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第7章 改変された世界
第356話 説得するには交渉人
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「なんだ? お前は」
「私は県警の説得班、いわゆる交渉人という役職の者です」
真面目そうな男は30代中ごろでメガネをかけている。
人当たりが良さそうだが、交渉人と自ら名乗るという事は相当な自信があるという事だろうか。
「それで、何を説得しようってんだ?」
「まずは目的を聞きたいのです。なぜ女子アナを殺害したのですか?」
「気に入らなかったからだ」
「なるほど、気にいらなかったのならば仕方がありませんが、例えばどんな所が?」
「いきなり腕を掴んで無理やりテレビに出そうとしたからな。この2人を見てみろ、緊張しっぱなしだ」
「腕を掴んで無理やり? それはいけませんね。しかしそのテレビの映像を確認しましたが、一体どうやって女子アナの首を落としたのですか? スローにしても見えなかったので、教えて頂けると嬉しいのですが」
「どうやっても何も、手刀で切り落とした。こんな風にな」
修斗は街灯の前に行き、いきなり街灯を持ち上げた。
どうやらすでに手刀を繰り出した後らしく、修斗の胸辺りの高さで切り離されている。
街灯は高さ4~5メートル程あるが、その長い街灯を片手で持って差し出す。
「……申し訳ない、私の目には何が起きたのか分かりませんでしたが、手刀で切ったのでしょうか?」
「そうだ、ほら、こうやって」
切り口から少し上の部分を触ると、10センチだけ切ったらしく、ポトリと地面に落ちた。
「どうやら私の知っているどの格闘家よりも優れておいでのようですね。しかしそれだけの力があるのなら、もっと以前から有名になっていてもおかしくないのでは?」
「それは無理だろう。俺はこの世界の人間じゃないからな」
修斗の突飛な発言にも交渉人は表情を変えない。
似た事を言う犯人が居たのか、交渉マニュアルに頭のいかれた相手の対処方法が書かれていたのだろうか。
どちらにせよ、この男は冷静さを失っていない。
「この世界の人間じゃないとすると別の世界ですか、そこではあなたのような人達が沢山いるのでしょうか?」
「俺みたいなのは俺だけだろうな。ああ、このアイカに似た奴なら大量にいる」
男はアイカを見ると少しだけ微笑み、直ぐに修斗に向き直る。
「あいかさんのような女性が沢山いるのなら、それはとても楽しそうですね。男にとってはハーレムのような場所でしょう」
「そうだな、俺のハーレムの一員だ。この2人は追加で連れて行くところさ」
「なるほど、あなたのような魅力的な男性にならば、女性は喜んでついて行くでしょうね。ご相伴に預かりたいものです」
「付いて来るか? 命の保証はしないが」
「やめておきましょう。私も命は惜しいので」
ここで一旦会話が途切れる。
本来ならば犯人と交渉人の会話は長すぎてはいけない。
ここまでは鉄則に乗っ取ったやり取りだったが、それは修斗も重々承知の上だ。
これ以上会話をしても修斗の意図が読み取れず、言っている事が本当かウソかもわからない。
「それじゃあ俺達は行く。俺の情報を集めていたと思うが、どのみち俺は死んだはずの人間だからな、その情報は役には立たんぞ?」
交渉人の表情が強張る。
その情報は無線で聞いてはいたものの、家族に確認しても『本物の修斗です』という返事が返って来たため、一体どうなっているのか判断が出来なかった。
しかし本人の口から死んだ人間と言われ、別の世界から来たと言われては、国の記録が間違えているか修斗がウソをついているかのどちらかしかない。
交渉人の選択は……別の世界の住人として修斗と接する事にした。
「では別の世界の住人である修斗君に聞きたいのですが、あちらでは人を殺しても問題は無いのですか?」
「あるさ。だが俺は特別だからな、気にくわない奴は殺す事が多いな」
「特別というのは、力が強いからですか?」
「そうさ。腕力、魔力、権力、資金力、必要な物は全て揃えた」
「……マリョクとは、マンガや映画に出てくるアレですか?」
「それだな。ほら」
手のひらに火の玉を作り出し、交渉人に向けてポイッと放り投げる。
火の玉は交渉人の周りをぐるりと回り、修斗の手元に戻ると消えた。
驚くというよりも信じていないのだろう、交渉人は火の玉をいぶかしげに見ている。
「手品……ではないんですね?」
「手品か、手品とは違うが、タネも仕掛けもある」
「それは手品なのでは?」
「お前はライターで火を付けたら手品というのか? ライターにもタネがあって仕掛けがあるから火がつくんだ。魔法も魔素があって必要な力に変換するから発動するんだ。科学だってそうだろう? なにも無から有を生み出すのが魔法じゃない」
修斗の言葉を反芻しながら理解しようとしているが、流石に魔法の事には理解が追いつかない様だ。
しかし聞きたかった情報の1つを聞けて、交渉人の面目は何とか保たれた。
「魔法は誰でも使えるのでしょうか?」
「才能があれば、な。アイカは魔法が苦手でな、基本的な物しか使えない」
