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第2章 ザナドゥ王国
第66話 戦争? ……ああ、戦争していたな
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「ん……なんだ? 朝か」
「おはようございますシュウト様。今朝はアタシが起こしに来ました」
レベッカ魔法兵長が、修斗の頭を枕から自分の膝に移し、寝汗をかいている額をタオルで優しく拭う。
汗で額にくっついた髪を左右にずらすと、いつしか頭を撫でていた。
「お前の膝枕は顔が良く見えるな」
「う……やっぱり大きいのがお好みですか?」
「いや、小さいのも好きだ」
「そ、そうですよね、個性ですよね? 個性」
「昨日はおっぱいを吸ってくれと、せがんでいたしな」
「だ、だってキャロルの胸を鷲掴みにして楽しそうだったんですもん! アタシは吸ってもらう位しか出来ませんし」
「小さい胸はな、撫でて楽しむもんだ」
朝っぱらから何の話をしているのか知らないが、忘れてはいけないことがある。
そう、ザナドゥ王国は現在、ゲーベルク軍国家と戦争の真っ最中なのだ。
とても戦争中の国の国王と重鎮の会話ではないが、本人たちは……いや、国自体がその程度の感覚しか持っていないようだ。
ザナドゥ王国は平常運行中であり、戦争が始まるからと徴兵もせず、食料の接収もしていない。
ゲーベルク軍国家以外の国とはいつも通りに行き来できている。
「シュウトサマ、あさゴハンの準備ができたデス」
鷲掴みにされていたキャロルが扉を開け、ベッドでいちゃつく2人を呼びに来ると、修斗とレベッカはベッドから降りて食堂へと向かう。
「さてと、全員揃っているか?」
「ああ、全員揃っているよ。怪我人も治療を終えて、戦場に復帰できるようだね」
昨日の戦いでザナドゥ王国軍は死者ゼロ、怪我人10名程で、いずれも軽症だった。
重鎮たちも大概だが、その兵士達も大概のようだ。
「よし、じゃあ行くとするか」
修斗が戦場の本陣に空間を開き、100人単位で移動を開始する。
しかし移動を開始して直ぐに報告が入る。
「シュウト様! 本陣が何者かに襲撃を受けています!」
「ん? ゲーベルク軍が来ていたのかな。まあいい、各自戦闘を開始しろ、明日にはメナストーン国の支援に向かわせるから、手早く終わらせろ」
「は!」
報告に来た兵士はそのまま戦場に戻り、各兵士と共に好き勝手に暴れ始める。
「シュウト様、アタシ達も行ってきます」
「ん」
「シュウト、アタイ達も出ていいかい? 流石に何もしないっていうのは、シュウトの女として悔しいんだよ」
パメラが前線に立ちたいと言ってきたが、どうやらバーバラとキャロラインも同じ意見のようだ。
確かに最初の3人娘が、修斗の国最初の戦いに何もしなかった、というのは悔しいのかもしれない。
「良いだろう。お前達全員好きにやってこい」
「ありがとうシュウト!」
「ありがとうございますシュウト様!」
「しっかりとシュウトさんのお役に立って見せますね」
そういうと重鎮9人が嬉しそうに空間を跨いでいく。
全兵士も戦場に移動した事で、城の広場には修斗1人だけになってしまった。
「俺だけで本陣に居てもな……おい」
本陣は随分と酷く荒らされているが、メイド達が急いで片づけをして、修斗がくつろげる場所を作る。
そしてソファーとテーブルを置き、食後のティータイムを満喫していた。
一人掛けソファーの両脇には、修斗付きのメイド2人が待機している。
「暇だな」
ティーカップを置くと、両手はそれぞれ左右に居るメイドのスカートの中へと入っていく。
尻を触られピクリと反応するが、姿勢を乱すまいと必死に我慢している。
我慢する仕草が面白くなり、どこまで耐えられるか遊んでいるのだが、下着の中に指が入った時点で耐えきれずに声を上げた。
その頃前線では9人の重鎮が暴れ回っていた。
そう、言われた通りに好き勝手をしているのだ。
「シュウトに強化してもらった武器を試させてもらうよ!」
パメラは5本の投げナイフを両手に持ち、順番に敵を目がけて投げつける。
ナイフは一瞬で5人に刺さり、そして……貫通して何人もの体を突き抜けていく。
5本のナイフを1回投げただけで100人以上を倒し、ようやく止まったナイフはベルトのホルダーへと戻ってくる。
「ははっ! 便利なもんだねぇ、じゃあ次はこっちだよ!」
2本のナイフを構え、気合いと共に全力で走り出すと、勢いを殺さず敵の真っただ中に、頭の高さに軽くジャンプをする。
体を小さく縮みこませ、腕だけを高速で動かしているのだが……約500メートルほど移動し終えて着地すると、すれ違った敵兵の首が無くなっていた。
何百という頭が地面を転がり、頭の無い首からは血が吹き出していた。
「いいね、刃こぼれどころか切れ味が落ちてないよ。流石だねシュウト」
「はーっはっはっは! 斬れる! 斬れますよシュウト様!」
バーバラは一番多くの武具を強化してもらったのだが、その全てを順番に試して悦に浸っている。
メインの剣は振る事すらせずに、何かが敵を切り裂いていく。
恐らくは目線を移動するだけで斬る方向を決められ、顔を動かすたびにあちこちの敵が切り裂かれてしまうのだ。
そして大きめの盾を前に突きだすと、あたり一帯に雷が降り注ぎ、敵を黒焦げにする。
「ああ~、やっぱり武器はいい! もっともっと武器が欲しいな!」
「あ、ちょっと来ないでくださいますか? シュウトさん以外の男性に触れられたく無いんです」
キャロラインが手を前に出し敵兵を制止させる。
10名近い敵兵は必死に近づこうと、剣を振り下ろそうとしているが、何かに邪魔をされて動けなくなっている。
キュッと手を握ると、敵兵はグシャリと潰されて血がしたたり落ちていく。
「もう、前に出過ぎたのは私ですが、こんなに群がって来るとは思いませんでした」
両手を開いて前に出すと、10本の指先が光り出す。
「収束」
指先から糸の様な光が放たれると敵兵を突き抜けて遠方まで届いている。
腕を内側に交差させると、10本の光は横に流れ、それと同時に大量の敵兵の体がスライスされ、地面に転がる。
他の6人も昨日と同様に暴れ回り、いつしか9人は前線を突き抜けて、敵本陣の前まで来ていた。
本陣詰めの兵士は……何もできずに死んでいく。
「ひっ、ひっ! はっひ、はっ、はっ、はっ、は」
ゲーベルク軍司令官は9人の姿を見て、息が止まりそうだ。
隣にいる副長はすでに気を失っている。
「我らザナドゥ王国、シュウト様に仕える9人の騎士。司令官とお見受けするが、その首、頂戴いたす」
「あ、ああ! あああーーー!!! ああ、ああーー!」
ウィリアム騎士団長が名乗りと共に剣を振り上げると、言葉にならない叫び声をあげて、司令官は足がもつれながら逃げて行った。
「あれ? 逃げちまったよアイツ」
「敵前逃亡とは、けしからん奴だ!」
「戦意喪失した者を、倒す必要はないでしょうかね」
そんな情けをかけられて、ゲーベルク軍司令官は死に物狂いで首都まで逃げ帰るのだが、司令官自身はそこで命を失う事になる。
「陛下! 陛下!」
「なんだ騒々しい。戦いはどうした? ん? 完勝か?」
謁見の間で会合をしていたらしいゲーベルク軍国家の貴族たちは、泥だらけの司令官を見て怪訝そうな顔をしている。
完勝した司令官の姿ではないからだ。
涙を流し、鼻水を垂らし、見た事もない程に情けない表情をしている。
「陛下、陛下! 私はもうダメです、もう無理なのです!」
「さっきから要領を得ないな。しっかりと説明をせんか」
「はい、はい! 我が軍は、我が4万の兵は、3千の敵兵の前に全滅いたしました!」
「な、なんだとぅ!?」
会場がざわめく。
それはそうだろう、勝った後の事しか考えていなかったのに、開戦した翌日には全滅の報告が入ってきたのだ。
しかも司令官自らが。
「陛下……私は、私は夢を見ているのでしょうか。あの悪夢のような戦場は……あの9人の悪夢のような騎士は……陛下……お暇を頂きたく存じます」
そういうと司令官は剣を抜き、自らの胸に突き刺した。
口から血を吐きだし、間もなく息を引き取るのだが、その顔は安堵に満ちていた。
謁見の間は悲鳴も何も上がる事無く、ただただ静寂に包まれるのだった。
「おはようございますシュウト様。今朝はアタシが起こしに来ました」
レベッカ魔法兵長が、修斗の頭を枕から自分の膝に移し、寝汗をかいている額をタオルで優しく拭う。
汗で額にくっついた髪を左右にずらすと、いつしか頭を撫でていた。
「お前の膝枕は顔が良く見えるな」
「う……やっぱり大きいのがお好みですか?」
「いや、小さいのも好きだ」
「そ、そうですよね、個性ですよね? 個性」
「昨日はおっぱいを吸ってくれと、せがんでいたしな」
「だ、だってキャロルの胸を鷲掴みにして楽しそうだったんですもん! アタシは吸ってもらう位しか出来ませんし」
「小さい胸はな、撫でて楽しむもんだ」
朝っぱらから何の話をしているのか知らないが、忘れてはいけないことがある。
そう、ザナドゥ王国は現在、ゲーベルク軍国家と戦争の真っ最中なのだ。
とても戦争中の国の国王と重鎮の会話ではないが、本人たちは……いや、国自体がその程度の感覚しか持っていないようだ。
ザナドゥ王国は平常運行中であり、戦争が始まるからと徴兵もせず、食料の接収もしていない。
ゲーベルク軍国家以外の国とはいつも通りに行き来できている。
「シュウトサマ、あさゴハンの準備ができたデス」
鷲掴みにされていたキャロルが扉を開け、ベッドでいちゃつく2人を呼びに来ると、修斗とレベッカはベッドから降りて食堂へと向かう。
「さてと、全員揃っているか?」
「ああ、全員揃っているよ。怪我人も治療を終えて、戦場に復帰できるようだね」
昨日の戦いでザナドゥ王国軍は死者ゼロ、怪我人10名程で、いずれも軽症だった。
重鎮たちも大概だが、その兵士達も大概のようだ。
「よし、じゃあ行くとするか」
修斗が戦場の本陣に空間を開き、100人単位で移動を開始する。
しかし移動を開始して直ぐに報告が入る。
「シュウト様! 本陣が何者かに襲撃を受けています!」
「ん? ゲーベルク軍が来ていたのかな。まあいい、各自戦闘を開始しろ、明日にはメナストーン国の支援に向かわせるから、手早く終わらせろ」
「は!」
報告に来た兵士はそのまま戦場に戻り、各兵士と共に好き勝手に暴れ始める。
「シュウト様、アタシ達も行ってきます」
「ん」
「シュウト、アタイ達も出ていいかい? 流石に何もしないっていうのは、シュウトの女として悔しいんだよ」
パメラが前線に立ちたいと言ってきたが、どうやらバーバラとキャロラインも同じ意見のようだ。
確かに最初の3人娘が、修斗の国最初の戦いに何もしなかった、というのは悔しいのかもしれない。
「良いだろう。お前達全員好きにやってこい」
「ありがとうシュウト!」
「ありがとうございますシュウト様!」
「しっかりとシュウトさんのお役に立って見せますね」
そういうと重鎮9人が嬉しそうに空間を跨いでいく。
全兵士も戦場に移動した事で、城の広場には修斗1人だけになってしまった。
「俺だけで本陣に居てもな……おい」
本陣は随分と酷く荒らされているが、メイド達が急いで片づけをして、修斗がくつろげる場所を作る。
そしてソファーとテーブルを置き、食後のティータイムを満喫していた。
一人掛けソファーの両脇には、修斗付きのメイド2人が待機している。
「暇だな」
ティーカップを置くと、両手はそれぞれ左右に居るメイドのスカートの中へと入っていく。
尻を触られピクリと反応するが、姿勢を乱すまいと必死に我慢している。
我慢する仕草が面白くなり、どこまで耐えられるか遊んでいるのだが、下着の中に指が入った時点で耐えきれずに声を上げた。
その頃前線では9人の重鎮が暴れ回っていた。
そう、言われた通りに好き勝手をしているのだ。
「シュウトに強化してもらった武器を試させてもらうよ!」
パメラは5本の投げナイフを両手に持ち、順番に敵を目がけて投げつける。
ナイフは一瞬で5人に刺さり、そして……貫通して何人もの体を突き抜けていく。
5本のナイフを1回投げただけで100人以上を倒し、ようやく止まったナイフはベルトのホルダーへと戻ってくる。
