二人共、自分が今すべきことに全力を注いであの怪物と戦っている。
今この瞬間、永絆だけ負傷を言い訳にして、彼女たちに、自分たちに甘える訳にはいかない。
(そうだ……たかが、両足両手が持ってかれただけだ——!)
昨晩から、それ以上に辛く苦しい目に散々遭ってきたじゃないか。
「……ヴァージ、剣能……」
『滅廻』で、自分を取り巻く事象を破壊する。
「発、動……っ」
遂には凍土に転がり、背中から徐々に消失を迎えてゆく。
この速度で凍結が広がっていけば、数秒後には蓮花も愛火も永絆と同じ目に遭ってしまう。
ルメリアが一番目の敵にしているのが永絆で良かった。だって、そうでなければ今頃、全員が均等に壊されていただろうから。
(そんなことは、させねぇけどな)
赤黒い雷光が、永絆の周りで迸る。
都合、五度目となる事象破壊。
寸前にロユリが言っていた『代償』のことが脳裏を掠める。けれど、それに怯えた結果、自分も蓮花も愛火も死んでしまえば、それこそ『代償』どころかではない。何も残らなくなる。
いかなる試練が、地獄が待ち受けていようとも、永絆は今この瞬間起きている地獄を破壊し、望む未来を斬り開く。
それが、この魔剣を握った時から纏わりつく宿命と、固く誓った決意なのだから。
やがて、雷光が瞬く。
永絆を、周囲を取り巻く『壊死』の事象が、間も無く破壊される。
そして。
「ルメリアァッ!」
瀕死の事実を脱した永絆は、五体満足で跳躍し、ルメリアが映る結晶に背後より迫り、大剣を振り下ろす。
「しぶとい……悪が!」
永絆を純粋に『悪』と言い放ったルメリアは、結晶を肥大化させて防御に出る。
「ぐぁっ!?」
巨大な棘を幾本も伸したルメリアの結晶は、ビキビキと音を立てて空へと伸びてゆく。
続けて、黒塗りの凍土が大地を浸していき、再び天より黒雪が降り注ぐ。
「今ここに、お前達の生存目的は潰えた。何故なら……」
結晶に映るルメリアが片手を掲げると同時、永絆は蓮花と愛火をそれぞれ見、魔気で通信を試みた。
そんな地上で行われた小細工に目もくれず、ルメリアは、
「お前達は亡骸も残せず、ここで存在を失うからだ! 剣霊術、第三術式項『全てを壊す黒き氷弾』ッ!!
全方位へ向け無数の黒氷を一斉に放った。
甲高い金属音が立て続けに響き、大気を震わせる。凍土と雪に続いて周囲へ飛ばされる氷弾は、黒にさらなる黒を灯し、大地を、建物を削り取っては雪や地と相まってさらなる破壊を重ねていく。
アパート周辺は、漆黒に覆われ、破壊の限りを尽くされていた。
永絆たちの姿は、どこにも無い。
付け加えるならば、
「……魔気の反応も、無い?」
そう。魔剣術士たる者であれば嫌でも発してしまう証が、どこにも感じられないのだ。
「まさか、あの『冥剣』の剣能を使って逃げたんじゃあ……」
あの『滅廻』とか言う剣能であれば、それも可能だろう。『今自分達がこの場所に居る』という事実を破壊すればいいのだから。
「クソッ! わざわざ出向いてみたらこれか! あの女狐共がぁ……ッ!」
黒い雪は虚しく降り注ぎ、ルメリアの心情を表しているかのように破壊の氷弾は四方八方に炸裂し、大地は黒く塗られて凍てついてゆく。
「それにしても……」
と、腸が煮えくり返る一方で、もう一人の冷静な自分が考えを張り巡らせる。彼女の場合、『禁忌の三日間』で理想を失う前の彼女が彼女自身をコントロールしていても何ら不思議ではない。
「三人目のあの女、何かが引っかかる」
ナズナやレンカとか言う存在とは違った、また別の意味でのイレギュラー──マナカ。あの女が自分達に害を成すのなら、当然、ルメリアの怒りの矛先はあの女にも向けられる。
しかし、どうやら一概そうであると言い切れないようだ。
だが、何にせよ、今ルメリアが行うことは一つで、
