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現界ノ章:SECTION2『ルメリア襲来編』
EP:SOWRD 030 ルメリアとターチス
しおりを挟む「……ルメリア。そこまでして、このわたくしを手中に収めたいのかしら?」
一瞬で全てを把握し、しかし怖気づくどころか怒気を孕んだ声音で静かに聞いた。その寛容さ、寛大さに、ルメリアは下腹部に当てていた手を両頬に添えて甘い声を上げる。
「あはぁっ、お姉様の御覚悟。このルメが存分に受け止めさせて頂きますっ。ですので、もう頂いてもよろしいですかぁ? もうとっくに、ターチスお姉様のお肌を頂戴した時から疼きが止まないんです……!」
「会話が通じないようね。流石、『禁忌の三日間』を犯しただけはあるわ」
「そんな褒めないで下さい……そんな真摯に見つめられて熱々の称賛でもされたら、ルメ……」
言いながら、ルメリアは自身の股間をローブ越しに触り、ぬめりとした恥蜜を手のひらで掬って妖艶に舐め取って、
「感じてしまいますぅ……っ!」
その場に音と冷気を置き去りにして、横たわるターチスの腹部に跨って馬乗りの姿勢になる。
口の端からは唾液を垂らし、大腿の間からはローブに愛液を滲み込ませるルメリア。そんな狂った愛弟子の淫靡に歪んだ顔を見上げて、ターチスは事もなげに言った。
「——はしたない」
凍てついた空間に響く、冷たい声。
「…………え?」
ルメリアは理解が出来ないといった様子で目を見開いている。
万物を凍らせる彼女が凍り付いているというのもおかしな話だが、ターチスはそうした冗句でフォローすることは無く、寧ろさらなる追い打ちをかけていく。
「わたくしが居なければ何も出来ず、たった三日間、貴女の傍から離れただけでこの有り様。四大剣霊の一角として情けないとは思わないのかしら? ルメリア・ユーリップ」
「————」
「わたくしは、貴女をそんなはしたない狂愛者に育てた覚えはありませんわ。……どうして貴女は、そのようになってしまったの」
「————」
憤慨や嘆きでは無く、失意にも似た憐憫の眼差し。
ターチスという大剣霊に憧れ、焦がれ、心を奪われたルメリアにとって。
彼女の全てを愛し、存在を慕い、一挙手一投足に敬愛を示す彼女にとって。
その眼差しは、その文言は、何よりも辛く苦しいものだった。
そして、それ以上に。
何かがぷつんと弾ける音がした。
「……ターチス、姉様だって……」
暫し脱力していたルメリアの目に再び光が宿り、ポツリと呟き始めた言葉にターチスは眉を顰める。
「ルメ——」
「ターチス姉様だって、あのロユリ第二クソ王女や『冥剣』のナズナとか言う女狐にうつつを抜かしていたではありませんかっ!!」
ターチスの呼びかけを遮り、ルメリアは怒り赴くままに叫ぶ。
「ルメがどれほどお姉様に尽くしても、あなたはルメに振り向いてくれない! その癖、ロユリとはなにやら秘め事を交わしてルメにも内緒で動いていて……その結果が、今回の『異界追放』でしょう!? それなのに、ターチスお姉様は女王へ叛逆して自業自得なあの女のために身を削って、今度はあの女が囚われた『冥剣』を使うもっとクソな女と契約まで交わして……!」
真っ白な髪を振り乱し、唾を飛ばして怒り猛るルメリアを、ターチスはただ黙って見ている。
その虚無ともいえる態度に、ルメリアは余計に怒りを募らせて、奥歯を強く噛み締めて激情を吐露していく。
「先程、ターチスお姉様はルメのことをはしたないと仰いましたけども! お姉様だって人のことを言えるのですか? ロユリやナズナ……いえ、もっと多くの人々を手玉に取って、『純潔』の霊位が赴くままに数多の輩の『初めて』を見て味わってきて……そりゃあ、あなたの言うそれは性的な意味でない、物事への純粋なる初体験であるとルメは分かっています……分かっていますが、同時に、例外もあったということをルメは知っています!」
長々と語っていくルメリアの文言に耳を傾けていたターチスが、最後の文には形のいい眉をピクリと動かして訝しげな反応を示した。
その挙動を、ルメリアが見逃す筈も無く。
ターチスの顔に自分の顔を勢いよく近付けて、鼻と鼻が当たりそうな距離で『節制』の大剣霊は『純潔』の大剣霊に問う。
「——ロユリと迎えた『初夜』は、どうでしたかぁ……?」
今までと打って変わって静かに、しかし今まで以上にねっとりとした声音でそう言われ、ターチスはルメリアが狂愛を宿す夕焼け色の瞳を真っ向から射抜いて、問い返す。
「あら、あらあらあら。何を勘違いしているのかしら、貴女は。狂言もそこまでいくと傑作もいいところ……わたくしより先に、貴女がべすとせらぁ小説を書くのではなくて?」
あくまで動じず、物怖じしない勝ち気な目。加えて、ルメリアの文言をただの狂人の妄言としか受け取っておらず、挙句の果てにこの世界の覚えたての言語を交えて茶化す態度。
いくら相手が敬愛するターチスとはいえ、流石にルメリアの堪忍袋も限界だった。
「茶化さないで教えてください。でもその前に、いくつかお聞きしたいことがあります、何故、そのような行為するに至ったのか、ルメという存在があるにもかかわらず後ろめたさ感じなかったのか、そもそもどうしてロユリと仲がよろしいのか、あんな夜そのものを具現化したような根暗女のどこがいいのか」
「ルメリア」
「なぜあなたはそんな奴と手を組んでまで女王に逆らったのか、なぜあなたはルメの想いに気付いてくれないのですか、なぜあなたはルメの心が分からないのですか、なぜあなたはルメの感情に気付いてくれないのですか」
「ルメリア……」
「なぜあなたはいつもルメをどこかに置いていってしまわれるのですかなぜあなたはルメ以外の他は何もいらないといってくれないのですか、なぜあなたはルメだけを見てくれないのですか、なぜあなたはルメを求めてくれないのですか、なぜあなたはルメだけを——」
「ルメリアッ!」
「…………」
眉間に皺を寄せ、仄かな怒りを見せるターチス。ようやく見せてくれた変化に、ルメリア陰鬱な闇が灯った瞳を細め、口角を釣り上げる。
「ねえ、お姉様」
「なに?」
「ねえ、ターチスお姉様」
「だから、なに?」
「ふふっ、お姉様、ルメの、ターチスお姉様っ」
「だから、なにって聞いて——」
がぶり、と。
ルメリアの小さな口が、ターチスの首筋に歯を突き立てていた。
「……っ!」
目を瞑り、痛みを堪えるターチス。その反応に好色を示したルメリアは、まるで獣のように、自らが姉と慕う女の素肌を噛み千切っていく。
「あむっ、はふっははふっ、ふふふっ、ふふふふふふふふふふふふふ! ふふふふふっはははははははははははははははははははっ!」
低い唸りが甲高い笑い声へと変わり、
「ははははっ!! ははははははははははははあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」
やがて嬌声を叫ぶと共に、ルメリアはターチスの皮膚を噛み千切って一度顔を上げ、恍惚な表情をしながら音を立てて咀嚼する。
とろん、とした瞳に赤く染まった頬。その赤よりもさらに深く濃い紅を口の端から垂れさせて、それを狂人は真っ赤な舌で舐め取ると共に口内の肉片を飲み込む。
そして、熱い吐息を漏らしながら語り始める。
「なんかもう、色々と我慢が出来ません。さっき、不穏分子を排除しようとしてわざわざナズナたちのところへ氷像を遣わせましたが、逃げられてしまいましたぁ。あいつら、直にここへ来ると思いますよ……でも、でもでもでもぉっ、せっかく手にしたこの機会、あなたを自由に出来るこの時間、ルメは永久に持続させたいのです。だから、ね?」
そう言って微笑みかけた直後、今度はターチスの唇を指で抉じ開けて、彼女の舌を親指と人差し指で掴んで軽く引っ張り出す。
「え、げぇっ!」
さしものターチスも、唐突なその奇行と、舌というデリケートな部分を文字通り掴まれたことにより、普段なら絶対に上げないであろう声を上げる。
「はぁぁぁぁぁぁぁっ! はぁぁぁぁぁぁぁああああああああああんっ! お姉様がお焦りになさっている表情! お姉様がルメの手中に収まっているこの状況っ! 非常に、いいっ! いいですぅぅぅっははははぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああっ」
挙句、舌を掴まれて開きっぱなしになっている口腔をルメリアは盛大に嗅ぎ、
「あああああっ! あああああっ! ターチスお姉様のお口の香り! 甘い芳香漂いほんのり濃厚な粘液と唾液が入り混じる芳醇な匂い……! でも、これだけじゃあ足りないっ!」
「……っ!」
止まらないルメリアは、もう片方の手でターチスの鼻をつまみ、顔を横に傾けて思い切り舌を這わせた。
キスをするというよりは、口で口を犯すという強引な行為。鼻で息が出来ないターチスは、必然的に口で呼吸するほかならなくなる。
しかし、そうさせることがルメリアの狙い。
今、ターチスはルメリアの口から息を吸い、ルメリアの口にしか息を吐けない。
舌どころか、呼吸という生命の重要な行動さえ、ルメリアが握っている。
当然、ルメリアは止まらない。さらなる追い打ちを、ターチスにかける。
「あ、が、あぁ……っ」
低く汚らしい唸り声。
舌を掴んでいた手は、いつの間にかターチスの首を絞めていた。
その際、いつの間にか、ターチスの舌は凍っていた。
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