【完結】廃棄王子、側妃として売られる。社畜はスローライフに戻りたいが離して貰えません!

鏑木 うりこ

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86 見捨てた国

「まずい、まずい……」

 時は遡り、まだ夏の頃。場所は帝国ではなく、ソルリアという国。ディエスが育った国であり、ディエスを売った国であり……ディエスが見捨てた国である。


「約束が違うではないか!」

「そう言われましても、事が事だけに以前よりのお約束通りに小麦をお売りする事は出来ませぬ」

 帝国が高値で小麦を買い集めていると言う噂は近隣諸国にあっという間に広がった。今年は冷夏になり、小麦の生産量が激減するから、沢山の民を飢えさせぬ為の政策だと言う発表と共に。

 近くの国々の対応は分かれた。冷夏ならば自国も他人事ではない。帝国に倣い小麦は高値で買い、輸出は控えて冷夏に備える国。
 冷夏など大した事は無いはずだと、今がチャンスとばかりに外貨を稼ぐ為に小麦を輸出する国に。
 ソルリアは輸出をして、大量の外貨を手に入れた。自国で消費する小麦すら足りなくなりそうだったが、長年隣国の農業国と結んで来た契約がある。
 その契約通りに小麦を輸入すれば問題ないと宰相は考え、議会もそれに追随したがここにきてその根本が崩れたのだ。

「今までの値段で小麦が売れないとはどう言う事だ!!」

「当たり前ではないですか。今年は冷夏です。小麦は取れぬ。量は減り、価格が上がるのは必然。元より契約書にも記載がありまする。この価格は平時であればこそ。緊急時にはこれの限りではないと」

「しかし!」

 食い下がる宰相に、隣国は当然一歩も譲らない。

「それにそちらは帝国相手に随分と儲けていらしたようだ。その金で他を当たっては如何なものかな?」

 宰相は渋い顔をするしかない。農業国である隣国が直接帝国に売りに行けば良いのだ。ソルリアを通過する義理など何一つない。街道はソルリアを避けても帝国まで続く道はいくらでもある。

「ぐ……」

 この約束を当てに小麦を輸出したのだ。それなのにあっさり掌を返された……そう思うのはソルリアだけだろう。他国にしてみれば「この冷夏に何を言っているんだ?当たり前だ」と余りに杜撰な考えに溜息しか出ない、そんな所だ。

「ぐぬぬ……」

 八方手をつくし自分達が輸出した価格より安い小麦を探すがある訳がない。ソルリアが帝国に小麦を売りつけたのはまだ早いうちにだった。日が経つにつれ、小麦が取れない事が確定してくると、価格は鰻登りに上がって行って今では手放した時の20倍以上の価格になっている。

「う、嘘だ……」

「嘘ではありません……しかしなんとか確保しなければ我が国はこの冬を越す事は出来ませぬ……」

 愕然とするも、蓄えを全て売ってしまって、無いものはないのである。むしろ20倍でも手に入れば良い方だ。どこの国も自国民を飢えさせぬ為、食糧の輸出はほとんど止めていた。

「しかし……いやだが、背に腹は変えられぬ!!」

 宰相にしてみれば血を吐く想いだったが、あの無能と切り捨てたディエスに手紙を書くしかなかった。国内を冷静に見渡してみれば、帝国と言う巨大な国に側妃とは言え嫁いだディエスが一番有力な他国との繋がりを持っていたのだ。

「あの無能に!あの無能に!!」

 そんな想いが乗ってしまったかなり失礼な手紙が帝国に届けられる。

「夏前にそちらに預けた小麦を返せ?なんかすげー手紙届いた。凄すぎて笑うー!!」

 皇帝ラムシェーブルが口をへの字に曲げ、側妃ディエスが大笑いした手紙は着いたが、返事はとても丁寧だった。

「私はもう帝国の人間です。お互いに自国の為に頑張りましょうね」

 勿論、宰相は顔を真っ赤にしてその手紙を裂いた。何度手紙を書いても返事は同じ。

「また来た!!笑うーーー!紙の無駄ーーー!」

 来る度にディエスは大爆笑し、ラムシェーブルは眉間に皺を寄せ……ディエスの返事も2回に一回になり、どんどん返さなくなり……とうとう音沙汰が無くなる。

「こんなんに付き合ってる暇なんかねーっつーの!」

 ディエスが呆れて返信をしなくなった頃には小麦の値段は更に上昇していた。

「くっ!元の20倍では我が国の損益が恐ろしい事になるが致し方ない!」

 20倍でも良いから売ってくれと手紙がつく頃には、小麦の市場価格は既に100倍を超えていた。

「ソルリアの宰相殿は……無能なのか?」

 ディエスに「祖国からの阿呆な手紙は無視して」と言われている書記官達は中身を見て呆れ顔だった。

「本当に紙の無駄だなぁ」

 手紙が来ていた事、随分安い値段で売るように指示が書かれていた事だけを伝える報告書をディエスに提出する。そして元の手紙は一応保管と言う形で処理されていた。

「この価格なら雑穀くらいか?」

「まだ来年の予想も出てないし、雑穀でも厳しそうだなぁ」

 これがもし、もっともっと早い時期に雑穀でも何でも良いから支援して下さいと頭を下げる手紙であったなら、ディエスは手を打っただろう。
 しかし、常に高慢に上から見下ろすような手紙に、市場価格を知らないとしか思えない価格でしかも返せとかかれていては頷く訳には行かない。

「俺が見下されてるのはまだしも、この話を受けると言う事は帝国がその程度だと思われる事だ。無理だな」

 ソルリアではかなり早いうちから餓死者が出ていた。


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