「この『姿映し』も、もう限界か……一度ターチスお姉様の下へ帰らなければ」
そう呟くと、ルメリアは結晶から自分の姿を消し、どこかへ消えていった。
黒き雪と氷の破壊は、程なくして終わりを迎えた。
それが、獰猛に嗤う。
「『節制』の、大剣霊……」
永絆や蓮花よりも随分前から魔剣に精通していた愛火も、普段は朗笑で満たされている顔に冷や汗を浮かべている。
当然、永絆も憤怒や嫉妬に狂うルメリアを前にして、度を超えた恐怖や緊張による強い頭痛や吐き気を覚えていた。
今こうしてやっとの思いであの狂人と相対出来ているのは、繋がれた蓮花の手から彼女の温もりを感じ取っているからだ。
そして、だからこそ、永絆は自分の殻を破って勝手に決めつけていた己の限界の向こう側へ行くことが出来る。
即ち、一度トラウマを植え付けれた別次元の相手に対して探りを言えれるという無謀に近い挑戦。
「こうしてまともに話すのは初めてか、ルメリア」
「凡人の分際で……いえ、それ以下の分際で、ルメを呼び捨てにした挙句、対等に口をきくんですか?」
「礼節の点においては、お前のお姉様は寛容だったんだが——」
「——その『二人きりで居たという事実』、今すぐお前ごと消し去ってやる」
温度が急激に下がり、張り詰めた空気は限界を訴え、ルメリアの双眸に宿った鋭い怒りを認めたその瞬間。
永絆はヴァージに魔気を通わせて攻撃に映ろうとしていたが、まるで時が奪われたように、もう既にその行動はルメリアより数秒は出遅れていた。
──目頭に当たる寸前の氷弾。
──既に膝の下あたりまでを侵食していた黒き氷の壊死。
──そして、髪の毛数本をむしり取っている頭上からの黒い雪。
一挙に押し寄せた感情と情報によって思考が停止し、要領を超えた事象の連続に遂には永絆の脳は破裂の時を迎えようとしていた。
「アイリスッ!」
それを防いだのは、蓮花の覇気の込められた詠唱だった。あっという間に永絆を取り巻く濃霧は、永絆だけでなく蓮花や愛火をも包み込んでゆく。
続けて、間髪入れずに、
「『一突連閃《レイ・レイピア》』ッ!!」
愛火が無数の閃光が炸裂させて真正面に居るだろうクリスタルルメリアを穿つ。
甲高い破砕音が轟き、衝撃波が周囲へ撒き散らされた。
エアポケットのようなこの時間を、永絆は決して無駄にしない。
蓮花がアイリスの『斬り霧の舞』で、永絆に迫っていた氷弾と雪を丸ごと霧散してくれた。
ところが、膝より下を侵した凍結は、とっくに壊死の効力を発揮していたのだ。
何かに躓くような形で、目の前に倒れる。その拍子に顔から地面に飛び込みそうになるのを、永絆は慌てて両手を地につくことで免れる。
しかし、それは目を意識の外に追いやっていた地獄と、これから味わう地獄の両方に蝕まれる地獄の始まりで。
「——う、ぐあああああああああああああああああああああああああああッ!?」
黒氷は、永絆の両膝から下を壊死させていた。それどころか、たった今、永絆が両手をついた地面も既に黒氷で凍結されており、それは即ち、彼女の両手もまた壊死の効力を受けてしまっていることを意味する。
「ナズ姉! 早く、ヴァージの剣能を自分に使ってっ!!」
まるで悲鳴を上げるかのように、蓮花が嗚咽混じりに叫ぶ。濃霧の展開に最大限の力を注いでいる今、駆け寄りたくとも駆け寄れないのだろう。
「永絆ちゃんっ!」
愛火も、永絆の名を叫んで安否を気に掛ける。彼女は、どこからか放たれている氷弾を片っ端から撃ち落としていた。
二人共、自分が今すべきことに全力を注いであの怪物と戦っている。
今この瞬間、永絆だけ負傷を言い訳にして、彼女たちに、自分たちに甘える訳にはいかない。
(そうだ……たかが、両足両手が持ってかれただけだ——!)
