8 / 54
8 お腹、空いたなあ
しおりを挟む
「お腹、空いたなあ……」
水は外の井戸にいっても、誰もいない時間帯の厨房へ行っても飲めることが分かった。それでも2.3日食料が手に入らないと腹は減る。
私を虐げてもいい存在だとメイド達は決めたようで、誰一人私の部屋に近づかなくなった。起こしに来ることもない、食事を運んでくることもないし、洗濯や掃除も勿論ない。
「うーむ……」
立派なクローゼットの中には何もない。勿論立派な鏡台の中身も、立派な机の中にも何も入っていない。この部屋にある物は全て見た目は立派だが使える何もなかった。
「流石に困った……」
着替える服もないから同じ服を着ている。元々着替えはあったのだが、洗濯をすると持っていかれたっきり持って帰って来てくれないので今着ているブラウスとズボンしかないのだ。誰かに聞こうにも凄い勢いでどこかへいなくなってしまってどうしようもない。
一度厨房へ顔を出したら、物凄い顔で睨まれて退散してきた。
「まだ耐えられるけど……もうすぐ限界が来る……」
反省室に閉じ込められ、水しか出されない事は何度もあったがそれでも数日後には引き出された。
「お兄様を許してやってください……お願いします」
そうやってアメシスが公爵様に泣きついたんだろう。きっと私にさせる新しい悪事でも思いついたんだろうね。それかやめさせたいメイドがいたか、単に暇だったのか。まあ今となってはどうでもいいかな。
でも、この状況はきっと永遠に続くだろう。流石に永遠に耐え続けることは出来ない。
「そうか……結婚した事実と名前さえあれば、私は死んでいた方が便利なのか」
なるほど、と思いつつも「死にたくない」と思う。ふと、窓の外を見ると少し奥に誰かの菜園が見える。8歳まで平民として暮らしていたから、畑の事は分かるから、そこに食べ物が植えてあることに気が付いた。
「……行ってみよう。何か分けてくれるかも……」
きっとこんな大きなお屋敷で働いているんだ。余裕くらいあるだろう。軟禁する気はなかったのかベランダの手すりをまたいで外に出ることが出来た。戻ってくるのも簡単そうだったから助かる。
「おっとっと……」
空腹で足元がふらついたけれど、何とか歩くことは出来る。優しい人の畑だといいなあと思いながら、ふらふらとそちらへ向かった。
「どちらさんで?」
「えっと……数日前にこちらのお屋敷に来たのですが……すいません、お腹が空いて。何か食べる物を分けていただけたらと……」
論より証拠という訳ではないけれど、私のお腹がぐーーーーーーーきゅるる、となんとも情けない音を派手にならしたので、この畑の主に全て真実だと伝わった。
「……確かふかし芋があったはず」
「い、芋っ……!」
平民時代の私の大好物だ。貴族になってからはそんなモノと言われて食べさせてもらえたことはなかった。ああ、お芋、ほこほこのお芋……。空腹で眩暈がする。
「ほら、食え」
「あああああああ、いただきますううううう」
お芋は冷めていてあまりほこほこしていなかったけれど、美味すぎる。どうして貴族はこんなに美味しいお芋に訳の分からないソースをたっぷり塗って良く分からない味にして喜ぶんだろう。不思議だった。ちょっと行儀が悪いな、とは思ったけれど、もう貴族じゃないんだと手で掴んで……相当必死に食べていたらしい。
「お前さん、よっぽど腹が減っていたんだなあ」
「ご飯が……もぐもぐ……貰えなくて……美味しい!」
「ふむ……。服もなんだか酷いなあ」
「これしか、もぐもぐ、なくて」
「ふーむ……」
この畑の主はおじさんとおじいさんの中間みたいな人でとても優しかった。庭師みたいなもんだと言っていてとても優しい人だった。
「ほれ、芋とトマト。そしてワシの着ていない服じゃ。着の身着のままよりマシじゃろう」
「あ、ありがとうございます!このお礼は一体どうしたら……?」
おじいさんはちょっと考えてから
「そうだのう、考えておくからまた来なさい」
「また来て良いんですか!?」
「勿論じゃよ」
「死ななくて済んだー!」
私は何度もお礼を言って部屋に戻る事にした。誰も見に来ないとはいえ、あちこちウロウロするなと言われている。何も用事がなければ部屋にいるべきだろう。
「ふかしたお芋に、トマト。キュウリもある。ああーなつかしいなあ。きゅうりそのままだー……いや、いっぺんに食べちゃ駄目だ。この先どういう状況になるか分からないから……まだ腐らないだろうしちょっとづつ食べよう」
部屋の中のなるべく日が当たらない涼しそうな場所に食料を置いて眠りに落ちる。最近空腹で良く寝られなかったから、やっと熟睡できるようになった。
水は外の井戸にいっても、誰もいない時間帯の厨房へ行っても飲めることが分かった。それでも2.3日食料が手に入らないと腹は減る。
私を虐げてもいい存在だとメイド達は決めたようで、誰一人私の部屋に近づかなくなった。起こしに来ることもない、食事を運んでくることもないし、洗濯や掃除も勿論ない。
「うーむ……」
立派なクローゼットの中には何もない。勿論立派な鏡台の中身も、立派な机の中にも何も入っていない。この部屋にある物は全て見た目は立派だが使える何もなかった。
「流石に困った……」
着替える服もないから同じ服を着ている。元々着替えはあったのだが、洗濯をすると持っていかれたっきり持って帰って来てくれないので今着ているブラウスとズボンしかないのだ。誰かに聞こうにも凄い勢いでどこかへいなくなってしまってどうしようもない。
一度厨房へ顔を出したら、物凄い顔で睨まれて退散してきた。
「まだ耐えられるけど……もうすぐ限界が来る……」
反省室に閉じ込められ、水しか出されない事は何度もあったがそれでも数日後には引き出された。
「お兄様を許してやってください……お願いします」
そうやってアメシスが公爵様に泣きついたんだろう。きっと私にさせる新しい悪事でも思いついたんだろうね。それかやめさせたいメイドがいたか、単に暇だったのか。まあ今となってはどうでもいいかな。
