【完結】廃棄王子、側妃として売られる。社畜はスローライフに戻りたいが離して貰えません!

鏑木 うりこ

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89 最大級の阿呆と棘みっちりの百合

「あ、秋に我がソルリアより大量の小麦をこちらに輸出致しました!そのお陰で帝国は小麦が足りておると聞き及んでおります!余剰分を我が国に返却下さい!」

 数多くの阿呆を見てきたが、こいつってこんなに阿呆だったんだ。俺は過去最大級の阿呆との遭遇に寒気が走り、ぶるりと震えた。

 そんでセイリオスは何もかもが突破して面白くなったようで肩を震わせている。一度ラムと俺を見たのでやって良いか?のサインだろう。ラムは頷き、俺は

「付き合いきれない、完膚無きまでに叩き潰して」

 小さくソルリアの奴らには聞こえないように言う。心得たとばかりに氷で出来た綺麗な白百合が隠していた牙を光らせる。クロードが心配で溜まりまくっている鬱憤をここで晴らそうと言う事か。良いよやっちゃえ!

「何を仰られるか、ソルリアの宰相殿よ。あれは正当な取引であったではないですか。返却せよは異な話。我が帝国はそちらの国の倉庫扱いですかな?はは、ご冗談が過ぎますぞ?譲歩して倉庫だとしても、保管料がかかる事はご存じないか?そちらの国では無料で品物を預かる奉仕活動があったとは知りませんでした」

 この百合には棘が生えているぞ、しかもみっちりたっぷり。

「え……そ、そのような事は……」

 初手からソルリアはもう棘にめった刺しにされて死んだようなものだった。綺麗なものにはなんかあるって知らなかったんだろうか?

「いえいえ、そのように便利であれば是非使用させていただきますよ。ソルリアからの小麦は夏の、その頃の正当な価格で買い取ったと書類があります。しかもわが国の管理官は何度も確認したと書かれておりますな。「これから天候が崩れ小麦が稀少になりますが、売ってよろしいのですか?」と。それに「宰相様と議会の決定なので問題ないです」と返答が来て、更に一筆書かれているそうです。それにとやかく今更言われても困惑を隠しきれませんよ?」

「ぐ、ぐう……」

 ぐうの音が出た。ハハ笑える……。それでもまだ言いたそうだからどうやら宰相は随分と追いつめられているみたいだ。きっとソルリアの王様からこの失策について責任を取れとか言われてるんだろうな。だからエイダン王太子を連れてまわざわざ来たんだろうけどさ。

「そ、そうだとしても……あれだけ小麦があれば余剰がありましょうぞ!それをわが国へ……」

「余剰などあるはずもない。民を飢えさせぬよう、わが国では色々な作物を推奨してきた。鳥の餌だと笑われようが我らの領地に雑穀を植え、芋を植え。そしてそのおかげで死者を減らす事に成功している。小麦に余剰?あるはずもない。何故そのような考えになったのか知らぬが、ソルリア国の宰相殿は我が帝国の抱える民のの数を全く知らないと見える」

「た、民など……飢えさせておけばよかろう!」

 俺の腰に手を当てたままだったラムの腕にピクリと力が籠った。そうだな、俺もラムと同じ意見だ。きっとソルリアの宰相は帝国貴族が食べる小麦の事しか最初から考えていなかったんだろう。だから貴族が小麦を食う量を考えれば、ソルリアや近隣各国から高値で買い集めた小麦には余剰が出ているはず、と悪い頭を回転させて考えたんだろう。
 でもラムの指示の元、帝国ではそんなことはしなかった。確かに貴族は平民に比べたら小麦をたくさん食べている。しかし、雑穀を食べる事も推奨したし、俺達も一日の内で一回以上は雑穀や芋を食っている。そして比率は悪いが平民だって週に何度かは小麦のパンなどを口に運べるようになっている。
 小麦を貴族で独占してしまう事を良しとしなかった。まあこれは強制した訳じゃない。ラムと俺とソレイユ様が自主的に行っただけだ。でも国のトップがそんな食生活なのに、他の貴族がパンばっかり食べてます~は流石に色々不味いと思ってくれたようだ。
 所謂、俺派……側妃ディエス派の若い所、ハインツやサファイア、プリネラ辺りがあちこちで囁いたのもある。

「陛下と正妃様、側妃様は……雑穀やお芋を日常の食事に取り入れていらっしゃるってご存じ?雑穀は美容にも良いし……きっと賛同すれば覚えはめでたいでしょうねぇ?あ、勿論我が家は当然雑穀スープを頂いてますわ。これがなかなかでして……」

「こういう時に小麦やお金をポンと出せる事こそ貴族の嗜みですわ。ふふ、側妃様ったら「ありがとうねえ、プリネラ嬢」なんて言ってくださって……あ、そのせいか分かりませんが今度お芋のおやつの試食に呼ばれてまして……」

「側妃様は頑張ってる人にとっても優しいですからね!私も一皮向けたようです!何度も陛下へのお目通りもお許しくださって……」

 なんて頼んでもいないので言ってくれるから、貴族達の炊き出しもしょっちゅう行われているし、馬鹿みたいに小麦をため込んでいる貴族もいない。貯めておくより今使った方が後々陛下の覚えがめでたい、と気が付いたのだ。だから帝国内に余剰の小麦なんてない。冷夏がこのまま終われば、雑穀や芋は残るかな?程度だ。

 まあ、セイリオスも怒ったね。民なくして国は成り立たない、アレッシュ様だって知ってる事だ。

「そちらの国と我が帝国の考えは違うようだ。これ以上は無意味、お客様のお帰りだ。丁重にお送りしろ」

「はっ!!」

 騎士達の乱れぬ声が広くない部屋にこだまする。はよ帰れ。
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