昨晩から、それ以上に辛く苦しい目に散々遭ってきたじゃないか。
「……ヴァージ、剣能……」
『滅廻』で、自分を取り巻く事象を破壊する。
「発、動……っ」
遂には凍土に転がり、背中から徐々に消失を迎えてゆく。
この速度で凍結が広がっていけば、数秒後には蓮花も愛火も永絆と同じ目に遭ってしまう。
ルメリアが一番目の敵にしているのが永絆で良かった。だって、そうでなければ今頃、全員が均等に壊されていただろうから。
(そんなことは、させねぇけどな)
赤黒い雷光が、永絆の周りで迸る。
都合、五度目となる事象破壊。
寸前にロユリが言っていた『代償』のことが脳裏を掠める。けれど、それに怯えた結果、自分も蓮花も愛火も死んでしまえば、それこそ『代償』どころかではない。何も残らなくなる。
いかなる試練が、地獄が待ち受けていようとも、永絆は今この瞬間起きている地獄を破壊し、望む未来を斬り開く。
それが、この魔剣を握った時から纏わりつく宿命と、固く誓った決意なのだから。
やがて、雷光が瞬く。
永絆を、周囲を取り巻く『壊死』の事象が、間も無く破壊される。
そして。
「ルメリアァッ!」
瀕死の事実を脱した永絆は、五体満足で跳躍し、ルメリアが映る結晶に背後より迫り、大剣を振り下ろす。
「しぶとい……悪が!」
永絆を純粋に『悪』と言い放ったルメリアは、結晶を肥大化させて防御に出る。
「ぐぁっ!?」
巨大な棘を幾本も伸したルメリアの結晶は、ビキビキと音を立てて空へと伸びてゆく。
続けて、黒塗りの凍土が大地を浸していき、再び天より黒雪が降り注ぐ。
「今ここに、お前達の生存目的は潰えた。何故なら……」
結晶に映るルメリアが片手を掲げると同時、永絆は蓮花と愛火をそれぞれ見、魔気で通信を試みた。
そんな地上で行われた小細工に目もくれず、ルメリアは、
「お前達は亡骸も残せず、ここで存在を失うからだ! 剣霊術、第三術式項『全てを壊す黒き氷弾』ッ!!
全方位へ向け無数の黒氷を一斉に放った。
甲高い金属音が立て続けに響き、大気を震わせる。凍土と雪に続いて周囲へ飛ばされる氷弾は、黒にさらなる黒を灯し、大地を、建物を削り取っては雪や地と相まってさらなる破壊を重ねていく。
アパート周辺は、漆黒に覆われ、破壊の限りを尽くされていた。
永絆たちの姿は、どこにも無い。
付け加えるならば、
「……魔気の反応も、無い?」
そう。魔剣術士たる者であれば嫌でも発してしまう証が、どこにも感じられないのだ。
「まさか、あの『冥剣』の剣能を使って逃げたんじゃあ……」
あの『滅廻』とか言う剣能であれば、それも可能だろう。『今自分達がこの場所に居る』という事実を破壊すればいいのだから。
「クソッ! わざわざ出向いてみたらこれか! あの女狐共がぁ……ッ!」
黒い雪は虚しく降り注ぎ、ルメリアの心情を表しているかのように破壊の氷弾は四方八方に炸裂し、大地は黒く塗られて凍てついてゆく。
「それにしても……」
と、腸が煮えくり返る一方で、もう一人の冷静な自分が考えを張り巡らせる。彼女の場合、『禁忌の三日間』で理想を失う前の彼女が彼女自身をコントロールしていても何ら不思議ではない。
「三人目のあの女、何かが引っかかる」
ナズナやレンカとか言う存在とは違った、また別の意味でのイレギュラー──マナカ。あの女が自分達に害を成すのなら、当然、ルメリアの怒りの矛先はあの女にも向けられる。
しかし、どうやら一概そうであると言い切れないようだ。
だが、何にせよ、今ルメリアが行うことは一つで、
「この『姿映し』も、もう限界か……一度ターチスお姉様の下へ帰らなければ」
そう呟くと、ルメリアは結晶から自分の姿を消し、どこかへ消えていった。
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