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38 フェンルースの血の秘密
しおりを挟む目を覚ますと自分の部屋で驚いたと同時に声がかかった。
「アリー、気分はどうだい?」
「お、お兄様……ええ、大丈夫です。すみません、きっと昨夜から……」
「ふふ、良かった。朝食は食べられそう? 」
「……スープくらいなら」
きっと一晩中お兄様が隣にいてくれたんだ。あー……情けない。最近は倒れてもすぐ起きられたのに、こんなに心配をかけてしまうなんて……あれもこれも全部……!
「わ、私に文句を言う奴が悪いっ!」
思わず拳を振り上げたらお兄様がぎょっと目を見開いた。
「アリーに文句をいうやつなんていないだろう? 」
「えっ昨日いたじゃないですか、何人も」
ものすごい罵詈雑言の数だったもの。
「……アリー、昨日は君のことは褒めたたえる人はいても、君を悪くいうやつなんて一人もいなかったよ」
「え……? だって私が歌い出したら前みたいに聞こえてきましたよ……下手くそとか」
あっ……思い出してもちょっと心が痛い。確かに私はそんなに歌は上手じゃない。だって子供の頃からちょっとメロディを口ずさむとすぐ悪口が飛んでくるんだもん。そんな風に歌わずにいるんだから上手になる訳ないじゃない。
「誰も、そんなことは言ってないよ……もしかして、アリシアだけに、聞こえた? 」
「え?」
そんなことってあるのかしら??まさかそんな。
「ちょっと義父上と義母上に話を聞こう、これは……」
「え、ええ……」
部屋で朝食を食べようかと思っていたけれど、とても気になる。食堂にいるであろうお父様とお母様の元へ二人で急いで向かった。
「義父上、義母上、アリシアの話を聞いてください」
「エヴァン、アリシアは元気になったんだね! 良かった」
「ああ、良かったアリシアちゃん。エヴァンもありがとうね……そして朝の挨拶をする前に話ってそれくらい重要な事なの? 」
「ええ、重要です」
え、そんなに重要だったの……私もびっくりしたけれど、とにかく椅子に座り悪口が聞こえた話をお父様とお母様に聞かせた。
「……アリシア、そんなに子供の頃からそれは聞こえるのかい?」
「はい、ちょっと下品な笑い声と一緒に……」
「それは我が家の庭で近くに私たち家族と使用人しかいないのに聞こえたのね」
「え、ええ……あれ……」
思えばおかしいはなしだわ。周りに知らない人は誰もいない状況、我が家の人間ならたとえ私がおならをしたとしても「あら、天使のラッパかしら?」なんてとんでもないことは言っても笑ったり悪口を言ったりするわけがない。そうだ、一体私は誰に笑われていたの……?あまりにいつも過ぎて「誰なのか」と考えたことがなかったわ……。
「ア、アリシアお前……妖精の声が聞こえるのか!! 」
「よ、妖精の声……?」
えっあんなお下品な笑いが妖精の声なの!?嘘でしょう!
私が目を丸くしているとお父様とお母様はフェンルース家に伝わる話を教えてくれた。
「フェンルースは知っての通り遠い祖先に妖精の血を受け継いだと言われている。血はどんどん薄まり、妖精の姿や声を見ることが出来るものはほとんどいなくなってしまった……。しかし私とナリシアは妖精の姿を少しだけ垣間見せることができる……そう、それが音楽だ」
「妖精は元来楽しい事が大好き。特に音楽や歌を好むのだそうです。だから、私達が陽気な音楽を奏でると妖精たちはやってきて……あの光の姿を見せてくれる。光の姿でも見た者は幸せが訪れるといわれているのよ」
「そうなんですね……」
子供の頃からお父様とお母様が曲を奏でると光の玉が飛ぶのは知っていたけど、魔法じゃなかったんだぁ。知らなかったわ。
「だから私はその曲には入らない。私にはフェンルースの血が流れていないから……私が参加すると光が消えるのは知っているだろう? 」
「……はい」
お兄様があの時に一緒に合奏しなかったのはそういう事なんだ。お兄様が入ると光は消える……楽器の演奏はお兄様が一番上手なのに不思議だったけれど、これはフェンルースの血故のことだったとは……。妖精、感じ悪いわ。
「私とナリシアの血筋の交わったアリシア……姿だけではなく、声まで聞こえるとはフェンルースの血が濃く出てしまったんだな……」
「ごめんなさい、アリシアちゃん……今まで気が付かずにいたなんて。妖精は……酷いことを口にするのかしら? 」
「わ、私もお父様とお母様にご報告していなかったので……まさか私にだけ聞こえていたなんて」
だって、物凄くはっきり聞こえるのよ?かなり近くから喋っているように。あ、確かに光の玉は傍にいたかも……。とりあえず両親に昨日の悪口を覚えている限り教えると二人とも目はまんまる、口はぽかんと開けて驚いていた。
「よ、妖精ってそんなにお口が悪いの……?」
「あんなに美しい光なのに……そりゃ酷い」
「よく頑張ったね……アリー」
お兄様、泣かなくても宜しいのよ……。
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