「ははっ! 便利なもんだねぇ、じゃあ次はこっちだよ!」
2本のナイフを構え、気合いと共に全力で走り出すと、勢いを殺さず敵の真っただ中に、頭の高さに軽くジャンプをする。
体を小さく縮みこませ、腕だけを高速で動かしているのだが……約500メートルほど移動し終えて着地すると、すれ違った敵兵の首が無くなっていた。
何百という頭が地面を転がり、頭の無い首からは血が吹き出していた。
「いいね、刃こぼれどころか切れ味が落ちてないよ。流石だねシュウト」
「はーっはっはっは! 斬れる! 斬れますよシュウト様!」
バーバラは一番多くの武具を強化してもらったのだが、その全てを順番に試して悦に浸っている。
メインの剣は振る事すらせずに、何かが敵を切り裂いていく。
恐らくは目線を移動するだけで斬る方向を決められ、顔を動かすたびにあちこちの敵が切り裂かれてしまうのだ。
そして大きめの盾を前に突きだすと、あたり一帯に雷が降り注ぎ、敵を黒焦げにする。
「ああ~、やっぱり武器はいい! もっともっと武器が欲しいな!」
「あ、ちょっと来ないでくださいますか? シュウトさん以外の男性に触れられたく無いんです」
キャロラインが手を前に出し敵兵を制止させる。
10名近い敵兵は必死に近づこうと、剣を振り下ろそうとしているが、何かに邪魔をされて動けなくなっている。
キュッと手を握ると、敵兵はグシャリと潰されて血がしたたり落ちていく。
「もう、前に出過ぎたのは私ですが、こんなに群がって来るとは思いませんでした」
両手を開いて前に出すと、10本の指先が光り出す。
「収束」
指先から糸の様な光が放たれると敵兵を突き抜けて遠方まで届いている。
腕を内側に交差させると、10本の光は横に流れ、それと同時に大量の敵兵の体がスライスされ、地面に転がる。
他の6人も昨日と同様に暴れ回り、いつしか9人は前線を突き抜けて、敵本陣の前まで来ていた。
本陣詰めの兵士は……何もできずに死んでいく。
「ひっ、ひっ! はっひ、はっ、はっ、はっ、は」
ゲーベルク軍司令官は9人の姿を見て、息が止まりそうだ。
隣にいる副長はすでに気を失っている。
「我らザナドゥ王国、シュウト様に仕える9人の騎士。司令官とお見受けするが、その首、頂戴いたす」
「あ、ああ! あああーーー!!! ああ、ああーー!」
ウィリアム騎士団長が名乗りと共に剣を振り上げると、言葉にならない叫び声をあげて、司令官は足がもつれながら逃げて行った。
「あれ? 逃げちまったよアイツ」
「敵前逃亡とは、けしからん奴だ!」
「戦意喪失した者を、倒す必要はないでしょうかね」
そんな情けをかけられて、ゲーベルク軍司令官は死に物狂いで首都まで逃げ帰るのだが、司令官自身はそこで命を失う事になる。
「陛下! 陛下!」
「なんだ騒々しい。戦いはどうした? ん? 完勝か?」
謁見の間で会合をしていたらしいゲーベルク軍国家の貴族たちは、泥だらけの司令官を見て怪訝そうな顔をしている。
完勝した司令官の姿ではないからだ。
涙を流し、鼻水を垂らし、見た事もない程に情けない表情をしている。
「陛下、陛下! 私はもうダメです、もう無理なのです!」
「さっきから要領を得ないな。しっかりと説明をせんか」
「はい、はい! 我が軍は、我が4万の兵は、3千の敵兵の前に全滅いたしました!」
「な、なんだとぅ!?」
会場がざわめく。
それはそうだろう、勝った後の事しか考えていなかったのに、開戦した翌日には全滅の報告が入ってきたのだ。
しかも司令官自らが。
「陛下……私は、私は夢を見ているのでしょうか。あの悪夢のような戦場は……あの9人の悪夢のような騎士は……陛下……お暇を頂きたく存じます」
そういうと司令官は剣を抜き、自らの胸に突き刺した。
口から血を吐きだし、間もなく息を引き取るのだが、その顔は安堵に満ちていた。
謁見の間は悲鳴も何も上がる事無く、ただただ静寂に包まれるのだった。
応援ありがとうございます!
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