でも、この状況はきっと永遠に続くだろう。流石に永遠に耐え続けることは出来ない。
「そうか……結婚した事実と名前さえあれば、私は死んでいた方が便利なのか」
なるほど、と思いつつも「死にたくない」と思う。ふと、窓の外を見ると少し奥に誰かの菜園が見える。8歳まで平民として暮らしていたから、畑の事は分かるから、そこに食べ物が植えてあることに気が付いた。
「……行ってみよう。何か分けてくれるかも……」
きっとこんな大きなお屋敷で働いているんだ。余裕くらいあるだろう。軟禁する気はなかったのかベランダの手すりをまたいで外に出ることが出来た。戻ってくるのも簡単そうだったから助かる。
「おっとっと……」
空腹で足元がふらついたけれど、何とか歩くことは出来る。優しい人の畑だといいなあと思いながら、ふらふらとそちらへ向かった。
「どちらさんで?」
「えっと……数日前にこちらのお屋敷に来たのですが……すいません、お腹が空いて。何か食べる物を分けていただけたらと……」
論より証拠という訳ではないけれど、私のお腹がぐーーーーーーーきゅるる、となんとも情けない音を派手にならしたので、この畑の主に全て真実だと伝わった。
「……確かふかし芋があったはず」
「い、芋っ……!」
平民時代の私の大好物だ。貴族になってからはそんなモノと言われて食べさせてもらえたことはなかった。ああ、お芋、ほこほこのお芋……。空腹で眩暈がする。
「ほら、食え」
「あああああああ、いただきますううううう」
お芋は冷めていてあまりほこほこしていなかったけれど、美味すぎる。どうして貴族はこんなに美味しいお芋に訳の分からないソースをたっぷり塗って良く分からない味にして喜ぶんだろう。不思議だった。ちょっと行儀が悪いな、とは思ったけれど、もう貴族じゃないんだと手で掴んで……相当必死に食べていたらしい。
「お前さん、よっぽど腹が減っていたんだなあ」
「ご飯が……もぐもぐ……貰えなくて……美味しい!」
「ふむ……。服もなんだか酷いなあ」
「これしか、もぐもぐ、なくて」
「ふーむ……」
この畑の主はおじさんとおじいさんの中間みたいな人でとても優しかった。庭師みたいなもんだと言っていてとても優しい人だった。
「ほれ、芋とトマト。そしてワシの着ていない服じゃ。着の身着のままよりマシじゃろう」
「あ、ありがとうございます!このお礼は一体どうしたら……?」
おじいさんはちょっと考えてから
「そうだのう、考えておくからまた来なさい」
「また来て良いんですか!?」
「勿論じゃよ」
「死ななくて済んだー!」
私は何度もお礼を言って部屋に戻る事にした。誰も見に来ないとはいえ、あちこちウロウロするなと言われている。何も用事がなければ部屋にいるべきだろう。
「ふかしたお芋に、トマト。キュウリもある。ああーなつかしいなあ。きゅうりそのままだー……いや、いっぺんに食べちゃ駄目だ。この先どういう状況になるか分からないから……まだ腐らないだろうしちょっとづつ食べよう」
部屋の中のなるべく日が当たらない涼しそうな場所に食料を置いて眠りに落ちる。最近空腹で良く寝られなかったから、やっと熟睡できるようになった。
336
あなたにおすすめの小説
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
悪役令息(Ω)に転生したので、破滅を避けてスローライフを目指します。だけどなぜか最強騎士団長(α)の運命の番に認定され、溺愛ルートに突入!
水凪しおん
BL
貧乏男爵家の三男リヒトには秘密があった。
それは、自分が乙女ゲームの「悪役令息」であり、現代日本から転生してきたという記憶だ。
家は没落寸前、自身の立場は断罪エンドへまっしぐら。
そんな破滅フラグを回避するため、前世の知識を活かして領地改革に奮闘するリヒトだったが、彼が生まれ持った「Ω」という性は、否応なく運命の渦へと彼を巻き込んでいく。
ある夜会で出会ったのは、氷のように冷徹で、王国最強と謳われる騎士団長のカイ。
誰もが恐れるαの彼に、なぜかリヒトは興味を持たれてしまう。
「関わってはいけない」――そう思えば思うほど、抗いがたいフェロモンと、カイの不器用な優しさがリヒトの心を揺さぶる。
これは、運命に翻弄される悪役令息が、最強騎士団長の激重な愛に包まれ、やがて国をも動かす存在へと成り上がっていく、甘くて刺激的な溺愛ラブストーリー。
【Amazonベストセラー入りしました】僕の処刑はいつですか?欲しがり義弟に王位を追われ身代わりの花嫁になったら溺愛王が待っていました。
美咲アリス
BL
「国王陛下!僕は偽者の花嫁です!どうぞ、どうぞ僕を、処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(笑)」意地悪な義母の策略で義弟の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王子のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯?(Amazonベストセラー入りしました。1位。1/24,2024)
【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話
降魔 鬼灯
BL
ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。
両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。
しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。
コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる