64 / 139
64 騎士団長とか言う男
しおりを挟む
クロードは最近機嫌が良くない。自分でも自覚していて、そのせいで部下が萎縮しているのも気がついている。しかし、どうも駄目なのだ。
「陛下の執務室へ行く途中だが?」
「……奇遇だな、私も第二保管庫へ用事がある」
「「朝からお前の仏頂面を見なければならんとは。今日は厄日か?」」
「「黙れ、うるさい。弱い者ほど良く囀る」」
「「何だと?!」」
自分達の地位は高い、部下もたくさんいる。そんな自分達が揉めている姿を見せるのは良くないと分かっていてもどうも止められない……。
本当にしたい事、本当に交わしたい言葉は行ってはいけない事なのだから。あの睨みつける瞳の奥に蹲る炎の熱さに気が付いたのは学生の頃だったか。胸に手を当て思い起こせば同じ炎を自分も抱えている事。お互いにそれを包み隠し毎日くすぶり続ける苦しみに悶えている事。
「……陛下に呼び出されたのだったか」
「ああ……ディエス様もご一緒だ」
その返事はどういう意味か。絶対に二人きりではないと言いたいのか。陛下は新しく迎えられた側妃のディエス様を大層お気に召して目移りすることなどないだろうが、氷で出来ているようで熱く燃え盛るような白百合は美しいから……。
「陛下は、百合は好かんらしい。もっぱらアイリスのみ愛している」
「……聞き及んでいる」
近衛騎士達が陛下の護衛につくこともある。無論、夜間もだ。まだまだ王としてはお若い陛下が新しいく美しい花を愛でぬわけがない、しかも望んで手に入れたものならば尚更。クロードの表情はとても苦い。
「だから……」
「……」
その先の言葉は聞かなくても分かっている。心配ない、そう言うんだろう?だが、分かっていてもざわつく心を押さえるのは中々難しい。
その苛立ちが周りに伝播する、悪循環。
「本当に仕事の話しかしないのだ。こちらも真剣に向き合わねば、宰相の座から引きづり落されそうだ」
「はは……「せいせいする」」
「「黙れ」」
お前が失敗すれば、自分達のこの絶対に埋まらぬ関係に少しはひびが入るだろうか……この心が少しでも慰められる結果が訪れるだろうか。何度も何度も自問自答したことをもう一度クロードは心の中で繰り返す。
「ない、だろうがな。側妃の「アイリスの君」はお優しい。私の力を高く評価してくださっている」
「そうか「残念だ」」
良かったな、と素直に褒めてやることもできない。言いたいこととは逆の心にもない台詞を口から吐き出さなくてはならない。良かったな、心配だ、側に居たい……言えたならどれほど楽になれるのだろうか。
二人の中を誤解されないよう、わざと不仲に見えるよう振る舞っている。それが部下達の不和をもたらしている事……しかし、これ以上は……。
クロードとセイリオスは肩を並べて歩いていると陛下の執務室まですぐに着いてしまった。扉の前に立っている衛兵が姿勢を正して礼をする。
「陛下に呼ばれ、参上した。扉を開けてくれ」
衛兵は少しだけ躊躇ってから
「あの、少しだけ……お待ち下さい」
苦笑いをして、口の前に人差し指を立てた。静かにしろ、と言う事だ。すると聞くつもりは全くないのだが、執務室の中でのやり取りがうっすら聞こえて来る。
「えー?クッキー食わせろ?口に入れろって事か?」
「うむ、私はまだ仕事が残っていて両手が塞がっている。お前は終わったのだろう?」
「終わったけどさー。しゃーねーなぁ、ほら、あーん」
「ん」
「ほら、口開けろ。あーん」
「ん」
これは陛下が側妃殿に「あーん」とか言われながらクッキーを食べさせてもらっているのか……っ?!握り拳に力が入り、短い爪が手のひらに食い込むようだ。
「すいません、今声をかけると陛下の機嫌が悪くなりますから……」
なるほど、この衛兵はよく分かっているのだな……!それにしても……っ!
「き、騎士団長様……ひっ!?さ、殺気??!も、もう少し、もう少しだけ、お、お待ちおおおお……!ひぃいいーーー!」
「な、何でもない……う……」
う ら や ま し い
「ク、クロード、騎士団長……?」
「何でも……何でも、ない……っ」
私も、私も……セイに、あーんとかして貰いたいっっ!!この苛立ち、どこにぶつけたら良いんだ!!!
