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第3章 異世界召喚

第83話 ヴァージニアの過去

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 食い物マーマンと水には困らないため、ダムの破壊は数日かけてゆっくりと行われた。
 一気に破壊してしまうと下流にある町が水害にあってしまうため、水の流れは激しいが被害が出ない程度の水量に抑えているためだ。

 怪我の治った男勇者たちは、ダムの破壊が終わるまでの間は訓練に費やされていた。
 流石に今のままでは役に立たず、気に入った女さえ奪われるのではないかと不安になったのだろう。
 散発的に魔物が現れる事もあり、腕はグングンとよくなっていく。

「ご主人様……食事の用意ができました」

 ヴァージニアが食事を並べ、夕食が始まる。
 皿こそないが、大きな葉っぱに盛られた食事は数種類あり、旅先とは思えない豪華さだ。

「ヴァージニアってさ、ここに来る前は何をやってたの? なんでもできるのはなんで?」

「私は……奴隷だった」
 
 アイカの質問に、ゆっくりと答えて行くヴァージニア。
 焼かれた肉を口にしながら、修斗以外の5人はヴァージニアの話に耳を傾ける。

「ノームの私は……人間からの扱いが低くて、よく……身長と胸の事でバカにされてた。それでもそういう趣味の人はいるから……食うだけなら困らなかった」

 それはつまり、性奴隷として生活していたと言う事だ。
 しかし全ての主人がそういう訳ではなく、その体を悪く言い、罵られながら奴隷として生きてきた。
 何でもやらされるため、家事全般が必然的に身に付き、狩りにも駆り出されるため腕も良くなる。

 人間よりも少し長寿なノームだが、身体能力が高いわけではなく、背が低いため力では絶対に人間には勝てなかった。

 そんなある日、当時の主人の狩りに付き合わされ、獲物を追いかけていたところを召喚されたのだ。
 何が起きたのか理解は出来なかったが、元の世界には必要ないからこんな場所に連れて来られたんだ、そう思っていたようだ。

 主人のいない自分には存在価値がない。しかも目の前には動物が偉そうにしている。
 全てがどうでも良くなっていた。

 主人すらいない世界で、無為な行動を強いられ、勇者という意味の分からない事を強要される……ヴァージニアにとっては必要のない物ばかりだった。

「でもご主人様が……私を必要としてくれた。生まれて初めて、人に仕えたいって思った。初めて……セックスが気持ちいいって思った」

 淡々と語るヴァージニアだが、聞いてしまったアイカは泣いていた。

「ごめんねヴァージニア! ヘンな事聞いてゴメン!」

 ヴァージニアの首に抱き付き、しきりに謝っている。

「構わない……今の私は幸せだから」

 修斗は今の話を知っていた。
 知っていたが、それは主人になってから聞いた話だ。
 最初にヴァージニアを犯した日、無表情なこの女をイかせまくったらどんな顔をするのか、という下らない興味がわいただけだった。

 結果的にいい方向に進んだのだが、ヴァージニアが良いのならそれでいいのだろう。

「明日にはダムの水が抜けきるだろう。そうしたら町に戻るから準備をしておけ」

「うん、わかったよ!」

「承知しました……ご主人様」

「ところでシュウト君、マーマンの鱗は持って行くのかい?」

 聖騎士ラングレンがさばかれた鱗を持ち、修斗に訊ねる。

「それは役に立つのか?」

「私の世界では、マーマンの鱗は鎧として使われていた。見ての通り硬くて軽いからね」

 手のひらより少し小さな鱗を拳で叩いている。
 音からして堅そうだが、確かに軽くて丈夫だ。

「鱗もそうだが、肉は売れないか? 結構美味いからな」

 ドレッドヘアーのウィークエンドが、料理された肉をフォークに刺して持ち上げる。
 ヴァージニアの腕もあるだろうが、確かに数日間食べていても飽きがこないらしい。

「んならよぅ、このもりはどうなんだぁ? 武器として売れねぇのか? あ~ん」

 モヒカンのウェズが銛を手にする。
 自分たちを苦しめた武器だが、それだけに有用性が分かっているのだろう。

「ふむ……とはいえこの数だからな。何かいい手は無いかな」

 マーマンの数は100ほど。
 数体だけを持って帰るにしても、マーマンは体が大きめなので大変だ。
 ふと、修斗はマーマンが腰にぶら下げていた小袋が目に入る。

 革製の巾着袋きんちゃくぶくろだが、ひもを緩めて中を見る。
 すでに中身は空だが、ステータスはこうなっている。
 
 名称:革製の袋
 耐久力:54
 収納量:3リットル
 動物の皮で作られた腰袋。

 この数値を改変し、次の様な物に作り替えた。

 名称:革製の袋
 耐久力:無限大
 収納量:無限大
 動物の皮で作られた腰袋。
 中に入っている物の時間は停止する。

 これに並べて置かれているマーマンの死体の頭にかぶせると……吸い込まれるように入って行った。
 2匹、3匹と吸い込むが、袋が破れそうな気配はない。

「便利なアイテムを見つけたな。これに全て入れて行こう」

「なにそれなにそれ! シュウト君なにしたの!?」

「こっちの別の袋では無理……流石はご主人様、一目で当たりを引いた」

「なんじゃこりゃぁ~!? なんでもはいるじゃ~ねぇ~かよぉ、あ~ん???」

「魔法の袋、なのか?」

「これはマジックボックスの一種かい? 元の世界で似たものはあったけど、これほどの量は入らなかったよ」

 何やら勝手に解釈してくれたようだが、この世界の事をもっとよく知るまでは、修斗は少しおとなしくしているつもりなので、実力を隠しておけるのならそれでいいようだ。

「今から言う事をよく覚えておけ。マーマンはアイカ、ヴァージニアがメインで倒したが、他の3人も戦いの中で強くなり、この数を倒す事が出来た。俺は魔法で何とかフォローをしていた。いいな?」

「え? う、うんいいけど。でもシュウト君は? 一番敵を倒したのに」

?」

「!? わ、わかったよ」

「良い子だ」

 少し怯えたアイカだったが、頭を撫でられて機嫌が直ったようだ。



 翌朝、ダムの水は膝下にまで減り、もうダムを完全に破壊しても問題が無い水量になった。
 全員でダムを破壊していると、ある物が見つかった。
 マーマンの卵だ。

「デカイ卵があるぞ。20個ほどあった」

 ウィークエンドが20センチ程の卵を1つ拾ってきたのだが、地面に叩きつけようとしてヴァージニアが止めた。

「待って……朝食に使えるかも」

 そして卵料理と肉が並べられた。
 親子丼ではないが、親子料理といって良いのだろうか。
 しかし卵も美味かったため、晴れてお持ち帰りされるのだった。

 町に帰った修斗達は、町を救った英雄として称えられ、食料が大量に入った事で祭りが開催される事になった。
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