「我々にも才能があれば使えると?」
「大魔法は無理だが、簡単な物は大丈夫だろう」
交渉人の顔がほころんだ。
「私は県警の説得班、いわゆる交渉人という役職の者です」
真面目そうな男は30代中ごろでメガネをかけている。
人当たりが良さそうだが、交渉人と自ら名乗るという事は相当な自信があるという事だろうか。
「それで、何を説得しようってんだ?」
「まずは目的を聞きたいのです。なぜ女子アナを殺害したのですか?」
「気に入らなかったからだ」
「なるほど、気にいらなかったのならば仕方がありませんが、例えばどんな所が?」
「いきなり腕を掴んで無理やりテレビに出そうとしたからな。この2人を見てみろ、緊張しっぱなしだ」
「腕を掴んで無理やり? それはいけませんね。しかしそのテレビの映像を確認しましたが、一体どうやって女子アナの首を落としたのですか? スローにしても見えなかったので、教えて頂けると嬉しいのですが」
「どうやっても何も、手刀で切り落とした。こんな風にな」
修斗は街灯の前に行き、いきなり街灯を持ち上げた。
どうやらすでに手刀を繰り出した後らしく、修斗の胸辺りの高さで切り離されている。
街灯は高さ4~5メートル程あるが、その長い街灯を片手で持って差し出す。
「……申し訳ない、私の目には何が起きたのか分かりませんでしたが、手刀で切ったのでしょうか?」
「そうだ、ほら、こうやって」
切り口から少し上の部分を触ると、10センチだけ切ったらしく、ポトリと地面に落ちた。
「どうやら私の知っているどの格闘家よりも優れておいでのようですね。しかしそれだけの力があるのなら、もっと以前から有名になっていてもおかしくないのでは?」
「それは無理だろう。俺はこの世界の人間じゃないからな」
修斗の突飛な発言にも交渉人は表情を変えない。
似た事を言う犯人が居たのか、交渉マニュアルに頭のいかれた相手の対処方法が書かれていたのだろうか。
どちらにせよ、この男は冷静さを失っていない。
「この世界の人間じゃないとすると別の世界ですか、そこではあなたのような人達が沢山いるのでしょうか?」
「俺みたいなのは俺だけだろうな。ああ、このアイカに似た奴なら大量にいる」
男はアイカを見ると少しだけ微笑み、直ぐに修斗に向き直る。
「あいかさんのような女性が沢山いるのなら、それはとても楽しそうですね。男にとってはハーレムのような場所でしょう」
「そうだな、俺のハーレムの一員だ。この2人は追加で連れて行くところさ」
「なるほど、あなたのような魅力的な男性にならば、女性は喜んでついて行くでしょうね。ご相伴に預かりたいものです」
「付いて来るか? 命の保証はしないが」
「やめておきましょう。私も命は惜しいので」
ここで一旦会話が途切れる。
本来ならば犯人と交渉人の会話は長すぎてはいけない。
ここまでは鉄則に乗っ取ったやり取りだったが、それは修斗も重々承知の上だ。
これ以上会話をしても修斗の意図が読み取れず、言っている事が本当かウソかもわからない。
「それじゃあ俺達は行く。俺の情報を集めていたと思うが、どのみち俺は死んだはずの人間だからな、その情報は役には立たんぞ?」
交渉人の表情が強張る。
その情報は無線で聞いてはいたものの、家族に確認しても『本物の修斗です』という返事が返って来たため、一体どうなっているのか判断が出来なかった。
しかし本人の口から死んだ人間と言われ、別の世界から来たと言われては、国の記録が間違えているか修斗がウソをついているかのどちらかしかない。
交渉人の選択は……別の世界の住人として修斗と接する事にした。
「では別の世界の住人である修斗君に聞きたいのですが、あちらでは人を殺しても問題は無いのですか?」
「あるさ。だが俺は特別だからな、気にくわない奴は殺す事が多いな」
「特別というのは、力が強いからですか?」
「そうさ。腕力、魔力、権力、資金力、必要な物は全て揃えた」
「……マリョクとは、マンガや映画に出てくるアレですか?」
「それだな。ほら」
手のひらに火の玉を作り出し、交渉人に向けてポイッと放り投げる。
火の玉は交渉人の周りをぐるりと回り、修斗の手元に戻ると消えた。
驚くというよりも信じていないのだろう、交渉人は火の玉をいぶかしげに見ている。
「手品……ではないんですね?」
「手品か、手品とは違うが、タネも仕掛けもある」
「それは手品なのでは?」
「お前はライターで火を付けたら手品というのか? ライターにもタネがあって仕掛けがあるから火がつくんだ。魔法も魔素があって必要な力に変換するから発動するんだ。科学だってそうだろう? なにも無から有を生み出すのが魔法じゃない」
修斗の言葉を反芻しながら理解しようとしているが、流石に魔法の事には理解が追いつかない様だ。
しかし聞きたかった情報の1つを聞けて、交渉人の面目は何とか保たれた。
「魔法は誰でも使えるのでしょうか?」
「才能があれば、な。アイカは魔法が苦手でな、基本的な物しか使えない」
「我々にも才能があれば使えると?」
「大魔法は無理だが、簡単な物は大丈夫だろう」
交渉人の顔がほころんだ。
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