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第2章 ザナドゥ王国
第65話 ワガママな国王
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「誰か……誰か説明してくれ。目の前で起こっている事を、説明してくれ……」
ゲーベルク軍司令官は後方から戦場全体を見ているにも関わらず、戦場の異様性を理解できないでいる。
4万対3千。本来ならばすでに勝敗は決しているはずで、長期戦、いや、指揮の必要すらない戦いのはずだったのだ。
それが今、目の前では3千の兵に蹂躙されている。
「指令……私も自分の目を疑っています。しかし、しかしコレは現実なのです」
「夢だと言ってくれ……ありえん……こんな事が……バカな……」
顔に手を当てて、震えながらうつ向いているが、そんな事をしても現状が変わる事は無い。
見た事もない魔法が戦場を分断し、騎士が単騎で戦場を駆け巡り、大地は生きているように形を変え、矢の雨が降り注ぎ、植物が兵を捕らえ、年寄りが訓練された兵士を殺戮している。
まるでこの世の終わりでも見ているような気分だろう。
今こうしている間にも兵は殺されている。
「た、体勢をを立て直す! 一旦後退しろ」
「は!」
司令官はそれしか指示する事が出来なかったのだ。
敵を包囲してしまえば、時間をかければどんな相手でも倒せるはず。だったのだ。
10分の1以下の相手を包囲できないと言う事は、すでに手が無いのと同じだった。
絶望よりも混乱の方が大きいが、ここにきて司令官は更に予想外の事態に遭遇する。
「なに? 敵の追撃が無いだと?」
「は。味方の後退は完全に完了しました。その、一切の追撃を受けずに」
「なぜだ? 確かにスキは最小限にとどめていたが、後退する敵を見逃すだと? わからん……」
司令官が頭を抱えるのも仕方がない。
なにせ修斗は……腹が減ったからと全軍を本陣に呼び戻し、宴会を始めてしまったのだから。
そんな事を知る由もない司令官は、怪我人の治療や現状把握に努める。
ゲーベルク軍の状態は、死者8千人、怪我人1万4千人と、戦力としては半分にまで落ちていた。
まともに動けるのは1万8千人。
そろそろ日が暮れるため、戦いは明日に持ち越される事になった。
「よし、夜襲をかけよう」
「夜襲、ですか」
「そうだ、ザナドゥ軍が何をしているか知らないが、見ろ、あの煌々と照らされた陣を」
司令官が指さした先にはザナドゥ王国軍の本陣があり、本陣はまるで宴会でも行われているように明るい。
実際に宴会が行われているのだが。
「あれだけ騒いでいれば、戦闘の疲れもあいまって夜はグッスリ眠るはずだ。そこを襲うのだ」
「そうですね、正面から戦っても勝負になりませんし、それしかありませんね」
副指令らしき男がため息とともに同意する。
すでに兵は半数にまで減っており、恐らくゲーベルク軍の方が疲れているだろう。
しかし後退してから兵士は泥のように眠っているから、少しは体力が回復しているはずだ。
軽めの食事をとらせ、夜襲の準備をしたら間に合うだろう。
「それでは準備にかかれ」
夜遅く、ゲーベルク軍はザナドゥ王国軍の本陣にゆっくりと迫っていく。
幸い月が雲に隠れており、辺りは闇に包まれている。
その中でひと際ザナドゥ王国軍の本陣は明るい。
まだ宴会をしているのだろうか。
魔の森側からジワリジワリと接近していくが、未だにザナドゥ王国軍に動きは無く、ゲーベルク軍が発見された様子もない。
そもそも夜襲を警戒しているのだろうか。偵察らしきものも見当たらない。
ザナドゥ王国軍の松明の灯りが当たらないギリギリの距離に入る。
物音一つ立てずにここまで来れたのだ、間違いなく熟練兵士といって間違いない。
そして……合図とともに一斉にザナドゥ王国軍の本陣になだれ込む。
「この野郎が! 昼間の仕返しだ!」
「死ね! 死ねー!」
「寝込みを襲われて不名誉な死を与えてやる!」
よほど鬱憤が溜まっていたのだろう、恐ろしい程に気合いが、いや、私怨がこもっている。
テントを倒して執拗に剣で刺し、松明の火をばらまいて陣に火を放つ。
「あーっはっはっは! こいつら手も足も出てないぞ! ざまぁみろ! ざまぁみろ!」
ゲーベルク軍の兵士の歓喜の声があちこちから聞こえるが、ザナドゥ王国軍の声がしない。
それに気が付いたのは少したってからだった。
「あれ? テントの中には誰もいないぞ!?」
「なに? そんなバカな……いない!!!」
「本当だこっちにも居ないぞ!」
そんな声が広がっていき、やっと気が付いたようだ。
「撤収だ! 急げ! コレは罠だ!」
さっきまでの喜々とした狂気とは打って変わり、今度は恐怖で狂った声を上げながら逃げていく。
恐らく昼間の恐怖が蘇ったのだろう。
一歩でも遠くに、少しでも早く逃げようとして、武器も何もかも捨てて死に物狂いで逃げていくのだが、相変わらず追手がこない。
そう、ここにはザナドゥ王国軍は居ないのだ。
ザナドゥ王国軍はすでに城に戻っており、明朝に戻ってくるつもりだったのだ。
移動に1~2日かかる道のりをどうやって?
「こんな所で寝られるか! 城に戻るぞ!」
いつもの夜のように7人をはべらせようとしたが、マットが薄く体が痛かったようだ。
こんな所ではイチャつけない! と全軍を率いて城に空間を繋げ、全兵士が自宅で休息を取っていた。
そんな事を知る由もないゲーベルク軍は、夜襲さえ通じない相手だと震え、寝る事すら出来ない様だが……。
城に戻った修斗はご機嫌で7人とイチャコラしていた。
ゲーベルク軍司令官は後方から戦場全体を見ているにも関わらず、戦場の異様性を理解できないでいる。
4万対3千。本来ならばすでに勝敗は決しているはずで、長期戦、いや、指揮の必要すらない戦いのはずだったのだ。
それが今、目の前では3千の兵に蹂躙されている。
「指令……私も自分の目を疑っています。しかし、しかしコレは現実なのです」
「夢だと言ってくれ……ありえん……こんな事が……バカな……」
顔に手を当てて、震えながらうつ向いているが、そんな事をしても現状が変わる事は無い。
見た事もない魔法が戦場を分断し、騎士が単騎で戦場を駆け巡り、大地は生きているように形を変え、矢の雨が降り注ぎ、植物が兵を捕らえ、年寄りが訓練された兵士を殺戮している。
まるでこの世の終わりでも見ているような気分だろう。
今こうしている間にも兵は殺されている。
「た、体勢をを立て直す! 一旦後退しろ」
「は!」
司令官はそれしか指示する事が出来なかったのだ。
敵を包囲してしまえば、時間をかければどんな相手でも倒せるはず。だったのだ。
10分の1以下の相手を包囲できないと言う事は、すでに手が無いのと同じだった。
絶望よりも混乱の方が大きいが、ここにきて司令官は更に予想外の事態に遭遇する。
「なに? 敵の追撃が無いだと?」
「は。味方の後退は完全に完了しました。その、一切の追撃を受けずに」
「なぜだ? 確かにスキは最小限にとどめていたが、後退する敵を見逃すだと? わからん……」
司令官が頭を抱えるのも仕方がない。
なにせ修斗は……腹が減ったからと全軍を本陣に呼び戻し、宴会を始めてしまったのだから。
そんな事を知る由もない司令官は、怪我人の治療や現状把握に努める。
ゲーベルク軍の状態は、死者8千人、怪我人1万4千人と、戦力としては半分にまで落ちていた。
まともに動けるのは1万8千人。
そろそろ日が暮れるため、戦いは明日に持ち越される事になった。
「よし、夜襲をかけよう」
「夜襲、ですか」
「そうだ、ザナドゥ軍が何をしているか知らないが、見ろ、あの煌々と照らされた陣を」
司令官が指さした先にはザナドゥ王国軍の本陣があり、本陣はまるで宴会でも行われているように明るい。
実際に宴会が行われているのだが。
「あれだけ騒いでいれば、戦闘の疲れもあいまって夜はグッスリ眠るはずだ。そこを襲うのだ」
「そうですね、正面から戦っても勝負になりませんし、それしかありませんね」
副指令らしき男がため息とともに同意する。
すでに兵は半数にまで減っており、恐らくゲーベルク軍の方が疲れているだろう。
しかし後退してから兵士は泥のように眠っているから、少しは体力が回復しているはずだ。
軽めの食事をとらせ、夜襲の準備をしたら間に合うだろう。
「それでは準備にかかれ」
夜遅く、ゲーベルク軍はザナドゥ王国軍の本陣にゆっくりと迫っていく。
幸い月が雲に隠れており、辺りは闇に包まれている。
その中でひと際ザナドゥ王国軍の本陣は明るい。
まだ宴会をしているのだろうか。
魔の森側からジワリジワリと接近していくが、未だにザナドゥ王国軍に動きは無く、ゲーベルク軍が発見された様子もない。
そもそも夜襲を警戒しているのだろうか。偵察らしきものも見当たらない。
ザナドゥ王国軍の松明の灯りが当たらないギリギリの距離に入る。
物音一つ立てずにここまで来れたのだ、間違いなく熟練兵士といって間違いない。
そして……合図とともに一斉にザナドゥ王国軍の本陣になだれ込む。
「この野郎が! 昼間の仕返しだ!」
「死ね! 死ねー!」
「寝込みを襲われて不名誉な死を与えてやる!」
よほど鬱憤が溜まっていたのだろう、恐ろしい程に気合いが、いや、私怨がこもっている。
テントを倒して執拗に剣で刺し、松明の火をばらまいて陣に火を放つ。
「あーっはっはっは! こいつら手も足も出てないぞ! ざまぁみろ! ざまぁみろ!」
ゲーベルク軍の兵士の歓喜の声があちこちから聞こえるが、ザナドゥ王国軍の声がしない。
それに気が付いたのは少したってからだった。
「あれ? テントの中には誰もいないぞ!?」
「なに? そんなバカな……いない!!!」
「本当だこっちにも居ないぞ!」
そんな声が広がっていき、やっと気が付いたようだ。
「撤収だ! 急げ! コレは罠だ!」
さっきまでの喜々とした狂気とは打って変わり、今度は恐怖で狂った声を上げながら逃げていく。
恐らく昼間の恐怖が蘇ったのだろう。
一歩でも遠くに、少しでも早く逃げようとして、武器も何もかも捨てて死に物狂いで逃げていくのだが、相変わらず追手がこない。
そう、ここにはザナドゥ王国軍は居ないのだ。
ザナドゥ王国軍はすでに城に戻っており、明朝に戻ってくるつもりだったのだ。
移動に1~2日かかる道のりをどうやって?
「こんな所で寝られるか! 城に戻るぞ!」
いつもの夜のように7人をはべらせようとしたが、マットが薄く体が痛かったようだ。
こんな所ではイチャつけない! と全軍を率いて城に空間を繋げ、全兵士が自宅で休息を取っていた。
そんな事を知る由もないゲーベルク軍は、夜襲さえ通じない相手だと震え、寝る事すら出来ない様だが……。
城に戻った修斗はご機嫌で7人とイチャコラしていた。
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