「ひ、ひぃ……!」
あまりのクロードの嫉妬が限界を突破した殺気に衛兵は腰が抜ける寸前だった。
「陛下の執務室へ行く途中だが?」
「……奇遇だな、私も第二保管庫へ用事がある」
「「朝からお前の仏頂面を見なければならんとは。今日は厄日か?」」
「「黙れ、うるさい。弱い者ほど良く囀る」」
「「何だと?!」」
自分達の地位は高い、部下もたくさんいる。そんな自分達が揉めている姿を見せるのは良くないと分かっていてもどうも止められない……。
本当にしたい事、本当に交わしたい言葉は行ってはいけない事なのだから。あの睨みつける瞳の奥に蹲る炎の熱さに気が付いたのは学生の頃だったか。胸に手を当て思い起こせば同じ炎を自分も抱えている事。お互いにそれを包み隠し毎日くすぶり続ける苦しみに悶えている事。
「……陛下に呼び出されたのだったか」
「ああ……ディエス様もご一緒だ」
その返事はどういう意味か。絶対に二人きりではないと言いたいのか。陛下は新しく迎えられた側妃のディエス様を大層お気に召して目移りすることなどないだろうが、氷で出来ているようで熱く燃え盛るような白百合は美しいから……。
「陛下は、百合は好かんらしい。もっぱらアイリスのみ愛している」
「……聞き及んでいる」
近衛騎士達が陛下の護衛につくこともある。無論、夜間もだ。まだまだ王としてはお若い陛下が新しいく美しい花を愛でぬわけがない、しかも望んで手に入れたものならば尚更。クロードの表情はとても苦い。
「だから……」
「……」
その先の言葉は聞かなくても分かっている。心配ない、そう言うんだろう?だが、分かっていてもざわつく心を押さえるのは中々難しい。
その苛立ちが周りに伝播する、悪循環。
「本当に仕事の話しかしないのだ。こちらも真剣に向き合わねば、宰相の座から引きづり落されそうだ」
「はは……「せいせいする」」
「「黙れ」」
お前が失敗すれば、自分達のこの絶対に埋まらぬ関係に少しはひびが入るだろうか……この心が少しでも慰められる結果が訪れるだろうか。何度も何度も自問自答したことをもう一度クロードは心の中で繰り返す。
「ない、だろうがな。側妃の「アイリスの君」はお優しい。私の力を高く評価してくださっている」
「そうか「残念だ」」
良かったな、と素直に褒めてやることもできない。言いたいこととは逆の心にもない台詞を口から吐き出さなくてはならない。良かったな、心配だ、側に居たい……言えたならどれほど楽になれるのだろうか。
二人の中を誤解されないよう、わざと不仲に見えるよう振る舞っている。それが部下達の不和をもたらしている事……しかし、これ以上は……。
クロードとセイリオスは肩を並べて歩いていると陛下の執務室まですぐに着いてしまった。扉の前に立っている衛兵が姿勢を正して礼をする。
「陛下に呼ばれ、参上した。扉を開けてくれ」
衛兵は少しだけ躊躇ってから
「あの、少しだけ……お待ち下さい」
苦笑いをして、口の前に人差し指を立てた。静かにしろ、と言う事だ。すると聞くつもりは全くないのだが、執務室の中でのやり取りがうっすら聞こえて来る。
「えー?クッキー食わせろ?口に入れろって事か?」
「うむ、私はまだ仕事が残っていて両手が塞がっている。お前は終わったのだろう?」
「終わったけどさー。しゃーねーなぁ、ほら、あーん」
「ん」
「ほら、口開けろ。あーん」
「ん」
これは陛下が側妃殿に「あーん」とか言われながらクッキーを食べさせてもらっているのか……っ?!握り拳に力が入り、短い爪が手のひらに食い込むようだ。
「すいません、今声をかけると陛下の機嫌が悪くなりますから……」
なるほど、この衛兵はよく分かっているのだな……!それにしても……っ!
「き、騎士団長様……ひっ!?さ、殺気??!も、もう少し、もう少しだけ、お、お待ちおおおお……!ひぃいいーーー!」
「な、何でもない……う……」
う ら や ま し い
「ク、クロード、騎士団長……?」
「何でも……何でも、ない……っ」
私も、私も……セイに、あーんとかして貰いたいっっ!!この苛立ち、どこにぶつけたら良いんだ!!!
「ひ、ひぃ……!」
あまりのクロードの嫉妬が限界を突破した殺気に衛兵は腰が抜ける寸前だった。
826
あなたにおすすめの小説
婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。
フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」
可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。
だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。
◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。
◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する
SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
過労死転生した公務員、魔力がないだけで辺境に追放されたので、忠犬騎士と知識チートでざまぁしながら領地経営はじめます
水凪しおん
BL
過労死した元公務員の俺が転生したのは、魔法と剣が存在する異世界の、どうしようもない貧乏貴族の三男だった。
家族からは能無しと蔑まれ、与えられたのは「ゴミ捨て場」と揶揄される荒れ果てた辺境の領地。これは、事実上の追放だ。
絶望的な状況の中、俺に付き従ったのは、無口で無骨だが、その瞳に確かな忠誠を宿す一人の護衛騎士だけだった。
「大丈夫だ。俺がいる」
彼の言葉を胸に、俺は決意する。公務員として培った知識と経験、そして持ち前のしぶとさで、この最悪な領地を最高の楽園に変えてみせると。
これは、不遇な貴族と忠実な騎士が織りなす、絶望の淵から始まる領地改革ファンタジー。そして、固い絆で結ばれた二人が、やがて王国を揺るがす運命に立ち向かう物語。
無能と罵った家族に、見て見ぬふりをした者たちに、最高の「ざまぁ」をお見舞いしてやろうじゃないか!
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる